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チョムスキーとの対話 10戦いすんで夜は更けて

 会場を出るときに、ビュッフェの食事がまだ残っているのが目に止まった。そういえば夫の食事もろくに用意しないまま家を飛び出してきたんだっけ。残りものは捨てられるから、おみやげにちょっと頂いていこう。

 ウェイターの人が片付けを始めているから、急いで紙皿に食べ物を積み上げる。皿が手のひらサイズなので、山盛りにしても大した量ではない。これ以上乗せたらこぼれるというところで別の皿でふたをして、落とさないようにそろそろと待ち合わせ場所の駐車場に向かう。夕方チョムスキーと話をしたのと同じ所だ。

 ああ、ついに落札してしまった。でも本当にチョムスキーに会えるのかなあ。受け取りがないけど、手違いで他の人のところに連絡が行ったりしないだろうか。まさかメールアドレスを書き間違えたりしていないだろうなあ・・・。夜半の秋風に吹かれながらぼんやり今夜のできごとを反芻していると、さっき話をした夫妻の車がやってきて目の前で止まった。「帰りの足がないの? 送っていこうか?」

 迎えの車を待っていると言うと、じゃあおやすみなさいと言って走り去っていった。そういえば彼らは希望商品が手に入ったのだろうか。とても親切な人たちだった。

 間もなく夫の運転する車が到着。チャイルドシートで寝ている赤ん坊の横に座り、今夜の成果を報告しながら家路についた。「この子が大きくなったら、金の指輪がチョムスキーというおじいさんに化けた話をしてやろう」と考えながら。

続く



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