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レプリカ オードトワレメモリーボックスの感想

アットコスメはポイント欲しさに毎日チェックしてしまうのだが、その度に香水ランキングの頂点で王様椅子にどっしり腰掛けるレイジーサンデーモーニング君が「わいや、ナンバーワンや。君も当然持っとるやろ?」と心に直接語りかけてくる。いや、持ってないです……っていうかマルジェラの香水って若い人向けじゃん。高評価してるレビューも大体18~23歳だし。ウィスパーインザライブラリーは持ってるけど、先輩が洗面所でコーヒーブレイクのミニボトルを粉砕して泣いてるのを見てからずっとしまってあるし……

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そう、マルジェラの10mlボトルはガラスの層が見えないくらいクッッソ薄い。握っただけで割れそう。プレパラートの生まれ変わりか、はたまた10代のハートの繊細さを表現しているのか。とにかくカバンの中で爆発するのが怖くて持ち歩き不可能。

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一方、私達のディプティック7.5mlボトルを見てみると、底の部分が特に分厚く作られているのがお分かりいただけるでしょうか。しかもディプティックのディスカバリーセットには持ち運び用の細い布袋がついてるんだよね。こういうユーザー視点に立つ姿勢が君たちには欠けているのではないですか? 今年のクリスマスコフレも「レイジーサンデーモーニングにごっつい革ケースつけたるわ!!」ってなんで100ml買う前提なんだよ。1ヶ月に日曜日4回しかないのに使いきれるわけないだろ。色んな所が私の消費者心理とずれているのでnot for me、そういうことなんですわ。

すると、レイジーサンデーモーニング君が「うんうん、君の言うことももっともや。日本人が100mlあんま買いたくないことはワイもよう知っとる。君らが本当に必要としているものはこれやろ?」と懐から箱を取り出す。

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えーっこれだよこれ! ディスカバリーセットなんてあるんだ! もっと早く言ってよ……「日本人はホンマにディスカバリー大好きやなあ。焦らんでええ、アットコスメで11月28日20時から予約開始じゃ、全裸で待機せえ」

レイジ君の言葉にまんまと乗せられ、28日の時計が20時を指した瞬間にadd to cart、お支払い情報入力、pay payの決済音は勝利確定のゴング。この間30秒。香水のディスカバリーセットは大体争奪戦になり、受付開始即サイトが落ちるというのをサンタ・マリア・ノヴェッラで体験していたので、「この失敗により次の失敗はなくなる」と「夜間飛行」のリヴィエールのように険しい顔で過ごしてきた日々がようやく報われた感があった。案の定、30分後くらいに放火魔みたいな気持ちで覗いたら売り切れていた。ディスカバリーって何でこんなに供給が少ないんだろうね……

レプリカ オードトワレ レイジー サンデー モーニング

開幕レイジ。表参道のポップアップショップで試したときは、ライチの香りだなあ……少なくともシーツやコットンではないなという印象だった。あれから数ヶ月、嗅覚も若干鍛えられ、今なら洗いたてのリネンが分かるかもと期待しながら一吹き。

これは! コインランドリーから出てくる、熱いシーツのむせるような煙たさ。良く言えばホッコリ感。布団を叩いたときの埃の匂いにも似ていて、下手に深呼吸すると本当に咳き込んでしまいそう。次第に柔軟剤のようなフローラルな甘みが出てきて、アメリカのホテルで洗濯機を使ったときの楽しい思い出が蘇ってくる。ホテルのリネンはここまで甘い匂いはしないし、日本の洗剤とも少し違う。公式の説明にある通り、イタリアのフローレンスで洗濯をすると、本当にこういう香りがするのかもしれない。香り自体が主張してくることはほぼ無いが、乾燥したての熱いリネンが発する蒸気が肺にスッと入り込んでくるような気持ちよさがあり、いい意味でつけていることを忘れる香り。

