TEPPEN・レビュー

デジタル(iPhone・Android)・基本無料

本作は2人での駆け引きが高速で行われその摩擦でアツくなれる対戦アルティメットカードバトルである。
このゲームはカルタや早押しクイズなどに見られる物理的な駆け引きと、それを対戦カードゲームに採用することによって起こる様々な弊害をデジタルゲームという舞台で見事にまとめ上げている点が非常に独特且つ強力な魅力だと言える。
カルタもある意味では対戦カードゲームだが、筆者が指しているのは近年生まれ遊ばれているMTGや遊戯王のようなものだと言い添えておく。
また本作はこれら著名なカードゲームにて散見される問題や、新規のカードゲームにおいても忌避、無視されている要素、可能性に向き合い、克服と開拓を精力的にしている意欲作である、とも伝えておきたい。
このゲームの本筋には大まかに“構築“と“対戦“2つの工程が存在し、下記にてそれぞれ言及していく。
追伸・本作は『モンスターハンター』『逆転裁判』『ロックマン』『バイオハザード』『ストリートファイター』などのCAPCOMと『パズドラ』『サモンズボード』『ニンジャラ』のガンホーによって製作されている。
本作はCAPCOMオールスター企画的な側面があり、全てのカードにCAPCOM作品に登場する人物やモンスターが描かれており、ガンホーらしい簡潔な独創性と馴染み易い様々なエフェクトでそれらの世界観が整列、共存が成立していると言える。

“構築“
基礎としては攻撃の赤、耐久の緑、妨害の黒、生贄の黒の4色から1色を選び、その色に属するカードを30枚(同一カードは各3枚まで)束ねてデッキを作る。
場に出すことで盾や矛となる“ユニット“と自他に直ぐに影響を与える“アクション“の2種類のカードを織り交ぜ、最後にデッキの核となる“ヒーロー“、“ヒーローアーツ“を各1つ選択して完成となる。
全てのカードとヒーローアーツにはそれを使用するためのコストが設けられており、加えてユニットには対戦のための攻撃力と体力が設定されている。
ヒーロー云々については混乱を避けるため後述する。
本作はクラッシュ・ロワイヤルやにゃんこ大戦争などに代表されるタワーディフェンスゲームに倣ったと見られるコストを支払うためのMPが時間経過で蓄積する仕組みが採用されており、ここを起因として対戦カードゲームにはよく見られるターンという枠組みが取り払われ、リアルタイム且つスピーディな駆け引きが展開される。
(つまり、コストさえ支払えばお互い好きなタイミングでカードやヒーローアーツを使用できる)
MPは正式にはミラージュパーティクルと言うが長いのでRPGにおけるマジックポイントとでもしておけば飲み込みやすいと思われる。

因みに、ヒーローアーツのコストはMPでは支払えない。
人類の共通認識として、必殺技には“溜め“が必要であるからして、本作にもその構造は存在するのだ。
各色に4体程存在するヒーローはデッキにおける主人公のようなものであり、各々が固有のヒーローアーツが3種類ずつ与えられている。
MPの蓄積を待ち、コストを支払うことでその点数分AP(アーツポイント)が得られ、APを一定量消費することで初めてヒーローアーツを使用できるのだ。
多くのヒーローアーツは対戦中に複数回使用することを前提としている為、デッキ構築の際はヒーローアーツを効率的に回転させる為の思慮も要求され、MPの存在によりゲームの進行に合わせて支払えるコストが上昇する他のカードゲームよりも強力で高コストのカードをデッキに含めやすいという特性も相まって程良いパズル性がある。
この逆である対戦ゲームにおける程良くないパズル性とはプレイヤー各個人の思慮の必要性が無く、最適解さえ知っていれば勝てたり負けなかったりする要素を指し、本題として最適解らしきものは本作に置いても多々存在する。

では何故本作は程良いのかと言えば、本作は“対戦“にて後述するが高いアクション性も持ち合わせており、歩みを止めたり余所見する間も無く躍動する戦況の最中にて最適解は目まぐるしく移り変わり、初っ端から末尾まで最適解らしいものは存在するものの、そのパターンが異常に多い。
既存のカードゲームにはほとほと存在し得なかったアクションとパズルの組み合わせがカードゲームの骨子として素晴らしい要素の共存を見せている。

ここまで『ユニット』『アクション』『ヒーロー』
『ヒーローアーツ』『MP』『AP』など用語の説明とルールの説明を一挙に行った。
苦しい思いをさせたかもしれないが、どうか安心してほしい。
この説明によって“対戦“の項はルールの説明が分かりやすく……なった筈だ。
様々な用語が飛び出た構築であったが、実際は初心者用のデッキが用意されているし、アシスト機能や既存のプレイヤーに一度だけデッキをプレゼントして貰える機能もあり、敷居を跨げるだけの施行は為されている。

