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サンタ・マリア・ノヴェッラ ディスカバリーキット Firenze 1221の感想

全然買えない。ディスカバリーセットとは得てしてそういうものである。こちらのフィレンツェ1221くんも例にもれず、ディスカバリーセット絶対欲しいマンの我々をたいそう手こずらせた。

10月20日の発売日、公式サイトの決済ページが1990年代のインターネット並みに激重で、PCとスマホをカメレオン的に凝視しながら40分のあいだF5連打しつづけ、その日は結局購入できなかった。ディスカバを手に入れようとする人々による熱烈アクセスは、ペスト流行のさなか薬売りの屋台に樟脳を求めて殺到する民衆のよう。サンタマ薬局は~ん! しっかりサーバー増強しておくんなまし! 1ヶ月後、渋谷パルコで再販との報を受けるも、発売日の午前中に完売し買えず。それからさらに1ヶ月後、池袋西武で再再販があり、有給とって朝一で張り付いてようやく入手したのであった。

ってかお値段が3124円ってどう考えてもお安すぎる。クルジャンみたいに6000円くらいに設定して1週間は在庫が残るようにしたらどうかな……(別にクルジャンdisでわない)いくら本体が安くても、買うためにかけた時間を考えると10000円分くらい払っているような気がするッスよね~スッスッ

アックア・デッラ・レジーナ

知り合いのシティボーイのお兄さんが「サンタ・マリア・ノヴェッラのサンタ・マリア・ノヴェッラがよかった」と言っていたので、新手の哲学かな? と思ったが、店頭で「サンタ・マリア・ノヴェッラの香りを……」とお願いしたらこれが出てきた。名前が変わったらしい。ちょっとムジーナっぽい。

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トップの清潔感、あたしこれ知ってる! ベルガモットでしょう!? (ゲランで頻出するから覚えた)と勇み足でノートを確認したところ、イタリアンシトラスフルーツ……?

香調:ヘスペリデート(柑橘系)
トップ:イタリアンシトラスフルーツ、ネロリ、プチグレン
ミドル:ネロリ、ローズマリー、クローブ、ラベンダー
ベース:パチュリ、ムスク

ベルガモットも主産地はイタリアだし、まあ8割正解みたいなもんよ。それ以外にもいろんなみかんが集まっているんだね。ネロリメインの香水は苦手だなと思っていたけれど、こちらはネロリの薄甘さが柑橘やハーブを優しくまとめ上げていてステキ。植物界のムスクって感じ(?)。サンタマお得意の薬っぽさが適度に硬派な感じを醸し出してオフィス向き。ただしつけて3分でつけたことを忘れるくらい香り立ちが儚いので、髪とかお洋服に吹いたほうが良いのかなと思いました(それとも一度に5プッシュくらい浴びるのが正しいのか?)

フリージア

一言でいうときれいなお姉さんの香り。故に、ないはずのコンプレックスを刺激されるのでかなり苦手。今やほとんどの日本人女性がつけているのではないかと思われるJMのイングリッシュペアー&フリージアに対しても似たような感情を抱いている。

都内で電車に乗っていて思うのは、最近の若い女性がみんなモデル並みに美人だということだ。生まれたときから色素が薄いんですと言わんばかりの細くて柔らかな茶髪、パッチリした二重、努力では得られない縦長の綺麗な爪……膝下の長さも、我々世代と2000年以降生まれでは明らかに違う。そういう完璧な女の子たちから香るのが、このお化粧の粉っぽいフリージアの香りだ。

自分が学生の頃は、もっとノーメイクの女性や、どこで売ってるんだそんな服……みたいな変な格好をした人がありふれていたと思う。まあこれは現在学生当事者でないために、今の若者の個性を見分けられないだけの話なんだけど。もし自分が、ぱっちり二重でまっすぐの細い髪でKPOPアーティストのようにスラリとした手足だったら……間違いなく、徹夜で美少女イラスト描いて寝坊して1限のキリスト教概論に遅刻して遅刻者専用席に追いやられるという辱めを受けるような学生生活は送っていなかっただろう。

別に今の外見に不満があるわけではないが、もし違う見た目に生まれていたら、違う人生があったという当然の話。華やかで、パウダリーで、「普通に美人」な女性の香り。でも自分はこういう人生を選ばなかった(選べなかった)な~と、考えなくていいことを考えさせられる独特な香り。