レプリカ オードトワレ バブル バス

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バブルでもバスでもない…IKEAで30個400円で叩き売られているキャンドルの匂いがする。ココナッツや杏仁の甘さを植物油脂でねっとり固めた感じ。お風呂でキャンドルを炊く人もいるようだから、これはシャボンの清潔感よりも、バスタイムのお楽しみを表現しているのであろう。つけて最初の10秒くらいはIKEA気分を味わえるものの、キャンドル売り場に長居すると気分が悪くなってくるように、こちらもつけてすぐ前頭葉のあたりがイライラしてくる。これを打ちながらマジで頭痛がしている。

「世界香水ガイドⅢ」でルカのおっさんが「悪夢のような巨大キャンドル」って言ってるレプリカがあったけどこれだっけ? と思ったらファイヤープレイスの方だった。これよりでかいキャンドルが出てくるとかマジか。

レプリカ オードトワレ バイ ザ ファイアープレイス

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悪夢のような巨大キャンドルの画像を探したんだけどこれしか無かった。レイジーサンデーモーニング君のキャンドルセットを見たときも思ったけど、何で海外ってやたらキャンドル推しなの? うちみたいに築40年の家じゃ全焼しそうで使う気になれないし、アドベントカレンダーに11個もキャンドル入れられても困るよ……それはさておき、一体どんなクソデカろうそくが襲来してくるのか怯えながらファイアープレイスを一吹き。

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焦げくさ!! ってかキャンドルどころじゃない! 巨大な火だよこれは。つけたてのガツンとくる苦味は、とても鼻を近づけられるものではない。落ち着いて何秒か待つと、徐々に燃やした木の香ばしい甘みがやってくる。囲炉裏の炎をじっと見つめたときのように、頬やまぶたの裏まで熱を感じる。少しオイルのような重い香りもあって、アルコールランプの炎に手をかざした悪ガキの頃に思いを馳せる。ここまで火の香りに振り切ってると、かなり個性的でいいと思う。火属性の人におすすめ。

レプリカ オードトワレ ジャズ クラブ

農林水産大臣・マイルスデイヴィス。雑居ビルの地下、知る者だけが知る隠れ家的ジャズバーの重い扉を開けると、中は薄い雲のようにシガーの煙がたちこめている。グラスが触れあう音、革張りのソファの光沢、辛味のあるお酒の香り。こいつは大したジャズバー香だぜと感心していると、レザーとタバコは早々になりをひそめ、氷で薄まったウイスキーだけが割と長めに6時間以上続く。少し気になったのは、ジョーマローンのインテンスシリーズによくある根昆布っぽい生臭みのある基剤臭?が現れてくるところ。冬は比較的きれいに香るが、ヒーターが当たる車の中や、体温が上がりがちな部分に付けるとこれが出てきやすい。トップはうまく出来てるけど、ミドル以降はさっさとお開きになったテーブルに飲みかけのウイスキーだけが残っているような残念な感じ。

レプリカ オードトワレ セーリング デイ

さわやかな薄青の液体を見て、これはもうウルトラマリン確定ですわと決めつけてプッシュ。そうそう、このちょっと甘くてカロンな感じがね……ってなんかすっごい塩と巨大岩が見えてきたぞい! 甘くて軽いのは一瞬だけで、つけて30秒もするとプラスチックが焼けたようなエグいミネラルの香りが主張し始める。そこに見えるのは沖合の岩礁に砕ける波、打ち付けられる巨大な昆布……しかしアッコトスメを見ると「爽やかな海の香りです♡」「彼氏にプレゼントしました!」みたいな浅瀬でパチャパチャ水を掛け合う若者のコメントしか見当たらない。リゾートに遊びに来たはずなのに、何で私だけ沖に流されてるん? ノートの表記を探してみると、下記の通り

トップノート:アクアティック、アルデヒド、ジュニパー
ミドルノート:コリアンダー、アイリス、ローズ
ベースノート:レッドシーウィード、アンバーグリス、アンバーウッド

