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【千葉】地すりを求めて~浦安三社祭④

浦安に伝わる神輿の独特な担ぎかたである「地すり」をなるべくたくさん見てやろう。

地すりは渡御の途中で突発的に行われるイベントであり、どこではじまるのかがわからない。

神輿を回転させるためのスペースが必要であることから、広い場所が選ばれるであろうことはわかる。

昨晩は偶然とはいえ、新町交差点で見ることができた。

では、主要な交差点で待っていればよいのか。

交通規制がなされているものの通行中の車両の妨げとなるため、ただの通過点にすぎない可能性もある。

もう一つ重要なのは、三社の担ぎをまんべんなく見ることだ。

②で説明したように、豊受神社(猫実)と清瀧神社(堀江)は比較的近いが、当代島稲荷神社(当代島)は離れている。

一つの社の渡御ルートにとらわれていると、他の社の主要ポイントを見落としてしまいかねない。

三社の神輿は祭りの2日間でそれぞれ異なるルートを通る。つまりは6パターン。

その中から主要ポイントを割り出し、通過予定時間よりも早く現場に到着しておく必要がある。

人混みに巻き込まれてしまうと、撮影はおろか撤収すらも困難となる。

すみやかに撮影場所を確保し、誰よりもすばやく現場から撤収する。

月光仮面の歌にもあったな。

誰でもー好きになーれる人ー♩ ←それは2番だ

そう。疾風のようにあらわれて、疾風のように去ってゆくのだ。

風の神よ、われに力を!
(豊受神社 風神および津島社)

■15日(初日)■

宵宮は清瀧神社前にとどまった。最終日の宮入りは豊受神社で見届けようと決めている。

初日は当代島稲荷神社の動きを見据えつつ、他の二社の主要ポイントを押さえることにしよう。

ここから先はタイムライン形式でお届けする。

09:35 船圦緑道

当代島稲荷神社の神輿が出発した
西に進み、東京ベイ医療センター方面へと向かう

うちわに書かれた「まいだぁ~」の文字。

神輿のかけ声は「まえだ」とする説と「まいだ」とする説の二つある。

前に進めを意味する「まえだ」。

地すりによる神輿の回転動作が舞のように見えることから「まいだ」。

当代島稲荷神社は後者の説をとっているようだ。

社地は他の二社に比べて狭く、社殿も小ぶりである。

宮神輿の数も豊受神社と清瀧神社が二基あるのに対し、こちらは一基。

それでも、神輿を担ぐ所作はもっとも美しいという自負がある。

彼らにとって、地すりとは神輿の舞なのだ。

10:58 医療センター付近の交差点

地すりがはじまった。順次みていこう。

すり
「まわれ」「まわれ」に合わせての回転動作
腰を低くというよりも神輿を低く保つことを優先しているようだ
歩幅は小さく、足袋一つぶんの小刻みな移動でゆっくり回る
もみ
神輿をやや高く上げ、回転させながら上下に揺らす
外周にいる神輿を担いでいない者が跳躍しながら回ることでウェーブのように見える
さし
頭上に持ち上げ回転させる
担ぎ手たちには回転動作により正円を描けているかどうかの判断ができない
外周にいる者たちが背中を押したり口頭で指示を与えて修正する
ほうり
さらに高く掲げ持つのだが、ヒジは伸ばしきらずゆとりがある
放り上げた瞬間も、担ぎ手の掌が担ぎ棒から離れている者はあまりいない
つまり放り上げる高さは求めていないということだ
それには理由がある

これは聞いた話だが、地すりにおけるもっとも美しい所作とは、ほうりが終わった直後にすばやく神輿を担いで前に進むスムーズさにあるという。

力自慢が神輿を高く放り上げることは難しくはないだろう。

しかし、担ぎ手には大柄な者もいれば小柄な者もいる。担ぐ肩の高さもそれぞれ違う。

担ぎ手のおのおのが呼吸を合わせて、すみやかに神輿を担ぎ直して前進する。

その最適解が、ほうりの高さにあらわれているといえよう。

担ぎ手の意識としては「まいだ」であって、「まえだ」でもあるということだ。

11:35 スーパー木田屋・駐車場

東西線のガード下をくぐり、北栄へ。

ここは浦安に本社を持つスーパーマーケットの駐車場内。

完全に出遅れた。ここでもやってたのか。

でも、しっかり見ておこう。

豊受神社の神輿は重いのかな。少し大きく見える。

すり
この段階で神輿は上下に揺れている
担ぎ手も歩幅を意識することなく、ゆっくりと回転させる
もみ
神輿を上下に揺らしながらの回転
しかし上下動には安定感がある
さし
高く掲げての回転も安定し、力強さを感じさせる
担ぎ棒の水平方向への軌道も保たれている
ほうり
ここでは安定を考えず力強いかけ声とともに放り上げている
神輿は大きく揺れて直後の担ぎも遅れるが、とにかく豪快

