異質なる東京都若年被害女性支援事業の事業者選定
暇空氏から提供頂いた開示資料からH31,R2,R4年度の東京都若年被害女性支援事業は入札、企画競争又は随意契約理由もなく委託先と契約していることが疑われた。公共調達において考えられないことであり、最初の記事では「妄想」としていた。
しかしながら、契約の決裁書に契約理由が記載されていたことから、事実と確定したものとして記事の大幅な見直しを行っている。
※浜田議員の末永秘書が令和4年度の都の契約決裁書類を公開されました。
→参照
Ⅰ 事業者選定プロセスのない契約
入札、企画競争や随契理由等の事業者の選定プロセスのない東京都の理屈を整理する。
(1)事業者選定結果・契約状況の整理
支援事業各年度における事業者先選定及び契約状況を表のとおりである。モデル事業当初の平成30年度及び令和3年度事業については企画競争にて事業者選定を実施している。しかしながら、平成31年度、令和2年度、令和4年度については事業者選定プロセスを踏むことなく契約している。
(2)「公法上の契約」による選定プロセス省略
地方自治法では、契約の相手方の選定は入札(総合評価含む)による競争か随意契約しかない。しかし、東京都では「公法上の契約」であれば、自治法の規定には拘束されないものとして運用しているようである。東京都の「契約事務の手引」では、要領や通知を根拠とする契約を公法上の契約としており、厚労省の支援事業の実施要綱をもって公法上の契約としているようである。
司法では、公法上の契約であっても地方自治法の契約節に準ずるとする判断が下されている。このため、公法上の契約を理由とした事業者選定プロセスの省略は許されないものと考える。未見ではあるが、東京都の「契約事務の手引」の早急なる改定が必要であろう。
なお、公法上の契約とする根拠の文書について開示請求中であり、契約事務の手引は後日入手できる可能性がある。
(3)平成31年度、令和2年度、令和4年度の事業者契約
平成31年度、令和2年度、令和4年度の契約決裁文書に記載されている事業者の決定理由は、「前年度の事業評価委員会で受託団体として適格性が認められている」となっている。
なお、決裁文書には随契の文言はなく、随契の手続きに必要な随契理由書や見積書の添付もされてない。
しかしながら、事業評価委員会は実施中の事業評価が目的であり、次年度業務の適格性評価を目的としない。実際の評価表も実施中の事業に対する項目しかなく、信頼性等「団体」としての評価も行っていない。これを次年度契約の事業者決定に使用するのは公法上の契約としても目的外使用である。
地方自治法契約節に基づく業務や工事において「前年度の検査に合格しており適格」は随契理由にはならない。公法上の契約でも自治法契約節に準じるとする司法判断とも相容れない異質な契約手続きである。
Ⅱ 令和3年度事業の企画競争について
(1)企画競争の必要性
各年度の事業者選定結果の一覧を再掲する。「公法上の契約で前年度業務が不可でなければ継続」という論理であれば、令和3年度事業のために企画競争を実施する必然性はない。しかし、契約枠を4に増加させており、「前年度業務で適格」の理由が立たな新たな事業者のため企画競争を改めて実施したと思われる。
令和3年度事業ではライトハウスが外れているが、企画提案書を提出したのは4団体のみでありライトハウスは提出してないと思われる。ライトハイスが令和3年度事業への不参加を令和2年度に東京都に伝えていた可能性がある(これは問題ない行為)。
企画競争において1減2増、1増の何れを目途に4枠にしたのかは不明であるが、次項に示すとおり増加枠に若草プロジェクトを想定していた可能性が高い。
(2)若草プロジェクトに有利な企画競争条件
若年被害女性支援事業のキー事業であるアウトリーチ支援について、令和3年度に仕様書及び東京都の実施要綱の見直しが行われている。
「深夜巡視」に変えて「常設の相談室」でも可となっている。令和3年度事業の評価委員会資料の各団体アウトリーチ実績は下表のとおりであり、若草プロジェクトだけが「常設の相談室」を実績計上している。実施要綱及び仕様書変更の恩恵を受けたのは若草プロジェクトだけということになる。
(colabo弁護団がこの追加仕様を説明に用いているが、colaboにその意図がなかったのは下記の実施状況表が示している。参考)
受注後の実施報告では若草プロジェクトの夜間見回りは月に1回となっている。まちなか保健室は遅くても20時までであり、仕様書の改定がなければ「週1回以上の深夜の繁華街の巡回」を満足できなかったであろう。
また、この記事によればまちなか相談室は令和2年7月に開設されてようである。応募資格として3ヶ月以上のアウトリーチ実績が求められており、実施要綱の改定がなければ応募資格さえなかった可能性がある。
偶然にしては出来過ぎであり、仕様書の改定がたまたま若草プロジェクトに有効だったのではなく、若草プロジェクトをターゲットに実施要綱及び仕様書の改定を行った可能性が高いと考える。特に不落・不調が危惧される発注に対して潜在的受注者の意見を発注者が公告前に聞くことは時々あり、不法ではない。しかし、そのような調査をする場合は幅広に意見を聞き、特定の団体のみが有利になるような見直しはしないのが原則であるが、東京都のそのような活動や配慮は確認されない。今回の仕様書改定が不透明かつ不公正とされても仕方がないであろう。