全然わかんない……鼻を刺すエグみはコリアンダーとローズのいたずらなんだろうか。アンバーグリスはたしか岸に漂着するクジラのうんちだったはず……クジラの体から解き放たれ、海上を長い間漂い、たどり着いたのは岩と海藻以外は何もない荒涼たる無人島。そんなアンバーグリスの厳しい旅路を思わせる孤独な海の香り。夏につければまた違うかも。

レプリカ オードトワレ ウィスパー イン ザ ライブラリー

去年の7月頃、まだ香水にハマる前に表参道のレプリカポップアップショップでこれを買った。高級紅茶店のようなディスプレイに興奮し、あれもこれもと嗅ごうとしたところ、「4種類以上はもう嗅ぎ分けられませんよ」と白衣のお姉さんにやんわり静止され、ちょっと恥ずかしかった(たぶん嗅覚云々は建前で、大人気すぎてすぐ人が並ぶからだと思う)。試香したレイジ、抹茶メディテーション、コーヒーブレイク、ウィスパーインザライブラリーの4つの中からこれを選んだが、今振り返ってみると良いチョイスだったと思う。

ウッディバニラというと一見重そうに感じるが、咳止めシロップのような甘みに白檀だかアニスっぽい清涼感が安定して続いて、とてもつけやすい。今回のセットで試した10本の中では、全体的に持続が短い上にラストに残る香りが歯抜けっぽくて微妙なものが多かったが、ウィスパーは持続・残り方ともに申し分ない。

しかし図書館の香りかと言われると全然……ウィスパーはカラッと乾燥していて、店主のコーヒーやタバコの匂いが混じって甘い匂いがしている古本屋に近い印象。自分が知ってる図書館の香りは、じっとり湿った灰色のじゅうたんと酸っぱい本の匂いがして、なんというか悪臭に近いので(普段どんな図書館使ってるんだよ)この香りを忠実に再現する必要は全くない。でも、イメージ元のオックスフォードの図書館はきっとこんな素敵な香りなのかもしれないね。

レプリカ オードトワレ アンダー ザ レモンツリー

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さわやかサワデー! 柑橘の香水は、トイレを連想させることだけは絶対避けなければならないと思うのだが、もしかすると海外にはトイレの芳香剤という文化がない……? しかし、つけていることが恥ずかしくなるくらいトイレである。トワレなので当然拡散する。あたし、周囲にサワデーの伝道師だと思われちゃってる? 鼻を近づけると、なにやら金属っぽいえぐみもある。これはレモンの木のグリーンを表しているのだろうか。このままサワデーと鉄パイプが遠のいて減衰。通常の体温とお風呂上がりの体温で試してみたが、この感じは変わらない。夏になればもう少し綺麗に香るかもしれないので、暖かくなる日を待とう。

レプリカ オードトワレ スプリングタイム イン ア パーク

浮かれた薄ピンク! どうせ若向けなんでしょう!?(ブランド自体がそうだよ)春の公園なんて言ってても、すぐベリーやバニラが出てきて都会にパンケーキ食べに行くデートになっちゃうに決まってるんだからッ。むしろそういうフローラルが好きだからそっちを期待してたんだけど、スプリングタイムは一種類の花が表情を変えずにずっとそこにある感じ(ラストにバニラもクレジットされてるけど全然わからん)。トップの洋梨がクールなお花とマッチして、花粉のような淡い香りを生み出している。公園というほど野性味は感じられず、デパートの美術展覧会の入口で香るスタンド花のようにお行儀がいい。最後は段々とウォータリーさが増して、イビザヒッピー的な懐かしい平成フローラルに落ち着く。

グリーン感を抑えて、シンプルに清潔に花のきれいなところだけ香る感じが、オフィスや打ち合わせといった誠実さをアピりたいオケージョンにはいいのかなと思いました。就活・新卒の若者におすすめ。

