ビジョンがあるから進化できる
今からちょうど4年ほど前のこと。当時私は、フロント部門に導入する新しいオペレーションシステムの検討メンバーの一員だった。要件を整理する上での参考情報として、当時は、様々な他社事例を情報収集していたのだが、偶然、ある旅館の先進的な事例に出合った。
「旅館でDX?」
どんな取り組みをしているのかとても気になり、すぐに上司の承諾を得て、チームのメンバーを引き連れ、現地に話を聞きに行った。
とにかくビジョンが素晴らしかった。そのビジョンを実現したシステムを、スタッフ全員が実際に使いこなしている姿を見て、これが旅館?と驚いた。
アナログのよさである「おもてなし」を、デジタルの力を使って進化させていた。
例えば、みんな助けて!と、スタッフの方がインカムで伝えると、それが文字情報としてチャットでも発信され、手の空いた誰かが助けにきてくれる。
お客様の情報やスタッフ間のやりとりは、すべて文字情報として蓄積され、現場で見事に活用されており、きめ細かな接客に昇華されていた。
デジタルを使って、当たり前のようにチームワークを進化させている、目の前のできごとに、私は驚嘆した。
その後、プライベートで家族を連れて、この旅館に行ったけれど、客目線からはデジタル技術は全く見えなかった。そこにあるのは、スタッフのおもてなしだけだった。
「こういうのすごいな。これが理想的なテクノロジーの使い方なんだろうな」と思って、社内で報告はしたものの、みんな感心するだけで、そこから先の検討に生かすことはできなかった。
その後、人事異動で、上司を含むチームメンバーがガラッと変わり、新たなトップの方針に基づいて、検討自体が一からやり直しになった。
構想をシステムとして実現し、実際のオペレーションを進化させていくには、とてつもないエネルギーが必要で、スポンサーを含む協力者がいないと前には進まない。周りにビジョンを示しながら、熱意をもって具体的な要件をまとめていくパワーも不可欠。当時の私には、その力が足りなかった。すごい事例を見て、圧倒されただけで、そこから先に行けなかった。
いくら知識を増やしても、ビジョンと熱意を持って、周りを巻き込んで行動しないと何も変わらない。あの時の経験を反面教師にして、この先進んでいきたい。