また、本項で最後の説明として、スタンダードレギュレーションについて触れておく。
レギュレーションとは例えばカーレースで言うところの「このパーツは本大会では使えない」というような長期運営を前提とした対戦カードゲームによく見られるデッキ構築に用いられるルールである。
拡張性のあるカードゲームは定期的な拡張の実施とそれによる安定した売上が見込めなければ運営が立ち行かなくなり、往々にして最新の拡張とは“これは使ってみたい!“という目新しさと“その拡張を取り入れなければ取り残されてしまう“というような訴求力が必要とされる。
だがその摂理にただ延々と従っていては自然とゲームが過剰に複雑になったりネタ切れとも言える状態に陥ったり、ゲームバランスが破綻したり、それによって人口が減り、残ったプレイヤーも対戦相手の不足でゲームプレイが儘ならず、最終的にゲームの運営を終了せざるを得ない事態に発展し、崩壊してしまう。
更にアナログゲームと違って多くの場合どれだけ時間や金銭や労力を掛けていようと運営の終了によって何も手元に残らないデジタルゲームはこの崩壊が訪れないという信用がアナログゲームよりも余分になければそもそもまともな母数の人口が維持できないのだ。
他にもデジタルゲームだからこそという点はあり、プレイヤーの対戦を初めとして実験や知見の共有が非常に容易く下手を打てば簡単にゲームが破綻する反面、様々な調整措置がし易くそれに対抗することもできると言える。(つまり開発や利用の規模が大きくはなっているもののプラスマイナスが収束しているということだ)
閑話休題。
スタンダードレギュレーションとはつまるところ最も公式で用いられ、それに付随してプレイヤーに利用されるレギュレーションであり、その多くは最新の拡張が適用される度に尻抜けに更新される。
これがあることによって強すぎるカードや時代の変遷によって目立たなくなったカードも対戦環境から流れていき、後々それらに手心を加えた焼き直しや過去のカードを度外視したカードの作成が大手を振ってできるのだ。
嫌味ったらしく言ったがこれによって新規参入者が使えるカードを把握し易くなったりとプレイヤーにとっての利点も大きい。
プレイヤーの為は運営の為、運営の為はプレイヤーの為であり、前後の私の様々な説明には私の思いが如実に出ているため、長短一体と思いつつ前後の文言を飲んで頂きたい。
本作のスタンダードレギュレーションは指定の(最新のものから一定数の)拡張カード群に加えベーシックカードというゲームを始めたばかりのプレイヤーに与えられるカードやクロニクルという作品の雰囲気を補足する役割を持った1人用のゲームモードなどで得られるカード群で構成されており、ベーシックカードの存在によって常に移り変わるレギュレーションの中で骨子や最低水準、ずっと変わらない味と言える指標が示され、動的な対戦とは打って変わって構築段階からは静的な印象を受ける。
他にも色を2つ構築に使用するとMPの上限が通常の半分になってしまうなど……ああっ次項に移る!

“対戦“
対戦は各々MPが4点、ヒーローのライフが30点、制限時間が5分の状態から開始する。
ヒーローというのはプレイヤーのアバターである側面が強く、そのライフが0になるとそのヒーロー、プレイヤーは敗北となる。
デッキから5枚を手札として引き、それから10秒以内であれば1度だけ全ての手札を戻して引き直すことができる。
因みに本作にはデッキの枯渇による敗北が無いため相手のデッキを枯渇させることを目指す戦法が存在し得ず、必然的に互いのヒーローにダメージを与え合うのが双方主目的になり、リアルタイムな対戦形式と相まってストリートファイターなどに代表される対戦格闘ゲーム的な色が強い。
繰り返すが本作にはターンの枠組みが存在しない為、それに内包されていたドローフェイズやバトルフェイズと呼ばれるものも存在せず、そのためカードを使用したら自動的にデッキから手札が補充され、カードやヒーローアーツの効果によって手札が増える場合はEXポケットという2枚までカードを収容できる手札とは少々区別された空間に置かれる。
MPの上限は10点であり、多くの経験者は様々な状況に対応できるように相手の様子を見つつMPを上限まで溜めてから動き出すのだが、この傾向は後述するユニットの攻撃仕様が影響していると言える。
場にはユニットを出すための空間が各プレイヤーにつき3枠あり、それぞれ1枠ずつ自他1組で向き合う形になっている。
ユニットを出す際は手札からユニットカードを選んでドラッグ、次にそれを置く空き枠を選んでドロップすることで使用(プレイ)となり、この際にコスト分のMPが消費される。
この行程はゲームの展開速度に合わせて正しく直感的に表現されており、実行の際には一切の確認ウィンドウが表示されず、取り消しも不可能である。
アクションをプレイする場合は自分の手札と互いのヒーローが表示されている両端の空間以外、つまり場に移動させることでプレイが成立する。
またアクションの効果によっては、対象としたい目的の枠まで移動させる必要がある。