レプリカ オードトワレ アット ザ バーバー

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自分がPEANUTSの香水をプロデュースするとしたら、芝生っぽいグリーンと仄かな土の香りのトップ、犬小屋のウッディ、アニマル強めのムスクでスヌーピーの気配を感じさせるミドル、彼の好物チョコチップクッキーの香りで嗜好性を加えたラスト、名前は「The world famous beagle」で決まり。これじゃ店頭ではトップノートだけで「は?」と思われて売れないだろうから、同時に、意地悪だけど憎めない女の子たちの香り「Crabby little girls」も発売する。ルーシーをイメージしたシトラス(作中でちょくちょくレモネード作ってるから)と、ヴァイオレット(上のコミックで父自慢をしてるお団子ガール。年上ゆえの陰険さと繊細さが特徴)のスミレをアクセントにした香り。

で、3作目辺りで俺たちのチャーリーブラウンの香りを出す。彼の父は床屋なので、イメージとしてこれを取り入れるのはアリだろう。ちなみにシュルツ曰くチャーリーはスキンヘッドではなく、あまりにも綺麗な金髪なので薄く見えるだけとのこと。この完璧な丸頭をキープするには、結構頻繁にカットしていることだろう。

しかし、リアルな床屋の香りを身に纏いたいかというと、うーん。このアットザバーバーも例によって、ラベンダーとローズマリーが良さを出しきれずトニック化して、「これはチャーリーの実家の匂いなんだ」と考えようとしても、知らない紳士のつむじが近くにあるような不快感のほうが勝ってしまう。もしチャーリーの香りを作るとしたら、床屋部分は観葉植物とお湯の香りで清潔感を出すにとどめて、メインはジュニパーベリーとスイートなウッディで繊細なハートのきらめきを表現したガラス細工のような香りにするべきだろう(マジで何の話?)

余談だが、ジョーマローンのサイプレス&グレープバインが特にこの苦手なトニック部分を凝縮しており、インテンスシリーズ独特の濃厚さも加わって、前頭葉のあたりがグッと締め付けられるような辛さがある。自分が幼少期からたまに見る悪夢「タイヤ工場で働いているうちに巨大タイヤに潰されてしまう夢」に出てくるタイヤの匂いがする。いつか店頭で再挑戦しようと思っているが、まだ勇気が出ずにいる。

レプリカ オードトワレ ビーチ ウォーク

日焼け止めやサンオイルのココナッツ臭と散々言われていたので、ギャルの香り怖い……と震えながら一吹き。確かに甘い。しばらくすると「創業者のひとりイヴ・クエロンは、父が建てた小塔があるハロン湾のドソンの海辺で子供時代の夏を過ごしました」という聞き覚えのあるモノローグが脳内に流れてきた。これって……ドソンじゃん! ココナッツじゃなくてチュベローズじゃん! 

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自分の中でココナッツといえばミスドのこれなので、ビーチウォークの香りと全然結びつかなかったというのもある。どことなくグリーンを感じるし、海辺を歩きながら南国の甘い花の香りに心が踊る感じ。ドソンほどゴージャスなハーモニーでもないので、普段着でも気軽につけやすい。10本の中ではウィスパーの次に好き。思いがけず黒ギャルに落とされてしまうとは……ミスドのココナッツも日焼けしたお尻にくっついてる砂みたいだし。あえて冬にココナッツを楽しむのも悪くないね。

というわけで、1ヶ月かけてやっと全部試し終わりました。夏にショップに行ったときは抹茶とコーヒーブレイクがいい感じで、生花系も好きだからフラワーマーケットも気になるな~と思っていたのだが、そのへんは見事に入っていなかった。しかしこういうセットは普段試そうと思わないやつが入っているから面白いのである。

ちなみにマルジェラのお洋服のほうは、去年の秋に初めてエルボーパッチカーディガンを古着で買ったんだけど、結局手持ちの服に合わず一度も着ていません。No.5を買ったからといってシャネルの服をすぐには着れないように、オシャレの階段を上るにはまだまだ経験値(と財力)が足りていないということか……

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