近代ASMR論I ~愛のカタチ、耳のカタチ~
本記事はCCS †裏† Advent Calendar 2022の20日目の記事である。
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エイエイ~!(スプラ対抗戦楽しそう!)
登場人物
ずんだもん:ASMRが大好きなずんだ餅の妖精。好きなASMRのジャンルは『彼女の耳かき』
あすまろ教授:ASMR学会に名をはせる人物。最新の論文がASMR Conference 2022に掲載された。好きなASMRのジャンルは『メスガキ』
第一章 開講
ボクの名前はずんだもん!今をときめくピチピチの妖精なのだ!
今日はかねてから興味のあった『近代ASMR論Ⅰ』という講義を受けに来たのだ!さっそく会場に入るのだ!
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その講義は、とある関東圏の大学で行われた。
大学に着いたずんだもんがドアを開けると、そこには見慣れない景色が広がっていた。
今の時刻は午前9時。
講義室には朝日が差し込み、机に反射する光が鮮やかな模様を描いていた。
『違う。いつもとは何かが違う。今日という日には、大切な何かがある』
初めて大学に訪れたずんだもんにとって、この光景はそう思わせるだけのものがあった。
そんな景色の中に1人、部屋の中央、朝日に交差するように佇む男が居た。
「おや、受講者かな?どうぞこちらへ。座ってください」
男に促された席に座ると、そこは教壇の目の前であった。
「今回の講義を担当します、あすまろです。よろしくね」
あすまろと名乗る男は、一目でわかるほど奇妙な格好であった。
耳からは有線イヤホンが垂れ、ポケットからはみ出すスマートフォンに繋がっている。
首には有線のヘッドフォンがかけられており、コードは何処にも繋がっておらず、首に巻き付けられていた。
一見異質に見えるその姿だが、実際には正しいものであることにずんだもんは気づいていた。
(この人、ASMRの『タイプ』によって『道具』を使い分けてるのだ…!)
ずんだもんの予想は正しく、あすまろはASMRごとにイヤホンとヘッドフォンを使い分けていた。
耳かきなどの奥行きを感じたいときはイヤホン、吐息などの範囲技を感じたいときはヘッドフォンを使うことで、没入感を高めているのだ。
(これがASMRの教授…只者じゃないのだ…)
ずんだもんは、今日が特別な日になることを確信した。
「よ、よろしくお願いしますなのだ!」
「君がずんだもんくんかな?」
「はいなのだ!ボクがずんだもんなのだ!」
「そうか、よかった。来てくれてありがとね」
ぽりぽりと頭を搔きながら、あすまろ教授は嬉しそうに教壇に立った。
「さて、それでは講義の方を始めようか」
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「ずんだもんくんは、ASMRを知ってるかな?」
「もちろん知ってるのだ!というかYoutubeで毎日聞いてるのだ!」
「おお、それはいいことだね。どんなASMRを聞いているのかな?」
「彼女に耳かきしてもらうやつが好きなのだ!」
「なるほど。『シチュエーション耳かき』が好きなんだね」
ずんだもんは楽しかった。開始1分だが楽しかった。
今まで教師に対し、自分の考えを伝え、それを真っすぐ受け入れられたことが無かったずんだもん。
誰かと意見を交わすことの楽しさを、ずんだもんは初めて知った。
「ASMRと一言で言っても、種類はたくさんある。声の入っていない『純粋な音だけ』のものや、ずんだもんくんが好きな『シチュエーションもの』。音の種類も『水の音』、『ブラシ』、『耳かき』、『咀嚼音』など様々だ」
ずんだもんは頷いた。また、自分は今までシチュエーションものは多く聞いたが、音だけのものはあまり聞いてないな…とも思った。
「ASMRは今や世界的な広がりを見せており、クリエイターも飽和するほど増えてきている。今回の講義では、そんな飽和した世界の中で感じた懸念点について話していこうと思うよ」
第ニ章 その『舐め』誰の為
「ずんだもんくんは、『耳舐めASMR』を聞いたことはあるかな?」
「あるのだ!ゾクゾクして気持ちよかったのだ!」
「実は近年、耳舐めASMRが急増しているんだ。なぜだと思う?」
「うーん…。気持ちいいからなのだ?」
「半分正解だね。耳舐めASMRは確かに気持ちいい。そして、気持ちいいと同時に『一度味わうとまた聞きたくなる中毒性』があるんだ」
「確かに、今じゃ週に1度は聞いてるのだ!」
実のところ、ずんだもんは毎日聞いていた。
お気に入りの動画を見つけては高評価を押し、再生が終わればオススメ欄から次の耳舐めASMRを開いていた。
「耳舐め中毒になると、一つの動画では満足できなくなる。更なる快感を求め、新たな動画を探しに行く」
「確かにその通りなのだ。でも、それが『急増』とどう繋がるのだ?」
「中毒者が増えるということは、それだけ需要が増えるということさ。つまり、耳舐めは最も簡単に数字が取れるASMRになってしまったんだよ」
「えー!?つまり、沢山のクリエイターが耳舐めしてるってことなのだ!?」
「沢山というわけではないよ。『急増』が目立つのは、個人のクリエイターなんだ。なかなか数字が取れない配信者が耳舐めに走ることが多いんだよ」
確かに、ずんだもんが最近よく聞くものは個人Vtuberといった比較的小規模なクリエイターのものであった。
耳舐めASMRの動画は数万再生だが、ゲーム実況だと数百再生というクリエイターが多いことも思い出した。
「でも、耳舐め動画が増えることは悪くないと思うのだ。いっぱいあった方が嬉しいのだ」
「確かにそうだね。ただ、それはあくまで気持ちのいい耳舐めが増えた場合なんだ」
「?? どういうことなのだ?」
「ASMRは、録音機材によってかなり大きな品質の差が出ることは君も知ってるね。君が聞く耳舐めはおそらく良いマイクを用いて録音されたんだろう。しかし、もしも性能の悪いマイクで録音されていたとしたら、どうかな」
「いや、ASMR動画を作るのにわざわざ悪いマイクを使うわけ……」
違う…。わざわざではなく、仕方なくなんじゃないのだ?
