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吉田カバンのカツさん

吉田克幸さん(通称・カツさん)という方がいらっしゃいます。

日本有数の鞄メーカー「Porter Classic」の設立者で、名うてのバッグ・デザイナーです。

直接お会いしたことはないのですが、共通の知人がいて、その知人が書いた本を通じて彼のことを知りました。
また、別の共有の知人を通じて彼のエピソードを耳にすることもあります。

そのたび、僕は「カツさんのような大人こそ、現代の若者のロールモデルとなるんじゃないか」と考えていました。

今日は、そんなカツさんのお話です。


浅草の鞄屋の息子として生まれた”カツさん”でしたが、二十歳を超えても、なにをしたいかサッパリわからない。

周囲の大人は家業を継ぐのかどうするのか、みたいな話をするけれど、当時は全くピンとこなかったらしいです。

「鞄屋を継ぐのは嫌じゃないけど、別に…」
そんな風に迷ったカツさんでしたが、

「海外に行って、色々見てきたらどうだ?」
とお兄さんに海外周遊を勧められます。

東京でふらふらしているくらいなら、日本の皮革業界に関係の深かったドイツに行ってこい、という兄心(このかみごころ)ですね。

お兄さんの勧めに従うことにしたカツさんは、単身フランクフルトへ旅立ちました。


とはいえ、日本でふらふらしていたカツさんですから、ドイツに行ったところでそれが急激に変わるわけでもありません。

語学学校に通ってドイツ語の勉強をしたりはするものの、相変わらずのふらふら具合です。

ですが、そんな生活がある程度続くと、

「ドイツくんだりで、ぼんやりしてる場合じゃない!」
と、体の中に熱が入ってきます。

結局、カツさんはドイツがつまんなくてロンドンに移動するわけです。

おじいさんに内緒で貰っていた仕送りで車を買っちゃって、その車でイギリスまで走っていっちゃう。


で、イギリスでは真面目に働いたこというと、そんなわけでもない。

当時は音楽もファッションもロンドン・ポップの真っ只中です。街中が最高にエキサイティングで、とてもじゃないけど働いてる場合じゃない。あくせくしがちな現代からは、想像もできないような素敵な時代です。

カツさんにとって、ロンドンはドイツより刺激的な街だったけど、やっぱり仕事をする気は起きなくて、ひたすら遊んでいた。

そんな感じの風来坊だったから、たいした収入はありませんでした。

でも、カツさんはその中で楽しむことを覚えた。お金がなくても人生を謳歌することができることに気づきました。


ロンドンで2年ほど過ごしたカツさん、次に選んだ街はニューヨークです。

イーストサイドのボロアパートで暮らし始めて、街を歩き、酒を煽る。

ここでも、カツさんは、風来坊です。ニューヨークに来たからといって、無理に慌てない。そこがカツさんの格好いいポイントなのです。

どこかの洋画の主人公のような生活を2年くらい続けたある日の夜、酒場からの帰り道。カツさんはふと「日本に帰ろう!」と思い立ちました。

もう存分に遊び切った。ふらふらしきった。そろそろ、やるかあ。


日本を経って4年後、カツさんは東京に戻ってきました。

遊びばかりの時代のリハビリを兼ねて、神奈川県で鞄職人をしていたおじさんのもとに弟子入りします。

毎日、淡々と皮革を断つ作業の繰り返し。仕事が終われば、おじさんと一杯煽ります。カツさんは、そんな生活の中で、自然と鞄作りの技術を身につけていきました。

そして、毎日鞄を触れていると、鞄作りの面白さに気づくわけで……自然と、カツさんは、家業を継ぐ決断をしました。


やるからには一流になろうと思って、一気に2800個の鞄を作り、東京で展示会を開催します。

その時、カツさん、25歳。

デザイナー吉田克幸の誕生です。


その後、カツさんは、日本人として初めて「ニューヨーク・デザイナーズ・コレクティブ」のメンバーに選出されます。


僕は、彼の若者時代のエピソードを耳にするたびに、

「カツさんのような大人こそ、現代の若者のロールモデルとなるんじゃないか」
と考えます。


現代の若者は(僕も含めてね)、考えがカタい。

特に、仕事のことを考えるときは、頭が岩のように凝り固まってしまいます。

「なにが正解なんだろう」
「失敗は許されない」
「貴重な若い時期を、無駄にはできない」
「一生の決断になるから、間違うわけにはいかない」

と。

でも、カツさんのようなアウトサイダーの存在を知ると、

「若いうちはふらふらしてもいいんじゃないか」
と思えてきませんか。


学校を出たばかりの段階では、ほとんどの人が社会を知りません。そんな中「決断を間違わない」というのは不可能に近い。

ですから、いっそのこと「決断を間違ってもいい」と思うのはどうでしょうか。そう思うようになると、気持ちがふわりと軽くなります。息苦しさから解放されます。


若いうちは、もっとふらふらしよう。気ままに生きよう。

そうやってふらふら生きていれば、いつか”ここだ”とわかる時がやってきます。人生が始まる一瞬だと、はっきりわかる時がやってきます。


カツさんにとってのニューヨークの路地裏が、あなたにもいつか訪れる。

その一瞬を見逃さずに、踏ん張ることができれば、

人生を豊かな心持ちで楽しめるんじゃないでしょうか。

きっとね。


そんなわけで「吉田カバンのカツさん」でした!
彼のことをもっと知りたい人は、「ドロップアウトのえらいひと」という本を読んでみてください。
明日のタイトルは「ちょっと粋なプレゼント」です。お楽しみに!


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