何故事細かにカードをプレイする工程を説明したかと言えば、本作の対戦においてこのプレイの簡易性は非常に重要であるからだ。
ユニットはプレイした時点で攻撃を開始し、それは攻撃ゲージとして表示され、攻撃ゲージは時間を追うごとに各々同時進行で相手側に進行していく。
これがそのユニットから見て正面にある相手側の枠に達することで攻撃が完了、枠にユニットがいればそのユニットと互いにダメージを与え合い、それぞれ相手の攻撃力分自分の体力を消耗する。
体力が尽きるとそのユニットは死亡したことになり場から除かれ、墓地に置かれる。
因みに攻撃によって相手ユニットを死亡させたユニットは相手を撃破したことになり、これらの事柄に起因してカードの効果が発動する場合がある。
枠にユニットが居ない場合は相手のヒーローに一方的にユニットの攻撃力分のダメージを与えることになる。
また、アクションをプレイすると制限時間や全ての攻撃ゲージが一時中止となり本作の醍醐味であるAR(アクティブレスポンス)が始まり、プレイヤー両者に対して交互に10秒間の猶予が与えられる。
この猶予では手札からアクションを1枚までプレイすることができ、プレイした場合は相手に猶予が移り、プレイしない場合はそこでARは終了する。
この時に限って、本作はターン制を帯びると言える。
AR終了後はAR中にプレイされたアクションがプレイされた順とは逆の順番で処理され、再び通常の対戦に戻る。
加えて毎度のAR開始時には各プレイヤーにAR専用のMPが2点付与されるため、相手がARを発動すれば初回からお得にアクションをプレイできたり、打ち消しと言った事前にプレイされた条件に該当するアクションを無効化するカードなどもあるため、若干有利な後手か主導権を持つ先手を打つかも判断箇所となる。
これらの仕様によって相手のユニットの攻撃が自分のヒーローに直撃する直前にユニットを出すことで防御と反撃を行うという戦術や、それに切り返す形でARを開始させ対処を測るという戦法が常套手段になっており、リアルタイム制とターン制を巧みに織り交ぜることによって“早く出したい、けど後で出したい“と言うようなジレンマがよくよく構築されている。

──総評
・独自性
本作はルールやその実装自体が強烈な独自性を持っており、それに派生した他のカードゲームには見られないような性能は非常に見応えがある。
場に出た時正面の相手にダメージを与える効果から始まり、攻撃ゲージが到達直前の状態で場に出る“速攻“や、対象ユニットの攻撃ゲージを一定時間止める“停止“などが顕著だ。
また、ゲームにおける制限時間はそれが経過した際に設定された条件に基づいて強制的に勝敗を決定したり引き分けとする仕組みだが、ターン制のゲームにおいてこれを導入する場合、有利な状態でターンに点在する所作、意思決定を引き伸ばすことで消極的に勝利を目指すプレイヤーが必ず現れるものの、本作の独自性によって副産物的にこうした行為が予防されていることも健全でやり甲斐のある勝負を演出するためには重要である。
やっていることは場合に合わせた数値やタイミングの管理なのに、ユニットを出し合ったりARの仕様などによる感触としては器用さや腕力が求められるようなメンコ勝負や殴り合いの様相が見える不思議さも魅力的だ。

・快適性
独自性の地続きであり、また個人的な疑問の発展ではあるが、本作ではプレイするカードを予約できない。
どういうことかと言えば、先述したようにARは攻撃が命中する直前に開始することが常習化しており、またアクションの中にはユニットを除去するものも存在する。
つまり、ARにて攻撃ゲージが間近に迫っているユニットが除去された場合、AR開始前までユニットが居た枠は空白になり、攻撃はヒーローに直撃する。
この直撃を回避するには、AR終了直後の極めて狭い刹那にユニットをプレイする必要があり……筆者が本作を遊んでいた当初は、「何故こういう時予約できない!?利便性が低くやりにくいじゃないか、もう!」と思ったものだ。
これは一瞥してみれば不便他ならないことと思うが、この不便さによって上位の対戦においてはよりプレイヤーに瞬発力が求められ、ゲーム全体の格闘っぽさの演出に寄与していると納得したものだ。
美術面にも気遣いが見られる本作とこういった構造の積み重ねによるスポーティさは統一的であり、非常に美しいため実際のプレイにて体感してみて欲しい。
以上までの本項目は筆者個人のただの感想文にもなるが、つまるところホラーゲームにおける不便さや不細工さが却ってプレイヤーに不気味さを与え、その作品をよりホラーゲームたらしめるように、或いは回避が重要な格闘ゲームやシューティングゲームのグラフィックが無骨な命中判定ではなく多様なデザインで彩られているように、本作におけるこういった適度な不便性は本作を本作たらしめる要点であると言える。
ただ、頂けない点としては初めて見るカードの効果を確認する暇がAR中程度しかなく、駆け引きの土俵に上がるためにはある程度カードを把握しておく必要がある。
これによって、通常では好ましくないカードの使用率が偏る状態が快適性に寄与している節がある。