ASMRで用いるバイノーラルマイクは安くて数万円はする…。
有名クリエイターが使うものは数十万から数百万…。
個人が新規参入する場合、出せる資金からしても…。
「…….気づいたかな。君が最初に聞いていたものはおそらく人気クリエイターの作品のはずだ。Youtubeの仕様上、人気動画が検索で上に来るからね。ただ、君が今後新規開拓を進めていくと必ず出会うはずだ。ギリギリバイノーラルなマイクに」
ギリギリバイノーラル!?
一体どういう『ギリギリ』なのだ…?
「ギリギリバイノーラルマイクは左右の判別はできる。ただ、音質が良くないんだ。例えば、『ぺろ…ぺろ…』といった舐めは『べろ゙…べろ゙…』になるし、激しい舐めだと『べろ゙ろ゙ぼ゙ぼ゙ろ゙ぼ゙ぼ゙ろ゙ぼ゙ぼ゙ぼ゙ぼ゙!!!』になる。まるで耳にシャワー当てられてるみたいにね」
「それは嫌なのだ…」
「耳舐めは特に音質や音圧が重要なジャンルだから、こういった機材による影響が大きく出るんだ。結論としては、とりあえずで耳舐めするのはやめようということだ。耳舐めとタイトルに付ければ再生はされるけど、リピーターになるとは限らないからね」
「なるほど。クリエイター側の苦労を知れてよかったのだ。耳舐めだけじゃなく、普通のシチュボにもコメントを残して応援していくのだ!」
第三章 絶対的序列
「突然だが、私はメスガキASMRが好きだ」
「まるで導入が思いつかなかったかのような始まりなのだ…」
「ずんだもんくんはどうだい?」
「う~ん…何度か聞いたけど、正直罵倒される印象しかないのだ」
「確かに、『雑魚』や『キモイ』など言われることが多いね。でも、罵倒されることがメスガキASMRの目的ではないんだ。この章では、メスガキASMRのあるべき姿について話していくよ」
あすまろの目に火が灯るのを、ずんだもんは見逃さなかった。
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「そもそも、メスガキとは何か。これはニコニコ大百科に任せておくよ」
「つまるところ、大人を誘惑する生意気な少女なのだ?」
「ざっくり言うとその通りだね」
「確かに、メスガキASMRはロリ声で『ざ~こ♡』って言ってくるのだ!」
「実は近年、耳舐めASMR同様にメスガキASMRも増えてきていて、人気ジャンルの一つになってきたといっても過言ではないんだ」
「へぇ~それは良か………いや、この流れは…」
「そう、とりあえずのメスガキASMRが増えているんだ」
あすまろはとても悲しそうに語った。
「具体的には、『ザコって言っとけばいいと思ってるASMR』が多すぎるんだ。とりあえず罵倒はするんだけれど、『意味』を持ってないんだ。罵倒が何を現しているかわかってないんだよ」
「なんか深い話になってきたのだ…」
「実際メスガキは深いんだ。大前提として、メスガキASMRは『立場』が大事なんだ。この『立場』というのは『リスナーが上でメスガキが下』というものだ。『自分よりも立場が下なメスガキ(例:姪、後輩など)に情けな~い♡されるからイイ』のであって、『立場』のない罵倒はただの暴言なんだ」
「ちょっと理解してきたのだ。つまり、罵倒をするという点に気を取られて、本質であるシチュエーションを忘れているということなのだ?」
「その通り!さすがシチュエーションASMRが大好きなずんだもんくんだね。確かに『ざ~こ♡』といった罵倒はメスガキとして重要ではあるが、あくまで『立場』の上で成り立っているということを忘れてはならない。この『立場』は不変のものであり、たとえ天地がひっくり返ろうとも維持しなければならないんだ」
ずんだもんにはあすまろの気持ちが痛いほどよくわかった。
シチュエーションが無くなる悲しみをよく理解しているからである。
配信型のASMRでシチュエーションが終わりを迎え、スーパーチャットの読み上げが始まるあの瞬間が、ずんだもんにとっては耐え難い苦痛であった。
「ただ、非常に良いメスガキASMRが存在するのもまた事実なんだ。今後のASMR人生で、君がそのような作品に出合えることを祈っているよ」
第四章 夢の贋作
「この章では、私が独自に行った実験について話していくよ」
「一体どんな実験なのだ?」
