氷艶2024
氷艶、あっという間に終わってしまった。
楽まで見て、初演の印象とは大分変わった。高橋大輔は例によって観客のエネルギーを取り込んで『化けて』いき、バディである大野拓朗さんもまた変わっていき、4公演とは思えぬほどの進化(深化)を見せた。
実を言うと、初演を見て、微妙にモヤるお🐟はそれなりにいた。
なぜお🐟はモヤったのかという話から始めようと思う。断っておくが、お🐟全員の意見ではない。しかし私の周りは微妙にモヤる人が結構いた。ゆずファンや大野拓朗さんのファン、つまりこれまでほとんどアイスショーというものに行ったことがない、高橋大輔を生で見たことのない方々にはかなりの好評だったのに、だ。
スケート凄い、歌まで歌えるの?!、滑ってると目が離せない、表現が凄い、広い横アリの遠くまでちゃんと飛んでくる、という評価の方が多かった。お🐟は、高橋大輔を見慣れ過ぎて、贅沢になっていたのだということにも気づかされた。しかし『氷艶の高橋大輔』としては微妙に不満に思う人は確かにいたのだ。私もその1人である。
なぜか。
ラストシーンにトキオ1人が残っていることからもわかるように、物語はトキオ視点で作られている。初日の時点で高橋大輔がまだ『化けて』いなかったこともあって、後半『これでは大野拓朗主演、高橋大輔は狂言回しではないか』と私は感じてしまった。
Luxeを含むこれまでの氷艶は、先ずは『高橋大輔ありき』だった。高橋大輔のスケートを、格好良さを、身体表現のみならず歌や芝居まで含めた表現技術と感情表現の素晴らしさを、これでもか!とばかりに詰め込んだ、『ザ・高橋大輔』というパッケージ。
高橋大輔が、いずれは『スターシステムに頼らないスケートというエンタメ』を定着させたいことは知っている。ただしそれは『氷艶』の目指すところではないはずだ。開演まで3週間を切ったところでの演出と準主役の交替は、高橋大輔が狂言回しに回る構成が、チーム氷艶の意図ではなかったことを意味する。おそらくこれまでの氷艶であれば、トキオのカケルへの執着→絶望→再生の物語を高橋大輔に振ったはずだからだ。
しかしあの時点でもはや配役や構成を作り直す時間はない。大野拓朗さんが嵌まったことで、兎にも角にも氷艶は崩壊せずに済んだ。そのことには感謝の言葉もない。しかし構成とともに、素晴らしい役者さんであることが逆に高橋大輔の影をやや薄くしてしまった。それが初日であったと思う。魚類としては、『氷艶なのに高橋大輔が足りないよ!』というモヤモヤが残ってしまった。
ひとつの舞台として見た時のバランスは決して悪くない。だからこれは単に高橋オタがイメージしていた『氷艶』と違う、という話なのだ。
ではあるが、2日目にはおやっというほど印象が変わり、これは楽を見るまでは感想を書けないぞ、と思ったのは前述の通りである。
4回という少ない公演数、いつものことながら客の前で演じるたび化けていく高橋大輔の変化はすさまじく、楽にはこれまた『化けた』大野さんとがっぷり渡り合い、やはり主役は高橋大輔なのだという思いを強くした。終わり良ければ、の通りである。大ピンチに駆けつけてくれた菊之丞さん、福士誠治さん、平原綾香さん、大野さんを繋いでくれた当銀大輔さんらのように、大野さんともまた何かのご縁があるといいなと思う。
ここからは感謝と賛辞。
本当の経緯はわからないし、いつから揉めていたのかも不明だが、修正するにはあまりにも遅かっただろうことは想像がつく。いくら高橋大輔がスケーターの余芸のレベルを越えて歌えるとしても、ミュージカル俳優に当てていた役を、直前に高橋に変更することはできない。ほとんど空中分解してもおかしくはない状況だったと見る。
チーム氷艶は、この絶対絶命のピンチに起死回生の一打を放つ。当銀大輔さんに紹介され、合宿前日のオファーに即答して合流した大野拓朗さんを見た時、正直ホッとした。構成はその時点ではわからなかったが、前向きで、真剣で、柔軟で、一生懸命な人なのはすぐにわかった。高橋大輔が作る柔らかい空気のカンパニーに、すんなり馴染んでいった。
初日、鋭い高橋に「いつもと違った」と気づかれるほど緊張していたと聞いて、心底この人で良かったと思った。
高橋ファンには有名な話だが、高橋大輔は競技キャリアの最後、37歳の世界選手権でも、試合前には緊張でえずき、手汗をびっしょりかく人だ。ショーの初演はさらに緊張すると言う。馴れてしまうことがない。
海外で外国人にただひとり混ざって舞台に出た経験すらある役者が、初演に緊張する初々しさを失っていない。何とよく似ているのだろう。得難いピースであったことは間違いない。
さて今後の希望である。
今回かなりミュージカルに寄せ、台詞や歌も多く、結果的に物語の主役がトキオになってしまったのは否めない。そしてまたスケート以外の表現にも高橋大輔が惹かれていることは承知の上で、もう少しスケートに重点を置いた氷艶が見たいと強く思った。コロナ禍のイレギュラーではあったが、実のところ、前回のLuxeはかなり好みだ。一回おきくらいに、どちらかに重心を移すことはできないだろうか。演劇に寄せれば寄せるほど、そちらのプロの輝きと渡り合うのは難しくなる。身体表現を中心とした企画を、やはりスケーター高橋大輔には望みたい。
そのためにはスケートの振付も『演劇の添え物』ではなく、様々な陸の振付師をセットアップしたり、また『滑走屋』で高橋大輔本人がやったように、妥協せずにそれらを氷に下ろす力量あるスケーターが必要にもなるだろう。2年という年月をかけるのなら、もうこんなことにはならないよう、時間をかけて練り上げたものを見たい(大野さんだって、最初から参加していただけていたらと思う)。
ともかく、お疲れ様でした!!!
(おまけ)
ところで演技が終わって周回する時の、一般にありがちな高橋大輔の男っぽくイケイケなイメージと違う、ふわふわの輔さんに興味があれば、フジテレビ系列『ぽかぽか』木曜日をどうぞ。オンとオフのスイッチの切り替わりが凄すぎる人の、スイッチ切れてる時のなかなかのポンコツっぷりをお楽しみ下さい。おしまい。
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