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私が知ってるテルヲさん

朝ドラは毎日の習慣で、おもしろいと思う作品もそうでない作品も、欠かさず観ています。現在放送している「おちょやん」はわたしの好みの作品で毎日感情を揺さぶられながら生活をしています。

ヒロインの父親「テルヲ」は、朝ドラの歴史のなかでもとびっきりのひどい親父。後妻の言いなりでわが子を奉公に出してしまったり、自分が作った借金のためにヒロインを売り飛ばそうとしたり、女優となったヒロインのところに現れて有り金全部もっていってしまう。

それでも、テルヲはテルヲなりに娘を愛しているらしいし、演じているトータス松本さんが持つチャーミングさでなんとか朝の視聴に耐えていました。そして、先日の放送で逝去されました。視聴者によくも悪くも強烈な印象を与えて、あの世へ行ってしまいました。

私がなんでこんな話をするのかというと、よく似た人を知っているのです。実父ではありませんし、義理の父でもありません。私が勤めている施設(半日型のリハビリタイプのデイケア施設)をかつて利用していた男性(ここではテルヲのTさんと名付けます)が、なんとなくテルヲ風味を持っている人でした。

Tさんはとにかくマイペース。口が達者で、あーいえばこー言われてしまう。病院には、とにかく行かない。転んで手の骨を折ろうが、意地でも病院に行かない。当然、薬も飲まない。ときに深酒して、まっすぐ歩けなくなってデイケアから帰されてしまう。つねに煙草くさい。身体の自由も効かなくなってきて、家の中で転倒すると自分では起き上がれなくなってしまい、周囲をヒヤヒヤさせっぱなし、という人だった。

ただ、Tさんは自分よりももっと身体の不自由な奥さんと二人暮らしをしていて、文句を言いつつも奥さんをケアする人でもあった。Tさんは「困った人」ではあったけれど彼自身も相当に「困っている人」だった。そして、なんともいえぬ愛嬌のある男性であった。Tさんがいるデイケアのコマは、なんとも賑やかで笑いが絶えなく、しかしながらトラブルになりかけることも度々あって、独時の雰囲気があった。

(あえて失礼を承知で書くが)殺しても死なないようなタイプのTさんが、半年ほど前に自宅で急死した。私の職場のスタッフ一同が、Tさんとの突然の別れを信じられないくらいだった。
Tさんの不在は、他の利用者にとっても大変大きかった。しばらくは「今日はお休み」と告げ、その後は「都合で、他の施設に利用することになった」と説明することになった。Tさんのことを思う声はしばらく続いたもの、次第にみんなの口に上る機会も減っていった。

ところが最近になって、またもTさんの話が それも頻繁に話題になるようになった。私は休憩中にそのことを別の同僚に話すと、その同僚は「一度もあったことがない」という。無理もない。入って2か月足らずのスタッフと、勤務時間の関係でその男性と顔を合わす機会のないスタッフだ。

同僚たちにTさんの思い出話を話しはじめて、初めて あ!テルヲに似てる!と思い至った。そう思い始めると、朝ドラのテルヲの晩年の姿がどんどんTさんと重なり合う。朝ドラのテルヲは希代の「悪い父親」だったが道頓堀のみんなにとっては憎めない存在で、私の知っているTさんも本当に愛される存在だったのだ。

言っておくが、Tさんはそんなに悪い人間じゃない。借金もない(と思う)し、長年この街でしっかり仕事をしてきた男だ。その仕事は息子が継いでいるという。
だから、こんな文章を書く私をTさんが見たら「とんでもねえな」と𠮟りつけるだろう。そして二カッと笑うのだろう。あの笑顔、もう一度見たいよ。









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