#1 夜の樹/トルーマン・カポーティ

トルーマン・カポーティ / 川本三郎 訳「夜の樹」(新潮文庫『夜の樹』収録)

冬だった。暖かさなどもうどうになくなったような裸電球の列が、小さな田舎の駅の、寒々とした吹きっさらしのプラットホームを照らし出していた。夕暮れどきに雨が降った。そのために出来た氷柱が、水晶の怪物のおそろしい歯のように、駅舎の軒からぶらさがっていた。プラットホームには、女の子がひとりいるだけだった。

冒頭のだけで怖い、不安な空気が分かる。私ははっきりとイメージとして情景が浮かび、この女の子を見つけた。この物語は列車に乗った女の子(以下ケイ)の孤独を描いている。しかし、ケイが何故、よく知りもしないおじさんの葬式にわざわざ知らない街まで出向いたのか。そしてギターをもらって帰ってきたのか。そこに関しては特に説明がない。読み取れるのは、この列車の空気にケイは違和感を持っていて、些細なこと一つ一つが怖く感じていること。もっと怖いのが相席することになった汚い帽子を被った女と耳の聞こえない男。いらないって言っても酒を無理やり飲ませてくるし、桃の種のような物(愛のお守り...)を売りつけてくる。男が自分に催眠術をかけ棺桶に入って土に埋まり、蘇るという見世物のようなことをしてお金を稼いでるらしい。怖い。ケイはこの二人の細部まで嫌悪感を抱いているし、その嫌悪感を抱いた自分に罪悪感を覚えちゃうから飲めない酒を飲んで泣いちゃうし話しかけられたら答えちゃう。

ハモニカを吹いていた男が吹くのをやめた。そのために、急にほかのもっと普通の音が聞こえてきた。いびき、ジンの壜がシーソーのように転がる音、眠そうに議論をする声、汽車の車輪の遠い響き。

この一節が私がこの物語で一番好きなところだ。今までケイがこの二人に集中せざるを得なかった状況から一変して、目には見えていないが確かにこの列車の空間に流れている時間を再度認識する。そのことで、いま、この状況が怖い、ということもケイは再度認識することになるが、ここから立ち去るきっかけにもなっている。列車の最後尾に行き、外の景色に触れ、知っているランプという物に触り安心したくなるのも分かる。その後、座席に戻りその愛のお守りを買うことで話は終わる。

本を読み終え、時間が経ってからケイのことを考える。もし、今度よく知りもしないおじさんが死んだとしても葬式に行きません、って言えるんだろうなと思った。もうこれからは些細なこと、孤独や不安を打破できるんじゃないかと思った。

(ラザニア)