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「ららら♪クラシック」サリエリ特番に出演

11月27日にNHK Eテレ「ららら♪クラシック」でアントニオ・サリエーリ特集回が放送されました(NHKではサリエリと表記されますが、史実ではサリエーリを使いたいので、表記ゆれあります)。音食紀行も歴史料理で出演しました。

実は、この特番(特集回)については自分が発端になったのかなと思ったので、企画スタートから放送までを大まかにまとめたい次第です。

2019年10月15日
 1本のメールが届きました。相手は「ららら♪クラシック」の制作ディレクター。「音食紀行の日ごろのご研究をもとにした企画をご紹介できたら楽しい番組になるのでは・・?と思い、音楽×食をテーマにして番組を1本制作し、来年どこかで放送できればというイメージ」というものでした。早速、打ち合わせをしたいと思いまして、いま、ちょうどそのテーマにピッタリの音楽家をまとめていますよと『宮廷楽長サリエーリのお菓子な食卓』の校正前初稿240ページを企画書代わりに送りました。すぐにゲラを読んでくださったようで、打ち合わせの日時も決まりました。

2019年10月17日
 NHKで打ち合わせしました。特集テーマは「大作曲家たちのレシピ(仮)」というもので、クラシック音楽が好きだが作曲家の生涯などは詳しくない方々に向けて彼らが好んで食べた料理やお菓子を紹介する番組という内容でしたが、こちらの送った「サリ菓子企画書」によって、番組の構成はアントニオ・サリエーリで行くことが決まりました。但し、この打ち合わせで番組がすぐに作られるわけではなく、番組の編成会議で企画が通ったら具体的に進めていくことになります。企画が通ったとして、実際にサリエーリのどこを取り上げるかを確認しました。放送希望日は2020年4月以降、特に6月ごろを予定。もうこの時には下記の点が既に話し合われたと思います。
・モーツァルトとサリエーリは引き離す(毒殺疑惑やアマデウスなど手垢のついたテーマにはしない)。
・教育者、後進を育てる側面に光をあてる。
・サリエーリが実際、食べた料理は何になるか。アイスクリームは確定。レモネード屋台で出されているので、レモンアイクリームとして問題なし。
・上記からサリエーリとシューベルトで話を進めやすい。

上記↑の骨格が既に初期段階で決まっていました。まぁ、そうじゃないと特番やる必要ないですね。新たな形で提示して新鮮な驚きを提供する。

この打ち合わせを受けて色々調べていくことになりました。

2019年10月下旬
・「音楽の戯れ(スケルツォ)」=三声カノン《Scherzi armonici vocali》。滑稽な歌詞を持つ25曲のカノン

第1曲<聖歌隊に来て Venga nel nostro coro >

・シューベルトの50年祝賀に寄せるカンタータ

 この2曲で進めていこうと楽譜などを確認していきました。
三声カノン取り上げられたら、とても面白いと思った記憶があります。

2019年11月27日
 前日の11月26日が音食紀行主催『宮廷楽長サリエーリのお菓子な食卓』自作自演出版記念パーティで、NHKディレクターさんも招待しました。
 感謝のメールと共に残念なお知らせが。別のディレクターが提案した「作曲家が愛した料理」(ロッシーニをはじめ複数の作曲家を取り上げる)という番組が1月放送予定で企画が通ったためこちらの企画はGOにならず、半年ほど間隔をあけてまた再提案するというものでした。
 それがこちら。2020年1月17日放送「清塚信也が語る“作曲家の愛した料理”」回(なお、その企画には関わっていません)。まぁ、残念ですが元々2020年6月で話を進めていたわけなので、水面下にいる間に様々なことをブラッシュアップさせていき、企画が採用されるのを祈りました。

2020年3月20日
 コロナ禍に入り、様々なイベントが中止、延期となっていったこの時期。「ららら♪クラシック」も動き始めました。
 案の段階ですが、6月12日放送(6月18日再放送)、番組テーマを「サリエリ~天才たちを育てた管理職の鏡~」というもので行きたいという連絡でした。もうこの時点で、「サリエリ先生ウィーン生活50周年祝賀カンタータ」の収録とN響(スウィトナー指揮)のアーカイブ映像「交響曲 聖名祝日」を放送するという案が進んでいました。

 そして、水谷先生にサリエーリの音楽の話と音食紀行にサリエーリの食の話を収録するというものでした。
 レモンアイスクリームを作るにあたり、アイスの歴史はどのくらいのもので、サリエーリとシューベルトが食べたアイスはどのくらいの価値があるものなのかという質問もあったので、それについてまとめました。

