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遠野を走る。②

なるべくたくさんの場所をめぐる(やることリストその2)。

実際にたくさんの場所を見てきたわけだが、これを時系列で並べたところで読みにくかろうとは思う。

『遠野物語』の舞台を見てくることが主な目的なので、煩雑にならない範囲でうまくまとめていきたい。

また、旅のメインテーマ「庶民の信仰の痕跡をたどる」という意味では、遠野三山の伝説(山岳信仰)と遠野七観音(観音信仰)について説明を要する部分も多いので別項を立てる必要がある。

読み手の中には遠野に行ってみたいと考えている人も少なくないだろう。

目的やテーマに沿って、優先順位の高い場所からめざしていけばいい。

その一方で、観光客向けに整備された施設も多々ある。

今回の旅では遠野市立博物館、とおの物語の館、伝承園、遠野ふるさと村の4施設に行ってきたので、先にそちらを紹介しておこう。

■遠野市立博物館■

遠野市立博物館は市立図書館の2階
正面入口は右手の坂を上がったところにある

今回の旅のそもそもの目的は企画展『遠野物語と異界』を見に行くことであった。

異界もまた聖地と同様に人を取り巻く環境の一つではないかと考える。

あの世があることを前提に、この世での生活が営まれてきたことでもわかる。

しかしながら、博物館側の説明ではあの世とは「他界」であるという。

他界とは、人間の現実世界とは別の神霊や祖霊がいる世界。人が亡くなったとき、その魂が行くとされる場所。

企画展パンフより

では、異界とは何か。少々長いが引用する。

異界とは、日常生活の空間と時間の外側にある世界。また、ある社会の外にある世界を指すことばです。異界との接点は、日常の生活空間のすぐ近くにあると考えられ、村境もその一つでした。村境は異界との通路であり、遠くからやってくる神や妖怪、災いを起こす悪霊もそこからやってくると考えられてきました。また、橋・坂・峠・辻なども異界との境界と認識され、このような場所には他から侵入するものを防ぎ、道行く人々を災難から守る神が祀られ、年中行事が行われてきました。

たとえば、イザナミが死して向かったという黄泉の国は異界ではなく他界。

生者ではたどりつけぬ場所ということだ。

一方、異界は人がうっかり迷い込んでしまうこともある。

それゆえ異界との接点には神を祀ったりまじないを施したりなど、災厄を防ぐための働きかけが可能である。そういった違いがあるようだ。

企画展の出品は図録によれば78種123点
市外の博物館から借り受けたものも多く、まさに「異界」の博覧会
企画展では『遠野物語』に記された異界との接点がパネル展示されており、参考になった
盛岡南部家所蔵の『水虎之図』
天保年間(1789-1844)の作と推定
こちらは背中に甲羅を持つタイプ
一方こちらは甲羅を持たないタイプ
柳田は河童の正体は猿ではないかと唱えた
寶城寺(岩手県奥州市)に伝わる河童のミイラ(全長約54cm)
円珠院(岡山県)の人魚のミイラは鑑定により骨格がない(=造形物である)ことが判明している
御神像は人の手により造られたものなのだから真贋にかかわらず今後も祀り続ければいいと思う
駅前などで見かけるこのポスター
1974年の目撃情報によると河童の全長は約60cm
外見も寶城寺のミイラと共通点が多い
とおの物語の館に展示されていた「河童の駒引き」
遠野の河童はそれほど大きくはないようだ
佐々木喜善の民俗調査カード
細かい文字でびっしりと書かれていて性格がうかがえる
河童が家に上がるとザシキワラシになる
(『奥州のザシキワラシの話』)
山の神像あれこれ
山神は女性と伝えられるが男性も少なからずいる
金光山善明寺に伝わる天狗の牙
改心した天狗が自らの歯を抜いて差し出した
岩手県大船渡市の民俗行事「吉浜のスネカ」面
怠けている子をたしなめるという意味でナマハゲに近い
最後に「体に気をつけろよ」「風邪ひくなよ」と思いやりの言葉をかける優しい来訪神である
常設展示もオシラサマの種類が多くて見応え十分
馬頭以外に烏帽子をかぶった人形もあり謎が深まる

‣遠野駅より約600m(利用料金:大人310円)

■とおの物語の館■

こちらは遠野物語というよりも柳田國男の関連施設と呼ぶべきか。

とおの物語の館入口
遠野物語は明治43(1910)年6月14日に刊行された
毎年6月14日には特別企画が催されるという
旧高善旅館
柳田が滞在した旅館を移設し展示
実際に客室を見ることもできる
柳田の業績がパネル展示され
関連書籍を閲覧することもできる
遠野座では語り部による昔話が披露される

‣遠野駅より約400m(利用料金:大人510円)

■伝承園■

遠野のかつての農村を再現しており、中に入って見学できる。

しかしここで見るべきは佐々木喜善記念館とオシラ堂だ。

伝承園入口
駐車スペースも広く、交通アクセスも容易
佐々木喜善記念館
佐々木の業績が紹介されている
語り部としての佐々木がいなければ『遠野物語』は生まれ得なかった
衝撃を受けたのは宮沢賢治との交流だ
賢治と佐々木は同じ年の同じ月に亡くなっているのだ
オシラサマの研究を共同で行ったロシア人民俗学者ネフスキーからの手紙も
ネフスキー、達筆である
オシラ堂の外観
ここからは入れない
菊池家曲がり家の通路から入る
囲炉裏を囲んで昔話(自動音声)を聞くコーナーも
オシラ堂に通じる通路にパネル展示が何点か
写真は例のアレ(笑)
6畳ほどのスペースに奉納されたオシラサマは1000体超え
これとか
こっちにも
参拝者が願い事を書いて納める新たな信仰形態といえよう

‣遠野駅より約4.8km バス停「伝承園」そば
(利用料金:大人330円)

■遠野ふるさと村■

農村の生活にふれるという意味では伝承園と似ている。

だが、曲がり家の中に実物の馬がいるという意味では必見だ。

遠野ふるさと村入口
マヨヒガ風の緑地帯を通って曲がり家に向かう
馬を飼うための厩舎が家と一体化している曲がり家
人と馬との距離の近さ(親しさ)は家の構造にもみられる
「大野どん」にいたポニー(名前はベス)
お客が少ないからなのか今ひとつ元気がなかったな
お散歩タイムに遭遇したかった
「肝煎りの家」にいた白馬(しらゆき)
全身白というのはかなりの高齢なのでは
遠くからずっとこっちを見てた
「大工どん」の土間に「かまど神」を発見
おわかりいただけただろうか

‣遠野駅より約8.5km バス停「ふるさと村」そば
(利用料金:大人550円)

今回の遠野旅では上記の4施設を訪問した。

4施設以上訪問する予定があるなら、各施設で販売している遠野市内観光共通券(1350円)を購入すれば入場料がお得になる。

他にも福泉寺(拝観料300円)、遠野郷土人形民芸村(260円)を加えた6施設が利用できる
行けば行くほどお得になる仕組みだ

福泉寺の観音像(木彫りとしては日本最大)や遠野の郷土玩具にも大いに興味がある。

語り部による遠野の昔話もぜひ聞いてみたかったが、時間がなさすぎた。

遠野観光で、これらの施設に行こうか行くまいか迷っている人たちの参考になれば幸いである。

[『遠野物語』成立の背景とは? ③につづく]

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