vs行政?

温泉に関わる方と話していると「町は何もしてくれない」という言葉を聞くことが多いです。行政に期待しないといいながら不公平な扱いをされていると感じる要素を多々挙げたりして。

そして、自分もそんな風に思っていました。
すべてが終わった後で冷静に振り返ってみても、あの町は全く動いてくれなかった。なのでその時の気持ちはたぶん間違いではないのです。そもそも私が一人で切り盛りしていた温泉施設は、先代(創業者)が町役場に開店の挨拶に行ったら「営業しなくていい」「俺の目の黒いうちは絶対に認めない」と職員から言われたという過去がありました。
それを知っていたので、期待していない気持ちと、それでも「私の代には何か変わるかもしれない」という淡い期待が混在していました。

その淡い期待は全くかなわず。「ここは町の観光資源」と口では言いますが、資源を生かそうという素振りはありません。それは温泉に限らずで、あらゆる資源が資源のまま放置状態でした。
町会議員でさえ「役場に事前に相談に行くと潰されるから、全部決まってから行け」とアドバイスするような役場だったので、やりたいことは完全にこちらで独自に。仕事の合間に町内のあちこちに挨拶に行き、協力してくれそうな方を見つけてイベントを開催するなどしました。
町役場には開催前日に足を運び、「明日からこういうことをやります。明日の新聞でも紹介してもらうことになっています。もし役場に問い合わせがきたら、全部こちらに回してください」という事務的な報告だけ。
期待しない極致です。

ただ、やりたいことを役場そっちのけでやりながらも、「vs役場」という対決構造を表立って作ることはせず、(おそらく町内の業者で私だけだったと思いますが)定期的に役場が作ったパンフレットなどを「うちの温泉に置きたいから」と取りに行ったり情報を仕入れに行ったり、事務的ではあってもイベントをやる時には告知に行くようにしていました。

こちらがイベントをやる時は必ず新聞などの主要メディアに載るようにしていましたし、町内で私のことを知る人が増えてくると、役場もその存在を認めざるを得なくなります。メディアを見て役場に問い合わせをする人がいるので、必然的にそうなるのです。そして、いつの間にか役場の方が乗っかってくることもありました。

スタンプラリーを独自開催した時、ちょうど同じタイミングで行政主導の「町長が町を案内するツアー」的なイベントがありましたが、その直前に役場の職員が私のところに来て「ツアー参加者に配りたいから、スタンプラリーの台紙を分けて欲しい」と。

札沼線最後の冬、駅をキャンドルで照らすイベントを2月に開催した時は、「そんなイベントをやっても町のためにはならない」「役場のイベントでないものを地域おこし協力隊が手伝うことは、たとえプライベートでも許さない」「町主導で開催するイベント以外は全て認めない」というのが町役場の公式見解でしたが、いざ開催してみると町の広報誌の編集担当者がしっかり取材に来て、イベントの写真が大きく広報に載るという。

きっと、否定されながらも肯定してくる不思議でツンデレな存在が、民間業者から見た行政なのだろうと思っています。

言うまでもないですが、民間と行政では思考パターンや組織を動かしている論理が決定的に違います。その思考パターンや論理には地域性がありますが、どことなく共通した行政ならではのセオリーがあったりして。
そしてそれは、いくら民間が壊そうと思ってもほぼ壊れません。

つまり、対決の構図を作っても何も解決しない。
SNSで「問題提起」し、限られたフォロワーによる「世論」を味方にしても何にもなりません。その町民以外の「世論」は行政にとって考慮に値するものではないからです。そんな武器を振り回しても防御を固くするだけです。

そして行政側も同じ感情を持った人間です。
敵対的な姿勢を見せてくる人に対して構えるのは当然。
そして、行政が「あの人(会社)は役場の敵だ(面倒臭い奴だ)」というイメージを一度持ってしまったら、それが解けるまでにとんでもない時間がかかります。そういうところは職員が変わっても引き継がれるます。

自分(特定の民間業社)にとって利益になることはやらなくて当たり前。
そう割り切った上で、こちらが大人になって行政の姿勢に理解を示しながら付き合うのが良いのでしょう。
たまに良いことをしたら、ラッキーくらいに思ったりして。

そんなことを書きながらも、今自分は行政側の仕事をさせてもらってます。
行政側だから反発もあるのは覚悟していますが、行政が少しでも温泉のことを何とかしようという姿勢を見せているのは喜ばしいことですし、今までになかったこと。純粋にありがたいと思うので、自分の時間やデータを提供しています。

人生って不思議なものですね。

温泉経営者だった経験を生かし、北海道の温泉をさらに盛り上げる活動をしていきたいと思っています。サポートしていただけたら嬉しいです!