2020年4月8日
 「ららら♪クラシック」の部内会議でサリエリ特番企画は通過したとの連絡あり!しかし、緊急事態宣言発令中はロケに伺うことが難しく、「サリエリ先生、マジ天使」の合唱を収録できるのかも含めて予定通り番組が作れるのかどうか各所調整しているとの連絡があり、これまでとはまた違った形(リモートでの収録)になるぞと少々緊張しました。事実、ディレクターからYouTuber的な撮影方法で個人撮影という案が出ていて、むむむという気持ちとなりました。
 通常であれば、テレビカメラの前で料理を作り、それに対して話せばいいことが、自分の電子機器を使いながら上手くテレビに耐えうる画質や映像で出せるのかというコロナ以前では考えることのなかったことを考える必要が出てきたのは少々困ったことでした。

 そして、番組からのリクエストは当時どのようにアイスクリームを冷やしていたかその過程を撮ることができるのかというものでした。1733年刊行メアリ・イールズのアイスクリームの作り方には「容器の底に麦わらを敷き、氷を入れ、453グラムの天日塩をそこに加えたら、クリームの入った容器を全てその中に入れます。容器同士がくっつかないように、氷と塩で容器をつつみます。容器の上に氷をたっぷり載せて、桶を麦わらで覆います。日光や明かりの入らない地下室に置いて、4時間経って凍ったクリームのできあがり」とあり、これを再現するのか!?と思ったりしました。

 ちなみに、この時にサリエーリとシューベルトが食べたアイスクリームについてディレクターに説明しています。下記に抜粋します。

〇原文のアイスクリーム表記について
1827年刊行『最新・総合ウィーン大全』
656. Eisrahm, - Man vermischt den Obstsaft mit dem nöthigen Zucker, gibt dann Rahm dazu, der von mittlerer Dicke feyn muß, und läßt es in der Gefrierbüchse frieren.

Eisrahmアイスラームです。
一方、ヒュッテンブレンナーが書いた手紙の原書(一次史料"Schubert - Die Erinnerungen seiner Freunde")を読むと、サリエーリとシューベルトが食べたものにはGefrornem凍ったものという言葉をあてています。

但し、"Schubert - Die Erinnerungen seiner Freunde"を訳した英文では、

"from time to time Salieri treated his pupils, Schubert among them, to ice cream, which was obtainable from a lemonade kiosk in the Graben" and states that "Salieri thought a great deal of Schubert" (Deutsch 1958:66).

ice creamという語にしていますし、

"Schubert - Die Erinnerungen seiner Freunde"の日本語版『シューベルト 友人たちの回想』では、アイスクリームになっています。

〇アイスクリームはどこで食べられていたか
グラーベンのレモネードキオスク(ドイツ語ではLimonade-Hütte=リモナーデ・ヒュッテ[意味:レモネード屋台/小屋])でサリエーリとシューベルトはアイスを購入して食べました。
グラーベンのレモネードキオスクは、当時のウィーンの夏の風物詩だったみたいです。大きなテントを張った夏季限定のレモネード屋台がウィーンでは人気でした。

このLimonade-Hütte=リモナーデ・ヒュッテを調べると、
https://www.geschichtewiki.wien.gv.at/Limonadezelt

その後、多くのコーヒーメーカーが「レモネードテント」の設置許可を申請し、コーヒーハウスやレモネードテント(主にグラーベンのそばの広場)が有名になりました。今日のフォルクスガルテンにあるコルティッシャー・カフェハウスのレモネードテントも人だかりができていました。

グラーベン通りにレモネード屋台を出すのは申請制で、多くはコーヒーハウスが大元でした。家で作ってきたアイスクリームもあれば、申請元のコーヒーハウスから持ってきた可能性もあると思います。

本書(#サリ菓子)ではレモネード屋台でのアイスということで、レモンアイスとしていますが、ラズベリーやイチゴなど様々な果物を使ってアイスクリームが販売された可能性があります。​

2020年4月22日
 ディレクターから連絡があり、リモートインタビュー撮影も含めて検討したものの制作準備が間に合わない懸念事項が複数あり、今回のサリエリ番組の撮影は7月以降(放送は10月以降)に延期することが昨日(4月21日)決まったとの連絡が入りました。この続きはまた、7月以降にご相談させていただきつつ撮影が実現できればありがたいというもので、この企画が暗雲が立ち込めました。企画は通っているもののいつ収録できるかの見通しが立たない事実。社会情勢的に厳しいことはわかっていたもののサリエーリ復権が・・・。
 しかし、気持ちを改めてポジティブに考えました。企画が立ち消えてはいない。また、合唱などの収録ができる状況になれば収録は再開されるだろう、と。そして、サリエーリの生誕270年は2020年8月18日から2021年8月17日だからその間に放送されれば、たとえ来年2021年放送だろうとサリエーリ270年記念祭!と言える。状況が変わるその時まで、自身の情念を腹の底に潜ませて日々を生き抜くこととしました。

