IT業界の多重構造とエンジニアの働き方

3つの大まかな分類

SIer(システムインテグレーター)

基本的にミスが許されない、国や政府、大手金融機関、医療関係などから大規模なシステムの開発や運営を受託する。
主には要件の作成や仕様書の作成を行い、制作は下請けの会社に依頼することが多い。
時には孫受け、ひ孫受けといった多重構造になることもあり、下の階層にいればいるほど待遇や労働環境はひどくなる。
言語はJAVAやCOBOLが多く、Oracleや富士通などの大手企業の製品を使って開発することが多い。
例)NTTデータ,アクセンチュア,富士通,IBM etc..

ベンチャー系開発会社

IT業界を目指している人がイメージしているような、かっこいい自社サービスを持っている会社。
SIerからの受託案件やエンジニアリングサービス(エンジニア派遣)をやっていることも多い。
経営者が有名人で投資家から沢山お金を出資してもらったりしていることも多い。
GOやRails,Vue,Reactなど、割とモダンな環境を積極的に採用するケースが多く、人気も高い。
例)GAFA,メルカリ,LINE,Yahoo etc..

受託制作会社

その他の会社はだいたいここ。
明確にSIerとベンチャーと分ける基準は無いので、無名のサービスを持っていたり、国から案件を受託していたりすることもある。
SIerは公共事業並みの工数の案件を行うことが多いのに対し、ここでいう受託制作会社は数ヶ月単位の案件を受注することが多い。
大手企業の子会社だったり、スピンアウトした会社で、ある程度決まった仕事しかしない会社もある。
PHPやWordpressなどを利用して開発を行うことが多い。

日本と米国の法律の違い

本記事の題材の一つである多重構造問題は、日本の法律上の問題が大きいと言われています。

日本では、労働者は法律で守られており、簡単には解雇できない仕組みになっているというのはご存知ですよね。
終身雇用制度や新卒一括採用など、日本特有の人事制度のなごりがIT業界に大きな弊害をもたらしていると感じます。

前述したSIerでは、基本的に受託案件を取り扱うので、常に開発リソースを自社で確保しておくのはリスクが高いです。
そのため、基本的に要件や仕様書を作成して下請けの会社に丸投げするケースが多くなります。

アメリカにはAt Willの原則というものが存在し、従業員も雇用主も、いつでも理由なく退職/解雇できる雇用であることを意味します。
At Willの原則とは | 米国パソナ (PASONA N A, Inc.)

そのため、日本と比較して雇用関係は極めて自由度が高く、企業は柔軟に人員管理を行うことができ、従業員はキャリアアップのチャンスを求めて、より良い環境の企業へと積極的に転職をすることができるそうです。

IT業界でもシリコンバレーやGAFAのエンジニアは年収数千万円が当たり前といわれていたりするようですが、日本ではあまり馴染みがないかもしれません。

僕自身は非エンジニアなので、現場レベルの実際の開発業務については間違った認識を持っている部分もあるかもしれませんが、いつも参考にさせて頂いてる起業家でプログラマーの中島聡さんは2006年の時点で以下のような記事を書いていました。

ソフトウェアの仕様書は料理のレシピに似ている

ソフトウェアのアーキテクトが自らプログラムを書いたり、下っ端のエンジニアの書いたコードをレビューするのは、レストランのシェフが自ら料理をしたり、下っ端の料理人の作ったスープの味見をするとの同じである。

確かに、実際には料理を作らない料理長のお店ではあまり食事をしたいと思いません。

ソフトウェアやアーキテクチャの勉強を大学でしてきた優秀な理系エンジニア候補をゼネラリストとして育成し、実際のソフトウェア開発は劣悪な環境下で働く末端の派遣社員であったりすることが多い日本のIT業界の現状に、中島さんも強い懸念を抱いています。

