消えゆく検定教科用図書分析 中学歴史編

今回は趣向を普段と変えて、中学歴史教科書の分析を行う。
ただし、中学歴史分野にはすでに高名な先行者がいらっしゃるため、現行課程の検定教科用図書でなく、今回の学習指導要領改訂で消えた検定教科用図書を取り上げる。
また、中学歴史分野には、数多の思想渦巻いている(多くは語らずとも自明であろう)からこそ、普段、私が立ち入ることはないものの、シェアを取り戻せないまま、退場を余儀なくされた教材に関して、なんらか取り上げる場があっても良いだろうと思い、筆を取っている。

さて、消えゆく検定教科用図書とは731清水書院 中学歴史 日本の歴史と世界である。高等学校側でシェアの高い山川出版社の中学校参入と入れ替わる形で撤退したのである。
今回、これを手に入れることができたため、さっそく分析する。


まず、真っ先に特徴として、高等学校で顕在の、見開きで完結する清水流は中学においても顕在である。
ただし、高等学校の清水流は、山川と比較して有名ではないものの、生涯学習にも流用できるほど完成度の高い内容であった。しかしながら結論を先取りすると、中学においては大変残念と言わざるを得ない、というのが筆者の結論である。(がゆえにシェアも伸び悩んだのであろう。)

総論として、記述量が少ない割に中学校でそこまで必要かなあという語句が頭出ししかされておらず、かつどのページも記述量不足で消化不良なのが余計に目立っているように感じている。

また、清水流を貫きすぎるあまり、構成が破綻している箇所が散見される。
一例として殖産興業の説明である。
中学レベルでは北海道の開拓と絡めて、屯田兵(→さらに高校では開拓使払い下げ)とつなげて覚えれば有機的に整理できる。(し、筆者もそう整理している。)
しかしながら、そのページで北海道の開拓には触れているものの、屯田兵は出てこず、8ページほど後ろで北海道と沖縄の見開きで屯田兵の説明があるのである。これでは殖産興業との結びつきは閃かない。
殖産興業の例として安積疏水が掲載されているのは福島県にとっては好意的かもしれないが。(別のページでは会津藩の戊辰戦争後の記載もあり。高校資料集でも出て来ないような・・・?)

さらに、世界史要素が不足気味にも感じるのが余計に不安である。
例えば隋は国の名前だけしか説明がない。煬帝はどこへ?な感じである。元の箇所に至ってはチンギス・カンも見当たらない。(クビライ以前はなかったことになっている。)うーんこれらは流石に中学レベルだと思うのだが。

今一つ危ないのはその割には高度なことがしれっと記載されているところである。
例えば冒頭見開き、地理分野と絡めてか、日本の地震一覧が記載されている。さらに、南満州鉄道特急あじあ号や岩倉使節団の行路も載っている。岩倉使節団の行路はQMAで出題されるほどの難問である。これらが大学入試の難問作成者に見つかると危ない。(中学教科書に載っているのだから出題してよいでしょう、と開き直られる。)


受験マニアであれば本書を手に入れて損はないと思うものの、生涯学習に使えるほどの完成度ではない。(どうしてこうなった、とほんと思う。同社の高等学校用の検定教科用図書を横に置けばすぐにわかる。)
今回は現行課程の検定教科用図書との比較分析は行わない(比較分析には先行者がいるし、なおかつ数多の思想に巻き込まれたくない)ものの、本書は高校受験とも焦点があってないように思われる。
こうしたことから退場を余儀なくされたのであろう。

なお、書くまでもないが、清水書院は今回撤退が目立っている(中学公民、高校地理)ため、検定教科用図書研究者は早めの確保をおすすめすることとして、一旦筆を置く。
機会があれば中学公民編も記載しようと思う。

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