colaboは「持ち出し」で東京都支援事業をしたのか?

colabo弁護団が、監査の再調査を受けて持ち出し(自腹)で東京都の支援事業を実施したと主張している。この主張が契約上成立するか検討する。
契約に立ち返って事業範囲を特定した所、金の出し入れに焦点をあてた監査とは異なる結果となっていることを予め断っておく。

Ⅰ 委託事業の事業範囲決定

企画競争は提示された金額で実施する事業内容を、入札では提示された事業内容に対して価格を競争する。このため、委託事業の事業範囲の決定方法は団体の選定方法によって異なってくる。

(1)企画競争(プロポーザル)案件の事業範囲

事業範囲は、競争参加者が企画し提案する。発注段階の仕様書は定性的なものでもよく、発注者によっては業者選定後に提案内容を取り込んだ仕様書に修正して契約を締結する。令和3年の支援事業の夜間見回りに関する仕様書は以下のとおりであり、「週1以上」という最低ラインしか事業範囲は決められておらず、年52回実施するのか100回実施するのかは提案する団体側に委ねられている。

令和3年支援事業の仕様書

企画競争では、提案の前に金額的な条件を提示する。令和3年の支援事業では「2,600万円を上限とする提案」を求めていることになる。

令和3年支援事業の金額条件(募集要項)

(2)入札案件の事業範囲

入札案件では、発注者が事業範囲を決定し仕様書や数量表等でその詳細を入札前に提示する。詳細な事業範囲が決められていることから、入札者は同じ土俵での価格競争をすることができる。もし、支援事業の夜間見回りを入札で行うとすると以下のような仕様書になるであろう。

入札対応の夜間見回りの仕様書例

Ⅱ colabo支援事業の範囲

東京都若年被害女性等支援事業の企画競争や事業計画書は「2,600万円でcolaboの事業全部を実施する」という条件は課されていない。colabo弁護団の声明は課されてもいないこの条件を前提としている。

(1)企画提案と事業計画

令和3年度の企画提案においてcolaboが提案した企画内容は以下のとおりであり、colaboはこれを2,600万円以下で履行する義務がある。

R3 colabo企画提案

更に東京都若年被害女性等支援事業では契約後に提出させる事業計画書も拘束力を持つ。仕様書において上限額2,600万が上限と示されており、事業計画書もその範囲内で履行できるものでなくてはならない。colaboが提出した令和3年度の事業計画書は以下のとおりである。

R3 colabo事業計画書

事業計画書では具体的な声掛け人数等の実施見込み数も記載しているため、アウトプットの数量的なものはこれが契約のベースとなる。
なお、仕様書では「本事業の執行にあたっては、「実施要綱」及び事業計画によること」とされており、承認された事業計画書は受発注者双方を拘束する。

(2)仕様書の拘束範囲とcolaboの理解

仕様書に該当する事業が必ずしも東京都委託事業の範囲に含まれないことは、colabo弁護団の説明書でも表明している。中長期シェルターは東京都支援事業の仕様書の範囲にはあるが自主事業としている。

Colabo及び仁藤夢乃さんに対する誹謗中傷等について

事業計画書でも中長期シェルターは「自主事業」としており、自主事業に繋ぐまでが事業範囲となっている。この弁護団声明に関しては契約と整合的であり問題がない(ただし、経費に中長期シェルター分が含まれてないことは別途確認する必要あり)。

R3 事業計画書(中長期シェルター部分)

Ⅲ 「持ち出し」理論と契約との整合性

(1)支援事業の事業範囲は団体側の裁量

上限金額に応じた事業範囲の設定が実際に団体側に委ねられていたことは、中長期シェルター以外にも暇空氏のBONDの指摘をみればわかる。受託金額の増額にも関わらず事業計画書の数量は下がっている(別の問題があるが)。