コロナ問題で改めて浮き彫りになった多重構造問題

雇用助成金のオンライン申請を停止 開始初日にトラブル

 厚生労働省は20日から運用を始めた「雇用調整助成金」のオンライン申請でシステムトラブルが発生し、受け付けを停止したと発表した。再開のめどは立っていない。申請企業の担当者の名前や携帯電話番号などの個人情報が流出した可能性があり、詳細を調べている。 
 厚労省は20日午前9時45分ごろにオンライン申請の受け付けを始めた。だが、別の申請者の情報が見える状態になっているとの指摘が労働局などに相次ぎ、約1時間後の午前10時45分に新たな受け付けを停止した。
 厚労省が調べたところ、同じタイミングで申請した人に同じIDが割り振られ、先に登録した人の氏名、携帯電話番号、メールアドレスなどが見られるようになっていた。パスワードや給与情報も見られるようになっていた可能性があるという。
 雇用調整助成金は企業が働き手に払った休業手当の費用の一部を支援するもので、新型コロナウイルスの影響拡大を受けた政府の働き手支援策の柱。申請手続きが煩雑で速やかに支給されないと指摘が相次ぎ、手続き簡素化の一環でオンライン申請を導入したが、初日につまずいた。
https://www.asahi.com/articles/ASN5N5VR4N5NULFA01F.html

同じタイミングで申請した人に同じIDが振り分けられ…
↑この辺りがまさに通常は起こり得ない構造上の問題なんだと思います。

役所から天下りしたIT知見のまったくないSIerの重役が息のかかった下請け会社に制作を発注。SIerから案件を受注した制作会社は仕様書を書いて下請けに丸投げ。

そこからさらに孫請ひ孫受けの制作会社が低賃金で雇っている派遣社員にソースコードを書かせ、ろくにコードレビューやアーキテクチャーのレビューを行わず納品(契約書だけはやたらと分厚くバグが見つかった場合は責任を取らされます)。

この背景には、前述した正社員を簡単に解雇してはいけないという日本特有の雇用規制があり、理系の大学でソフトウェアの勉強をしてきた優秀なエンジニア候補をゼネラリストとして育成し、実際のソフトウェア開発は下請けの派遣社員が当事者意識の薄いまま開発を行い、結果ろくでもないソフトウェアが世に出回るという悪循環を生んでいると思います。

エンジニアのこれからの働き方

新型コロナウィルスの影響による緊急事態宣言の発動や外出規制によってリモートワークの需要が一気に高まりました。

特に進展のない内容を共有するための会議を行うために満員電車に揺られながら出勤し、上司に怒られないための資料を作成することに時間を使う必要が無いことが明らかになるので、今まで丸一日かけてやっていた仕事を午前中で終わらせてしまう人が現れるのです。

優秀な人達は会社への出社は月に1回程だけで、残りはすべてリモートワークとなり、報酬は労働時間に対してではなく成果物に対して支払われることが一般的になると思います。

そうなるとわざわざ家賃の高い東京に住む必要はなくなり、おだやかに過ごせる郊外やリゾート地に定住しながら働くという新たなライフスタイルを実現する人が増えると思います。
そしてそんなライフスタイルを実現するための条件として以下のようなものが挙げられます。

・オンラインツールを使いこなせる
・直接対面しなくても情報を伝えられるコミュニケーション能力
・時間ではなく成果に対して働くというマインド
・自分の価値や得意なことを理解し、自己研鑽を惜しまない
・自分なりのライフスタイルや考え方を確立している

ITエンジニアはそんな新たなライフスタイルの実現にとても近い職業だと思います。
逆に言えば拘束時間に対する対価という考えが抜けず、成果や生産性に対する意識が低い人は、すぐにそれを明らかにされてしまうようになるでしょう。
資格を取ることに目的を置き、その資格を使ってどんな成果が上げられるのか、どうすれば少しでも効率を上げられるのかを考えられない人は生き残っていくのが難しくなるかもしれません。

特にIT業界では国や政府からある一定の予算が降りることが決まっている会社が存在し、本来必要ない事に対してわざわざ予算を掛けている(どうせ予算がもらえるのだから何かしらに使おう)ということが多い気がしています。
契約書に判子をついて現物保管というものなど、無駄に管理コストが膨大な最たる例ではないかと思います。

こういったある種の既得権益を守りたい一定の人々の存在により守らてきた、いい大学に行っていい会社に勤めれば定年まで安定だ、という考えはもはや過去の産物となっていくでしょう。

もしかしたら本当に、一部の優秀な人のみが熱心に仕事に取り組みとてつもない成果や生産性をもたらし、今までやる必要の無い仕事を行っていた人達は仕事を奪われるのではなく、ベーシックインカムによって働かなくても生きていける、という社会になっていくのかもしれませんね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?