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AIに関する一私考

「何故ロバート・メイプルソープはリサ・ライオンを撮影したのか?」

これはほぼあらゆる文化事象に対してわかりやすく解説できる浅田彰をしてわからないと言わしめた難問だ。

AIに対してさほど興味を持てないのは、僕が日頃気になるのはもっぱらこうしたことで、それはおそらくAIによって正解が与えられる類のものではないからなのだろうという僕自身の判断による。

20世紀半ばの経済大国へと駆け上がっていく日本の人々が長期に及ぶローンを組んで購入したマイホームには、百科事典というインテリアが不可欠なものとしてあった。

百科事典はコンピューターが個人で扱えるものでなかった当時においては、間違いなく最も身近にある総合的な知識の宝庫であった。

有用に使った方もおられようが、あれが飛ぶように売れた理由は西洋風のリビングに初めて出会ったごく普通の日本人がそこに飾るに相応しいインテリアと考えていたからで、だからほとんどの家で百科事典はほとんど手に取られることなく埃を積もらせたまま古臭くなっていく一方の無用の長物と化し朽ち果てている。

今後AIは乗り物や家電等と同様に人間がやっていることの多くを代替していくことになるから、知識を詰め込ませただけの百科事典とはその点で異なるが、はじめに提起した問題に対して答えを用意してくれる類の知性とは異なる。

タイパが悪く集合知の対局にある「体験」(もの派と呼ばれる美術家にとってはそれ自体がテーマであるようなもの)をAIは経験することができない。
あらゆるデータを呑み込んで集合知に到達することに関しては人間を既に凌ぐとしても。

たとえそう遠くない将来に極めて高い意識を持つに到ったとしても、「体験」することによって得られる経験的な知性は各々で異なるものであることに変わりはなく、メイプルソープとリサ・ライオンについての問題などに関しては人間と同様に核心を射抜く答えは用意できないと僕は考える。

それ以前に、Googleに敗北したマイクロソフトが巻き返しのジョーカーとして切ったツールに過ぎないAIは、人間が地球という惑星が背負いきれない負荷と向き合うことを余儀なくさせ、この難問は解決不能と見ない振りして狂騒に踊る今の文明の存続を危うくさせる時期が先に来る可能性がむしろ高いと僕は思う。
彼奴らの食い物である電気というエネルギーは、コメやコムギやトウモロコシとは異なり高くつく。

既に我々人間は、仮想通貨のマイニングで使われたエネルギーの途方もない大きさに驚愕したばかりで、それなのに未だになんの打つ手も持つに至らない。
ならばと地球外に逃げきるという選択肢を将来的な現実として捉える向きもあるが、そのミッションを完遂させる時間はもはやほとんど残されていないと僕は見る。

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