航空中耳炎という病

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#同時日記 #飛行機

「航空中耳炎」という病気をご存知でしょうか。

きっと、聞いたことない、という人のほうが多いと思います。
皆さんは、ラッキーです。
どうぞこれからも、快適な飛行機の旅をエンジョイしてください。

「もちろん知ってます! 私がそうですよ!」というマイノリティの皆さん。
同病、相憐れみます。
あれ、洒落にならないほど辛いですよね。
私は最初にあの苦しみを味わったとき、冗談ぬきで、死ぬかと思いました。

忘れもしない、20歳のときのことです。
初めての海外旅行で、人生初の飛行機に乗った私は、「こんな巨大な物体が、何百人もの人を載せて空を飛ぶなんてすごいなあ」などと考えながら、機内食をぱくついていました。普段は、学生街の安居酒屋で、友人たちと粗悪な合成酒ばかり飲んでいるのに、CAのきれいなお姉さんにビールを頼めば、にこやかに持ってきてくれます。
「なんて飛行機はすばらしいんだ、また乗りたい」と感激しておりました。

そんな幸せな状況が終わりをつげたのは、
「これから当機は、乗り継ぎのため、ソウル空港への着陸態勢に入ります」
というアナウンスが流れたときからでした。

飛行機の高度が下がっていくに従い、耳の奥がキーンとなりはじめました。
高層ビルのエレベーターで降りたときに、耳がおかしくなりますが、あれの100倍ぐらい激しい感じを想像してもらえると、近いと思います。
周囲の音がだんだん聞こえなくなり、やがて、頭が割れるように痛くなってきました。
『西遊記』で孫悟空が悪さすると、頭の輪っかが締まるが、まさにあんな感じです。
「このまま行ったら頭蓋骨が割れて、鼻から脳ミソが出ちゃうんじゃないか」
と真剣に心配になるぐらいの激痛がこめかみに走り始めました。
耳の奥に鋭い針を突き立てられ、ぐるぐるかき回されるような痛みが、どんどん強くなっていきます。

おそらく気圧の急激な変化によって、耳がおかしくなったのだろうと思いましたが、周りの人たちはぜんぜん平気な様子で、自分だけがものすごく苦しんでいることが不可解でなりませんでした。
「やばい、死ぬかも」と、頭を抱えて真っ青になっていたら、通りがかった外国人の客室乗務員のお姉さんが、「どうしましたか」と声をかけてくれました。
青い顔で「ヘッド・エイク」と伝えると、これを舐めなさいと、キャンデーをくれました。
つばを飲んで、あごを動かせというのですが、さっぱり効果はありませんでした。

航空中耳炎というのは、耳の内部の空気と、外部の空気の気圧差によって起こる病気です。
ふつうの人は、自然に空気が抜けて、調整されるのですが、たまに耳管が細かったり、形が変わっていたりして、内耳の中が気圧でひしゃげてしまう人がいるんです。
自分がそういう体質だとは、そのときまでまったく知りませんでした。

結局、その痛みは着陸まで続き、地上に降り立ってもしばらくは、耳がおかしいままでした。

そんなわけで長らく私にとって飛行機は「鬼門」だったのですが、
5年ほど前に「バルサルバ法」という「耳抜き」の手法を身につけ、克服しました。
※バルサルバ法の詳細は、こちらをご覧ください。
http://www.meilleur.co.jp/otovent/aerotitis/

この風船みたいな器具がなくても、手で鼻をつまんで口を閉じ、鼻をかむ要領で空気を耳に送り込むと、プシュ〜と空気が抜けていきます。ポイントは、飛行機が降下をはじめた直後から、こまめに行うことです)

そんなわけで、もし飛行機に乗っているときに、隣の人が着陸間際に苦しみ始めたら、きっとその人は航空中耳炎です。
「鼻をつまんで口を閉じ、耳から空気が抜けるまで、圧力をかけてください」
とアドバイスしてあげると、きっと心から感謝されると思います。

こういう「痛い話」とか「病気の話」って「夢の話」と一緒で、本当のところはなかなか伝わらないんだけど、つい力説しちゃいますね。

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