一言でいいあらわすならば、漁師町ならではの荒々しさだな。

なるほど、ケンカ神輿にもなるだろう。

さしの回転では声は出ているけれども神輿は揺れることなく水平さが保たれていた。

もみ(動)→さし(静)→ほうり(動)への静から動への転換であり、つまりは緩急だ。

長い歴史によって培われた神輿担ぎのドラマチックな展開には、神の息吹すら感じさせる。

いいぞいいぞ。こういう違いを見たかったんだ。

よし、どんどん行こう。

13:43 庚申通り

ここでやることはわかっていたから早めの対応。

すり
背中丸めたこの体勢。絶対腰に悪いよな
仏教でいうところの捨身(※)を感じた
(※しゃしん:衆生を救うために自分の身を捨てること)
それで豊受神社には清心さまの像が祀られているのかと納得

それにしても口調が荒っぽい。メガホンを持った若衆が鬼軍曹にも見える。

「オラッ、回れ! 回れっ!」
きびしい。だが、それがいい
もみ
神輿をつかんで跳ねまわる若衆
稲荷神社では外周の者が跳ねていた
この所作が意味するところは神輿そのものの躍動
つまりは暴れ神輿だ
さし
声は出ているが、神輿の回転はゆっくりとなめらか
ここでも緩急が意識されている
ほうり
高くは上げない
直後の担ぎのスピードを優先しているのだ
ほうりの勢いを維持したまま前進につなげていた

先ほど見た東組連合の担ぎには漁師町の荒っぽさを感じた。

西組のこのきびしさはどこからくるのだろう。

それは、海のきびしさのようでもある。

板子一枚、下は地獄。

荒れ狂う波の中へ舟をこぎ出し漁をする。

命がけの生業(なりわい)からつかみとったきびしさだ。

担ぎながらニヤニヤと笑っている者など一人としていない。

漁場においては、気の緩みは死につながる。

ゆえに所作もきびきびしていて、ゆるみがない。

いいものを見せてもらった。

13:49 庚申通り

先ほどの豊受神社・東組連合の庚申通りでの担ぎ
中央の若衆が「もめ、もめ」に合わせて扇子を振っているのも特徴的

15:14 船宿 吉野屋前

『青べか物語』にも登場したという船宿の前。

旧江戸川ぞいに面した細い通りに建っている

早めに移動し、川沿いの遊歩道に通じる高い場所に撮影場所を確保した。

もし出遅れようものなら……。

もちろん、こうなる
豊受神社・西組の女神輿である
すり
地すりももちろんやる
音頭役の女性が扇子で神輿を叩いて
「まわれーまわれーまわれっ!」
もみ
「それっ、それっ」のかけ声で回転
中央付近の女性が軽やかに弾んでいる
さし
リフトの力強さが要求される
途中で片側が下がりはしたがすぐに修正
ほうり
担ぎ棒から手を離してのほうり
リカバー(再担ぎ)もスムーズ。お見事!

女神輿に求められるのは、力強さよりは華やかさということになるだろう。

しかしながら、この狭い場所においても手順を怠ることなくやりきった。

場慣れしていたとしても、8年ぶりの祭りである。

声もよく出ているし、何よりきっぷがいい。

女神輿もレベルの高さを感じさせてくれた。

18:00 船圦緑道

ふたたび当代島に戻って稲荷神社の担ぎを見学。

その前に船圦緑道について。緑道なのに船圦(ふないり)とは、これいかに。

当代島は江戸時代に掘削された人工の川(船圦川)沿いに集落を築いて発展を遂げた。

昭和46(1971)年の漁業権放棄により川としての存在意義が薄れ、埋め立てることに。

昭和52(1977)年には埋め立てられた道路に木々が植えられ、緑の道路となったのである。

昔は舟が出入りする川があったのか
稲荷神社の「日本イチィ!」の太鼓
こういう細かいのも押さえたかったのだが

18:25 船圦緑道

観客が多く、ポジションも制限されての撮影となった。

すり
神輿のてっぺんしか見えない(汗
かくなるうえは心眼で。ぐぬぬ…
もみ
手前の女の子も一緒に跳ねている
これは将来有望(^^
さし
そして
ほうり

この後、最後に地すりを行っているが、その様子は①で紹介した。

神輿が御神酒所に帰ってゆく

初日はこれでおしまい。また明日。

[祭りの後の静けさや ⑤につづく]

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