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やす邂逅・1

目の前の優しげな顔をした男を、泰はちらと盗み見る。光の加減で銀色にも見える灰色の長い髪は、紐で一括りにされていた。

「転ばなくて良かったよ」
その柔らかな声にはっとした泰は、しがみついていたらしい男の両腕からばっと手を離し、赤面した。

着物に未だ慣れない泰は、よく裾を巻き込んで転ぶ。膝小僧をいつも汚してしまって、秋名に溜息を吐かれたのは何度だっただろう。
そんな彼をひょいと掬い上げたのが、目前の優男である。
「あ、ありがとうございます。あの僕は、泰と申しまして、あのーーー」
じっと泰を見る眼に戸惑った。
己を語って良いものかどうなのかと、家主の無愛想に眼鏡を光らせる怜悧な顔を思い浮かべながら、目を白黒させた。
その様子に、ふふ、と微笑んだ男は泰からやっと視線を外し、指先を上の方へ向けた。
「私は慎と云うんだ。山の方に住んでいる。宜しくね。泰、だったかな?」
「あ、はい。えと」
困った風に眉根を寄せ、慎と名乗った男を見た。
薄茶の瞳がゆらゆらと揺れるさまを、慎は可笑しそうに眺めている。
「あの方は?」
こわごわと尋ねる声に、慎は背後を見やる。
ちっという舌打ちと共に、明るい橙色の髪をかき上げながら、もう一人の男が進み出て来た。
整った顔立ちながらも、みるからに強そうな雰囲気を纏っている。

泰を明らかに胡散臭そうに観察している強面に、
「日向、そう怖い顔をするな」
慎は苦笑混じりにたしなめた。

[泰]
異世界に突然放り込まれた大学生
秋名の処に居候している。
ドジで少し天然。動物に好かれる。
攻撃力が皆無。

和風異世界、さんワールドへ!

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