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築50年の幽霊屋敷から築1年の部屋へ

大学卒業後、私は地方に本社があるブラック企業へ就職しました。

本当は「勤務地は君の住んでいる地元で」という会社からの配属が言い渡されていて、「ただ新入社員研修は地方にある本社でやるので、1週間分の着替えを持って本社に来てください」という話だったんですが、電車で2時間の本社へ行ってみてビックリ。


社長「君は本社勤務だぞ」


いきなり、社長の気まぐれで、1週間分の着替えだけで、実家を離れて地方の本社勤務になりました。

とりあえず、1週間は会社がホテルを用意してくれたんですが、その後は住むところも何もありません。1週間分の着替えと僅かなお金しか持っていません(笑)

すると社長曰く


「うちには社員寮がある。家賃も水道光熱費も無料だから、そこに住みなさい」と、ありがたいお言葉。


そして、社員寮に行ってみて愕然。


なんだ・・・このゴミ屋敷は・・・


この社員寮。
戦後間もなく建てられた築50年の元連れ込み宿を社長が買い取って社員寮として使わせていた建物なんですが、廊下や空き部屋は会社の資料やら要らなくなったものが無造作に置かれて(捨てられて)いるゴミ屋敷の様相。

部屋は6畳一間。共同トイレ。共同台所。共同風呂。ただし風呂は風呂釜が変色していて、とてもじゃないが入れる雰囲気じゃない。台所のテーブルには無数に並ぶ飲みかけの酒瓶と、今にも壊れそうな共同で使う二層式の洗濯機。

実際に住んでみると、これがまた凄い。

家中に出現するカマドウマとゲジゲジ。夜中に天井から落ちてくるハサミムシに、天井裏を走り回るネズミ。

風通しが全く無く、夏は外が25℃なのに、部屋の中は35℃。

冬は寒すぎて、部屋の中なのに氷点下10℃を下回ることも。
私は、シャンプーが凍るということを、この社員寮で初めて知りましたし、建物中の水道管が全て凍るということも初めて経験しました。

夜中になると毎晩、隣の場末のスナックから聞こえてくる酔っぱらいの大音量カラオケと、人事不省の酔っぱらいが社員寮の裏口を叩いて怒鳴る声。

そして、この建物、近所の小学生からは幽霊屋敷として有名で、実際に幽霊屋敷だったんですが・・・霊感の強い人は入れない。霊感のない私でも何度か怪奇現象に遭遇。あまりにも幽霊屋敷なので、幽霊という存在が近くなりすぎて、同居人みたいな錯覚に陥っていました。


本当は実家から会社に通って、地元で新入社員生活を送るはずだったのが、一転して、田舎でサバイバル生活に(笑)
酒でも飲まなきゃやってられませんでした・・・


しかし、住めば都。
こんな環境でも7年間、住んでいまして、いつの間にか隣の場末のスナックの常連となりカラオケを熱唱(笑)

しかし、7年が経って29歳。来年は30歳。いつまでもこんなところに住んでいては人間が腐ってしまうと思い、生まれてはじめて、自分のお金で部屋を借りることにしました。


そして引っ越したのが築1年1LDKのアパート。


部屋って大事だなぁと心から思いました。


だって、冬になっても水道管は凍らないですし、トイレもウォッシュレット。銭湯に行って背中に絵が書いている人と同じ湯船に浸かる必要もないですし、カマドウマもハサミムシも出てこない。

もちろん幽霊も(笑)


普通の人には当たり前のことなんでしょうけど、私には全てが新鮮でした。
自分だけの部屋を持ち、帰る場所があるという喜びを知り、その部屋で色んなことを学ぶ意欲が湧くということを知りました。
そして、それら得るために自分でお金を稼ぐことの大切さを学びました。
お金を稼げなければ、自分が成長する環境は得られないということを。


私が引っ越した1年後。
社員寮は隣のスナックが火事になり、もらい火で全焼しました。
もし、もう1年住んでいたら、私も火事に巻き込まれて、下手をすれば酔っ払って寝たまま気づかず、今、こうやってこの文章を書いていないかもしれません。

初めて自分のお金で借りた部屋は、人生のまさに分岐点でした。

※幽霊屋敷の詳しい話もあります。


#はじめて借りたあの部屋

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