2020年8月18日
 アントニオ・サリエーリ270歳の誕生日。喜びと共にディレクターさんへこちらからメールご連絡。なんと、ここまで対応くださったMディレクターは異動していて、後任に何度も番組を作っているUディレクターにバトンタッチされていたという連絡が。そして、Uディレクターから誕生日祝いとして次のようなメールをいただきました。

「スタジオ収録日は10月13日、放送日は11月27日に決定」

 きたーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!これで、サリエーリ270年祭という名目も兼ねた特別番組を放送できるという気持ちになりました。勿論「ららら♪クラシック」の様々なテーマの一つとしてアントニオ・サリエリの番組となるわけですが、こちらとしてはもうスペシャルフェスティバルですから。盛り上げていきましょう、となるわけです。

 嬉しい気持ちを爆発させたツイートがこちら。

2020年9月17日
 サリエーリとシューベルトのアイスクリーム収録前の打ち合わせ。1年ぶりのNHK。昨年の10月が遠い昔のような、ここまでようやくこぎつけたような様々なものが去来しました。
 アイス収録日は9月28日月曜12時に決定。会場は音食紀行がいつも借りている沖本邸に。
 確認事項としてはグラーベン通りの画像、1827年刊行『最新・総合ウィーン大全』のアイスレシピ、ヒュッテンブレンナーのシューベルト証言が載っている自身の本"Schubert - Die Erinnerungen seiner Freunde"の該当箇所でした。

 そして興味深いことも聴くことがました。

 日本初のサリエリ特番は嘘になるけれど、21世紀初のサリエリ特番は本当と言えるだろうと。

2020年9月28日
 アイス撮影日でした。当日のtwitterはこちら。

 「ららら♪クラシック」の情報解禁は高橋克典さんの番組収録後のブログアップということもここで教わりました。次回のスタジオ収録が10月13日(火)ということで、このブログ公開から情報解禁ということで、先を越されないように、高橋克典ブログをブックマークし、投稿される時間帯の傾向と対策を確認する日々となりました。

 なお、水谷彰良さんの収録はこの週の金曜日だということも教えてもらいました。水谷先生が出演することが確実となり、これで、予定通り史実のサリエーリ番組でしっかりしたものになるだろうと思ったものです。

2020年10月13日 
この日がサリエリ特番情報解禁日です。これまでの傾向と対策では21時ごろのアップが多いということで、決戦は夜だろうと見込んでいましたが、一応昼もリロードして新着ブログ記事が出ているかを確認、、、出てんじゃん!!!!!ヤバい!急げ!

サンキュー カッツ。

2020年11月25日
放送2日前。ベールに包まれていたサリエリ特番の内容がおよそ25秒にまとめられた番組告知動画が登場しました。

なるほど...!ちなみにこの時までに話を聴いていたのは「番組の終盤にて、時間は長くはないのですが、とても印象深いシーン」ということでした。つまり、結構カットされたんだなと思ったわけですが、どうなるのか。ワクワクドキドキです。

2020年11月27日
放送日当日。当日のツイートです。初めて全貌がわかるのでドキドキ感が強かったです。あっという間の30分でした。

条件反射につぶやくドアホウの例。

作家かげはら史帆さんの感想が的確でした。

ナクソスジャパンとのサリエーリの関わり

カットされたこと。

結論

最初に自分へ「音楽と食」というテーマで番組をという話でしたが、自分が番組に出てどうこうよりも、2018年から始まったFGOのサリエリムーブメント並びに史実のサリエーリを知りたいという強い欲求をここまで浴び続けた一人としてアントニオ・サリエーリをしっかりと世に知らしめたいという想いから本番組が生まれたと言っていいかと思います。270年という50年単位でみると中途半端な数字に見える誕生祭も、歴史に葬り去られてから復活したサリエーリの21世紀を歩んだ20年の足跡を考えると大きなフェスティバルと感じられます。

 それでも、270年祭りは通過点で、いま注目すべきは没後200年である2025年です。2020年⇒2025年という5年間はサリエーリ研究にとっても大きな5年となり、その始まりの前夜祭として「ららら♪クラシック」は良い番組だったと思います。これを皮切りにサリエーリ作品にスポットを当てた番組が出てくるのが楽しみでなりません。

<了>

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