また、厚生労働省の実施要綱では「常設の相談所」の条件緩和はなされていない。性の被害は深夜発生する確率が高く、被害を水際で防止するたためには深夜のアウトリーチが必須だと考える。穿った見方かもしれないが、東京都は若草プロジェクトを加えるために事業全体のスコープを曖昧にしてしまったように思う。
なお、若草プロジェクトが加わった令和3年度事業から当初の上限額が倍々ゲームになっているのは偶然なのだろうか。
(3)ぱっぷすのアウトリーチ参入時期と応募条件
令和3年度の応募要綱に示された応募条件は以下のとおりであり、直近1年で3ヶ月程度の「4(1)夜間見回り等」の実績が求められている。
この夜間見回りの活動についてぱっぷすは、2020年(令和2年)の冬から開始したと自らの著書に書いている。
応募条件と参入タイミングが完全にシンクロしている。毎年、同一条件で企画競争を実施していれば、このような行動を団体が行うことも考えられる。しかし、この事業については企画競争は3年ぶりであり団体側が実施を予測することはできない。
常設の相談室の件を含めて、東京都が新たな事業者を探るにあたり特定の事業者が有利になるような仕様としなかったか、一部事業者のみに情報が漏洩し利することがなかったか、検証が必要ではなかろうか。
Ⅲ 東京都の事業者選定の問題点等
(1)公法上の契約での自治法排斥
司法判断では、公法上の契約を理由とした自治法排斥は認められていない。ただ、状況的に地方自治法上の随契理由は作れたと考えられ、事業者選定のみからすれば公法上の契約とする必然性はなかったように思う。随契でも公法上の契約でも構わないが既存団体が継続的な契約を確保し、政治家へのロビー活動、メディアへの露出及び厚労省検討会委員の立場を活かして以下のようなシステムが構築されているのが問題だと思われる。
杜撰な監督・検査(これも「公法上の契約」が根拠の可能性大きく、仁藤氏の2018年ツイッターにあるクレームで更に形骸化)
効果の検証がされておらず経費がブラックボックスな状態での増額
公金管理や事業実態把握に必要な活用者の個人情報や領収書等の開示拒否(仕様書は都に提供することが前提)
(2)潜在的事業者の排除(不公平・不公正)
極めて短い公募機関等、潜在的事業者の事業参画機会が奪われており、公平性に疑義が生じる。また、新たな参加者を排除することによって、既往団体のコスト低減や品質向上のインセンティブがなく、都民へのサービスレベル低下も懸念される。
(3)厚生労働省要綱の逸脱と事業の非効率化(まちなか保健室)
繰り返しになるが厚生労働省の実施要綱ではアウトリーチに「常設の相談室」は認められていない。若草プロジェクトのまちなか保健室は繁華街とは言えない立地条件、20時までという開館時間、予約という「待ち」の姿勢、メンバーズカードという「慢性的対象者」を想定した運営からすると、性被害の水際対策としての夜間見回りの目的に合致してないように思う。
(4)官製談合防止法
入札も競り売りも何も競争はしてないので抵触しないという整理なのであろう。ただ、契約の継続が約束された団体のロビー活動で根拠なく契約額が上がっていき、検査もおざなりでは官製談合より酷いと思われる。
(5)令和4年度事業の住民訴訟
何ら事業者選定プロセスを踏まず「公法上の契約」を理由に既存4団体と契約した令和4年度事業について、住民訴訟されたら勝てる見込みは小さいのではないか。
なお、住民監査では都の監査委員は都ルール(公法上の契約)を容認するように思う。
(6)オンブズマンの活躍への期待
随意契約等、公共機関の契約の不透明さや不適切さについて先頭に立って舌鋒鋭く切れ込むのは、いつもオンブズマンである。今回は随契理由さえない契約であり、オンブズマンが暴れまわれる舞台が既に整っている。彼らの活躍に期待したい。戦え我らがオンズブズブマン~。
雑感
福祉保健局が公法上の契約とした主要な動機は事業者の固定ではないように思う。というのも随契の理由が立てやすい事業なので素直に随契にすればよかった。事業者選定ではなく検査に対する福祉保健局の責任軽減がその目的だったのではなかろうか。また、このようなレアな調達は顕在化すると多方面から突かれやすく行政として選択するメリットがなく、政治家等からの圧力(特に検査や書類面)が疑われる。
若草の参入に関しては、若草自身が語るようにまちなか保健室の開設タイミング、応募資格(実績要件)、仕様書改定内容と受注時期が絶妙である。東京都と若草の情報交換時期と内容が気になるところである。
ぱっぷすの参入にあたっても夜間見回りの応募条件とぱっぷすの活動開始時期が完全にシンクロしており、東京都の情報管理が適切だったか検証が必要だと考える。
夜間見回り実績を有する新規事業者がみあたらなかった場合、無理に仕様書の改定をしたりするのではなく、応募の実績条件をなくして夜間見回りに対する提案を求めて間口を広げるべきであったと考える。たった3ヶ月の実績ではノウハウとは言えないし、常設の相談室は厚労省の要綱に合致しない。
主要な修正履歴
2/18 「(3)ぱっぷすのアウトリーチ参入時期と応募条件」と雑感の追加
2/5 雑感に若草の事業報告を追加
2/3 令和4年度の決裁文章を公開した末永秘書へのリンク追加
2/3 真剣に読まれてる方がいるようなのでオンブズマン関係修正
2/2 雑感追加
2/2 応募資格追加、「公法上の契約での自治法排斥」を修正
1/30 選定プロセスのない契約について「妄想」から事実認定に変更。若草プロジェクト部分を追加
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