#5 愛の彼方の変わることなき死/G・ガルシア・マルケス

G・ガルシア・マルケス / 鼓直・木村榮一 訳「愛の彼方の変わることなき死」(ちくま文庫『エレンディラ』収録)

上院議員オネシモ・サンチェスは六ヶ月と十一日後に死を控えていたが、その日に生涯を決定づける女性と出会った。

冒頭の一文で、この物語の主人公の終点を提示されるので、私はその日と書かれている今日から終点までの話がこれから語られるんだなと理解してから読み始めることができた。親切であり、興味の湧く始まりだった。

お金もあり、しあわせを感じていた主人公は、三ヶ月前に医者から死を宣告されてから一変してしまったと書かれているように、やる気がなくなってしまったんだろう。情景についての説明にはどこかトゲがあるように感じる。

もう一人、やる気のない人が出てくる。ネルソン・ファリナだ。彼は最初の妻を殺して死体をバラバラにし、刑務所を脱獄し、このエル・ロサル・デル・ビレイに辿り着いた。ネルソンは身分証明書を偽造したいが、いままでの上院議員は全く協力をしてくれなかった。ネルソンは次の妻との娘と一緒にいた。この娘がすばらしい美人だったのだ。

生涯を決定づける女性とは、つまりはこの娘のことで、ネルソンは娘を使ってオネシモを利用する。オネシモ自身は利用されていると分かっていながら目の前のかわいい女を愛してしまう。まぁいいかどうせ死ぬし、というような感じかもしれない。ネルソンは、娘の下半身に南京錠を付けて、交渉を成立させる。イカれてる!

議員と犯罪者という真逆と言っていい立場の人間が女を愛したことで立場が逆転してしまう。
愛とか恋とかはどんな人でも当事者となればまともな判断ができなくなるのだろう、というより見ないふりをするのかもしれない。

「亭主はどうしたんだね?」と彼は訊ねた。
「ひとやま当ててくると言ってアルーバ島にでかけたのはいいのですが、向こうでダイヤの入歯をした外人の女にひっかかってしまったんです」
その答えをきいて、人びとは笑いころげた。

オネシモ自身のスキャンダルが表沙汰になると人びとに笑いころげられることもなく、罵られ見放され、彼女とも別れてひとり死ななければならない、と書かれている。

彼は自らの運命に怒りを覚え、涙を流すことだろう。

この運命が指す部分は、もしかしたら娘を愛してしまったことではなく自分が議員という立場であることを言っているのかもしれない。もし、彼が一般の市民ならわれもわすれて好きな人と一緒になったとしても、みんな笑いころげてくれたと思う。

愛の彼方の変わることなき死というタイトルもいい。

(ラザニア)