ローザ・ガーデニア

ガーデニア系の香水は甘くて苦手だが、ローズという高貴な素材と合わさることによってさらに精神的難易度が高くなっている。甘くてキュートでいい香りなんだけど、それに見合うボディをもっていない(さっきのフリージアからそんなんばっかだな)。まあ公式サイトによれば求愛と征服の花のダンスだからね。求愛と征服に興味が出てきたらまたつけてみたいと思います。

ローザノヴェッラ

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春の雨をたっぷり吸いこんで、瑞々しく咲くローズ。肌から30cmくらい離れたところで優雅に香る。これがコロンの拡散力……ッ! 持続もディスカバの中ではダントツに長い。常におしゃれに気を使っているももかっぱちゃんのお兄ちゃんみたいな人ならともかく、くたびれたスーツの会社員がこんな香りを発しているのはラッピングされた雑巾のような滑稽さがあり辛い(今日の私のことです)。

家の棚にも様々なローズ香水があるが、パッと思いつくものはやはりめちゃくちゃ個性がある。ルラボのROSE31はドライフラワーに水を一滴垂らしたような濃厚さで喉が渇くローズ、ナエマは百貨店のシャンデリアを思わせるキラキラローズ、JoMaloneのRed Roseはかむかむレモンみたいに酸っぱいローズ……そしてローザノヴェッラは、水分量業界No.1のうるおいローズである。小学校の流しにぶら下がっている石鹸のように純粋な香りで、冷たく濡れていて若々しい。小学生の娘(いない)のハンカチにかけてあげたい。

エンジェル オブ フローレンス

説明にはフルーティーとあるが、メインで感じるのはオゾンの透明感。宗教画で描かれる石膏像のような天使のほほえみと、柔らかく降り注ぐ金色の後光をイメージする、一段高いところにある甘さ。と思ったら「1996年11月4日に発生した大洪水の後、フィレンツェの心と歴史を救済するため世界中から集まった若者たち『泥の天使』に捧げられています。」とのことで、熱い魂を持ったボランティアたちの香りらしい。天上で涼やかに鳴らされるベルのように儚く繊細な香り立ちからは想像もつかない……

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サンタマの香りは全体的に香りがほのかだけど、こちらも例に漏れず。冬でニットを着たりしていると、ウールの匂いに負けてしまうレベル。ボランティアの若者たちが羊の群れに飲まれていく……季節を変えてまた試したいと思います。

ザクロ

ハハンざくろね。ジョーマローンでもshiroでもポメグラネートの香りは出ているからね。大方酸っぱさ全開の、大胆な赤いドレスに着想を得た官能的な香りなんでしょう(いやにピンポイント)。そう決めつけて、試すのが一番最後になってしまった。ところが、実際つけてみると酸味はほとんどなく、色んなハーブが落ち着いた清涼感をもたらすアロマティックな香り。

公式サイトによると、「この香りは、ザクロの木の象徴的な意味を適切に解釈して作られており、身にまとうと、温かく、心地良い感覚に包まれます。(略)ソロモンの雅歌や叙事詩オデュッセイアをはじめ、古代の民話に、肥沃・豊かさの象徴として登場しています。」とのこと。これがサンタマのザクロ像ッッ……と妙に感動してしまった。例えばアニメキャラの香水を作るとして、普段セクシーお姉さん系で通してる人の香りが、ラベンダーやローズマリーですごい清潔感があったら、いきなりその人の内面の高潔さに触れたみたいでドキッとするじゃん? そういう従来のザクロイメージを裏切るギャップがあって、なんかサンタマというブランド自体がすごく好きになりました。まあいいなと思った香りはザクロもポプリも長いこと在庫切れなんですが……

トバッコ・トスカーノ

白レースの清潔感あふれるボトルと裏腹に、辛めのタバコの香りがトップから重たく主張。下着と靴下を白で統一する真面目なサンタマちゃんがある日いきなりタバコのニオイをプンプンさせて帰ってきたら、不純異性交遊! 不潔! こんなふしだらなことをさせるためにテニス合宿に行かせたんじゃありません! とママに怒られること必至。こんな露骨な煙草の匂いを纏いたいんだったら普通に吸えばいいんじゃと思わなくもないが、若干しょっぱさを含むいわゆる「タバコ臭さ」とは違うのがさすが香水。ベースのバニラが、切りたての煙草の葉の甘い香ばしさを長いこと楽しませてくれる。レザーやウッドがピリッとしたアクセントを添え、煙を強く吸い込んだときの辛味すら表現しているかのよう。ママに怒られたときは、違うの! これはバーチウッドとレザーのブーケなの! とサンタマ語で説明してあげよう。