「私が行ったのは、『好みの声優だけでハーレムASMRを創る』というものだ」
「!?」
ずんだもんは驚愕した。
ハーレムASMRは複数の声優が演じるわけだが、全員が好みの声質である確率は非常に低い。
これはハーレムという性質上、近い声質の声優を集めるわけがないためである。
多様性あってのハーレム、これが社会通念上のイメージであった。
「そ、そんなこと、できるわけないのだ!多額の金を積めば直接声優を雇って自分だけの作品を作れるかもしれないけど、現実的じゃないのだ!」
「……まずはこれを見てくれ」
「こ、これは!?」
「そう、同時再生だ。好みの作品を同時に再生すれば、それはハーレムになるんじゃないか?」
「そ、それは思いつかなかったのだ…。確かにこれなら、自分だけのハーレムが作れるのだ…!」
「……作れない」
「え?」
「……この実験は失敗したんだ」
「えぇぇ!?なんでなのだ!?」
「理由は単純さ…この方法だと、声だけじゃなくて音も同時に再生されるんだ。そのせいで、耳かきされながらジェル詰め込まれながら吐息かけられて耳が大変(原義)なことになるんだ」
「そ、それは気持ちよくなさそうなのだ…」
「その上、声も被りまくるんだ。ハーレム作品は台本があって、それに合わせて話すから基本被らないけど、この方法だとセリフ被りまくりで何言ってるかわからないんだ…」
「えぇ……」
「…つまり結論としては『ハーレムを味わいたければ素直にハーレムものを聞こう』だ。私は実験の後、気分が悪くなって2時間ぐらい横になったよ」
「元も子もないのだ…」
第五章 最初の一歩、偉大な一歩
「今日の講義はどうだったかな?ずんだもんくん」
「いろいろな視点からASMRを知れた気がするのだ!」
「それはよかった!ASMRは未だ発展途上であり、更なるステージへと踏み込む可能性を秘めている。これからもASMRを愛してくれると嬉しいな」
「もちろんなのだ!これからもずっと聞くのだ!」
「それでは、今日の講義は終わりです!お疲れ様でした!」
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ずんだもんは、晴れた気持ちで講義室を出た。
今の時刻は午前11時。
帰り道は朝より明るく、足取りは確実であった。
家に着いたずんだもんは、ベッドの上で『高く評価した動画』の上から3番目の動画を開き、シークバーを端に戻してから、静かに目を閉じた。
『お気に入りは布団の上で』、ずんだもんの座右の銘であった。
15分後、日課を終えたずんだもんは、新たな項目を加えることにした。
狙うは概要欄の下、おすすめ動画の上。
『このシチュエーション最高です!新作待ってます!』
ずんだもんの通知欄は、シチュボの新着動画で埋まり続けた。
FIN
あとがき
テンプレはさておき、こんな怪文書を最後まで読んでくださり感謝感謝です。
初めてストーリー的なものを書いたので、色々おかしい気もしますがとりあえず書き終えられて良かったです。
今回の趣旨は、感想を形で残せってことです。ASMRに限らず、傍観してたら作風が変わっていたということがあると思います。自分はクリエイター側も経験があるので、頂いたコメントにどれだけの『力』があるか知っています。とても強いです。たった一つのコメントでも数百倍はモチベが出ます。
なので、ハマった時ほど声を大にして伝えましょう。
これが今回のアドカレで一番伝えたかったことです。
そして、もう一つ。
有料ASMRに手を出しましょう。
DLsiteには全てがあります。あれがほんとの理想郷です。
それでは、この辺で終わりにしようと思います。
よいASMRライフを!
余談
『立場逆転。ダメ、絶対』
これは古事記にも書かれています。
おねショタ同様、メスガキASMRも立場の逆転は許されません。
『わからせ』という概念がありますが、これはあくまで同人誌などの媒体で行われるものであって、ASMRにおいてはあまり有効打ではありません。
勿論、『わからせ』が存在するメスガキASMRも存在しますが、R-18ものでないと機能しません。(理由は自主規制)
結局のところ屈服したいんですよ、我々は。
負けることにこそ意義があるのです。
負けた先にある景色、一緒につかみませんか?
『先』で待っていますよ───────。