・任意性
カードゲームとは大まかに言えば構築の選択と対戦においての行動の選択、これら2人分の選択による相互作用と、運とも言える不確実性が混ざって勝敗が決するものだ。
筆者はこれら構築の選択、対戦中の行動の選択が同程度に、それぞれ小さくない割合で勝敗に影響することが健全なカードゲームとしての要点だと考えており、選択の割合が重要ともすれば、因んでみれば選択肢の数と有意義な多様性が重要となる。
選択の割合のバランスが取れていようと選択肢が少なければそれによって最適解が判断し易くなり、それによって習熟の余地が少なくなり、それによって極め易くなり、それによって飽き易くなり、引いてはそもそものやる価値が無くなっていくのだ。
本作はその点において選択肢が非常に多く、それは再三言及しているリアルタイム制に起因している。

本作に比べてみれば、多くのカードゲームにおける勝敗に対する影響力は、構築の選択に集中しているようにさえ感じる。
ターン制とリアルタイム制を言い換えるようだが、この差異は多くのカードゲームがデジタル的に進行し、本作はアナログ的に進行する為であり、絶えず干渉、不干渉、その形式を選び実行する権利がプレイヤー両者に同時に制限時間いっぱいに与えられている為である。
(デジタルとアナログといえば電源を使うものとそうでないものとを想像されるやもしれないが、上記では少しそれとは離れた使い方をしている。
今回においては連続的に情報を扱うこととそうでないことというような意味合いで使っており、イメージとしては三針時計とデジタル時計、蛇口から出る水や雲から降る雨などを対比として想像していただければ感触は伝わるかと思う。
ついでの余談だがアナログ的な進行はデジタルでないと(トランプゲームのスピードもアナログ的な進行とは言え)難しいと言うのは、何だか面白い)
かと言って、本作が構築を疎かにしている訳では無い。
時折極端な正解が発生したり、先述したベーシックカードは汎用的なものと上位互換が存在する為存在意義の薄いものとできつく分別できてしまうものの、多くのカードゲームでは見放されがちな高コストなカードも十分な効果があれば使う敷居が低く、基礎としてはとても平易で柔軟で多彩な構築を許容しているように感じる。
ただこれは横幅が広いということであり、全体的なゲーム性から多くのカードゲームにおいて存在する“コンボ“の品質はそう高くない。
また不要なカードを割安ではあるが手放すことで他のカードの購入に使用できるゲーム内通貨に変換できる点や、既存のプレイヤーに新規プレイヤーがデッキをプレゼントできる点、シーズンパスと言ったゲーム内通貨やカード購入時に使えるクーポンなどの特典がついたシーズンパスを気まぐれに無料にするなど、始めたばかりのプレイヤーの望みを支援する立ち回りが散見され、本作の任意性を感じるのにそう時間は掛からない……ように思うものの、1つ注意しておきたい。
それはヒーローアーツには解放の必要があるという点であり、ヒーローアーツはそのヒーローを対戦に使用することで次第に上昇していくヒーローレベルの報酬として設定されており、ゲームを理解しカードの準備ができていようとも、デッキの核となるヒーローアーツが解放できていなければ結局のところ使いたいデッキによってはそれを満足に使い出せる日が遠のいてしまうと言える。
横道が渋滞したが、以上を踏まえると本作の任意性は通常よりも広いものの、そう高いものでは無いと、筆者は言いたかった。
どうか伝わりますように……

最後に、本作は独特且つ開発の余地が大きいために、今後も鮮やかな成長が期待できる。
一方、それはゲームスピードにしてみれば存外緩やかな歩幅であり、このゲームを駆け引きの摩擦で擦り尽くさないようにとの配慮も感じるが、もっとこういうカードが出て欲しいのにな……という思いの成就には、なかなか時間を要するように思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?