ポプリ

新三共胃腸薬や葛根湯の中にある一番気持ちいいところ(塩っぽくてスッとメントール感のある部分)の香り。これは最高。ボトルで買いたい。

ある冬の日の朝、これはどうにもしんどいなと思って学校は休むことにして、戸棚に放ったらかされていたそれっぽい薬を適当に飲む。ポットから汲んだ白湯の湯気が立ち上り、温かい日の光が空気中の塵をキラキラと輝かす。そんな静謐な朝の空気がここにはある。ラベンダー、タイム、ローズマリーといった身近なハーブが、通い慣れた病院のような安心感と、ちょっと潔癖ともいえるまでの清潔感を与えてくれる。

でかいボトル買っチャオかな!? とサイトをチェックすると、なんと売り切れている。医療と安心を求めるご時世において、この香りが人気を博すのはなんとも納得いくことであるよ。後日リアル店舗に行ったら、成分検査に引っかかって日本での発売を一時見合わせているとのこと。売り切れの理由はそういうことだったのね……それにしてもサンタマはんは品薄商法がお上手ですなあ。「違うの、私そんなつもりじゃ……」うるせえ! 老舗の箱入り娘だからってお高く留まりやがって。大人の恋愛ってやつを教えてやるぜ。

イドラタンテ ラッブラ

イドラタンテちゃんは、由緒正しいサンタマ家のちょっぴり大人しい次女。看板娘の長女(香水)と比べていささか地味で、レジ横に控えめに佇む姿を見ていると、この子ならイケるかもと軽い気持ちで手を伸ばしたくなる衝動に駆られる。しかし多くの一般市民は、値札を見た瞬間打ちのめされる。「ご、5060円……!?」マツキヨでメンソレータム50本買えるぜ! それでも、手ぶらで店を出るのが何だか気まずかった俺は、「まあ丁度リップクリーム切らしてるし」と5000円くらい何でも無い風に見栄張って購入し、若干身分が不釣り合いな2人の関係が始まった。

大人の恋愛なので、映画を見て手を繋いでとかいうまどろっこしい段階は踏まない。レジから家に直行、無造作にパッケージを脱がし接吻。チューブは直接唇に塗るような形にはなっているが、量が調節しづらく全然出ないかベッタリつきすぎるか極端。2mmくらいの丁度いい量を出すために地味に神経を使うため、なんでリップクリーム一つにこんな集中力使わされるねんとイラついてくる。

最初は好きじゃなくても付き合ってるうちに気持ちが追いついてくるかなと思っていたが、好きでもない相手のために時間とエネルギーを使うことほどストレスが溜まることはない。一つが気に入らないとすべてが気に入らない。値段に見合わないありがちなバニラの香りが、彼女が自分の魅力を磨いてこずのうのうと約800年間生きてきたつまらない女であることを物語っていた。そしてパッケージ。箱は紙がタント系で手触りがよく、シンプルなプリントが老舗の硬派な感じを出していてとてもいい。だが、服を脱いでしまうと、そのツルンとしたプラスチックのチューブはあまりにも安っぽく、箱と同じデザインのプリントは手抜き感満載だ。せめてエンブレムは箔押しにしなよ……大学生協のグッズじゃないんだからさ。

こんな良家の出なのに、デートの日もペナペナに着古したコットン地の下着をつけてくるし、タイツは毛玉まみれ。上質なウールのスカートもしわくちゃだ。育ちの良さは滲み出ているが、ご両親は長女につきっきりだったのか、あまり手をかけてもらったようには見えない。彼女自身も、自分を大切にしている感があんまりない。まあ800歳の女の子に身だしなみちゃんとしろって言うのも変な話だけど……

そんな事を考えながら、3時間位するともう唇がカサカサになってくる。同じ値段でレブロンのシュガースクラブを6本買ったほうがずっといい。でも、俺が愛さなかったら一体誰が彼女を愛するっていうんだ? わかってる。憐憫から来る愛情が長続きしないということは。

今日も俺は、彼女の安っぽいバニラの移り香を唇に乗せている。

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