![図1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/8982434/rectangle_large_type_2_bd627e2125d0f237845141148289bef9.jpg?width=1200)
旅の、のさりー授かりもの
水俣の海は、ほんとうにきれいで穏やかだった。見ている限りでは、水俣病のことは浮かんでこなかった。それでも見渡すと、埋め立てられた海があり、底には水銀ヘドロが残ったままで、認定を受けた患者さんは現在も2,000人を超えている。
きれいも穏やかも悲しみも苦しみもある、そのすべてが水俣だと思った。だからこそあの海をあのようにきれいだと感じたのだと思う。たとえようのない、いま、ここにしかないというような、そういうものが放つ、奥深く優しい輝き。
わたしのなかにもそんなことがある。楽しい、嬉しい、満たされている、そんな感情がある一方で、つらい、苦しい、憂鬱というものもある。けれど、海にふたをしてしまうように、ネガティブな感情には見ぬふりをしたり、感じる前に避けたりしてしまう。そのことが、思ってもない言葉を発し、納得していない行動につながっていく。
あの海を見て帰ってきたとき、ああ、ふたをするのはもうやめよう、ただそう、ふと思った。
●きむしずか
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