(2)東京都支援事業の範囲内だが「持ち出し」はcolaboの自己都合

弁護団声明は持ち出しを強調する。しかし、「2,600万円でアウトリーチ5,000人、居場所提供50人、自立支援50人を行う」と提案・計画したのはcolaboであり、「2,600万円でアウトリーチ500人、居場所提供20人、自立支援30人を行う」でもよかった。決して東京都から要求されたものではない。自らの計画の見込み違いを「持ち出し」と宣伝するのはいかがなものか。

令和3年度会計報告に関する東京都の再調査結果を受けた声明

「持ち出し」としているが、他の寄付金や交付金の事業として費用は手当されており、団体内部では別事業として原価管理をしてるはずである。また、これまでの事業収支からすると他の財源で手当することは提案・計画時に織り込み済みだったと考えられる。このため、持ち出しの弁護団声明に「赤字覚悟でサービスしておきまっせ」のセールストーク以上の意義を見出すのは難しい。
仮に金融機関から借り入れをしなければならない事態であっても「見積もりが甘かったね」で終わる話である。

(3) 住民訴訟の行方

監査及び再調査は、契約の権利義務に立ち返ることなく事業範囲の定義を曖昧にしたまま、結論に合わせた経費の出し入れをしており混乱を招いている。住民訴訟や会計検査では、原点である契約に立ち返った議論がされると思われ、再び拘束力のある事業計画書の経費に焦点があたることになるのではなかろうか。colaboはこの経費内訳で「アウトリーチ5,000人、居場所提供50人、自立支援50人を行う」と東京都に約したわけである。

R3 事業計画書(費用部分)

例えば「法定福利」の扱いを見てみると、この事業計画書では人件費に対して過大に見積もられている。法定福利は人件費に従属するものであり、「過大ではなく適正だった」とする理屈は思いつかない。
また、エアコンではなくPCだった件についても協議に基づく事業計画書の変更はなされておらず不可とされる可能性が高いように思う。
受注者は協議によって内訳を変更する権利を有している。この権利を行使せず事業完了後に実態との乖離が判明した場合は、上ブレしていても認められず、下振れしたものは不履行として処理されるのが普通であろう。

Ⅳ その他

(1)「公法上の契約時」の問題

企画競争を実施していないH31,R2,R4年度の事業では企画競争を実施しておらず、各団体の企画提案の競争は存在しない。事業範囲を決定するのは契約後の事業計画書のみである。信頼関係が築かれている民民の契約で「2,600万で契約したので、金額に見合った計画書を出して」は成立するかもしれないが、公共事業では公金管理のあり方として不適切である。BONDが契約額の増額にも関わらず年々事業計画書の数量が下がる(他の団体も増額に比した計画数量のアップはない)のは、このような契約と事業範囲決定の順序が逆転していることも一因であろう。

(2)契約に立ち返ろう

監査結果が出る前の状況を思い出すと「費目間流用」が大きな争点となっていた。colabo弁護団結成後に事後的に提出された支援事業の管理台帳(表3)も事業計画書の内訳に沿ったものであり、計画書の拘束力を暗に認めたようなものになっている。契約内容を蔑ろにした議論となったのは監査が「合計2600万円以上なら問題ない」としたことが原因である。契約事業範囲を特定することなく「支援事業」「他事業・自主事業」の区別はできない。監査委員に契約に精通した弁護士等が入ってないのも問題であろう。
繰り返すが、住民訴訟や会計検査では契約の原点に立ち返った合理的な議論がなされることを望む。

(3)団体活動と契約を混同してないか?

「colaboの活動全てが本来役所で実施すべきであり、税金で賄われるべきである」との考えに陥ってないか?「持ち出し」もそうだが、決算対応の税理士費用を計上するのも管理費の法定福利や人件費を計上してしまうのも、混同していることが原因では?
以前指摘したがcolaboの活動の大半をカバーする仕様書もそのように錯誤させる原因ではなかろうか。


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