地球のはなし「ポンティングと鉄輪(1)」
ポンティングとは、二十世紀の初めの頃の写真家で、英国のスコット大佐の二回目の南極探検(1910~12年)にカメラマンとして同行したことで知られている。ただし、彼自身は一年だけで帰国したので、スコットを始めとする五名の極点到達員が、その帰路、全員遭難死したという悲劇に接したのは、後になってからである。
南極域に先立って、彼が日本に来て写真を撮ったことは、スコット隊の科学隊員チェリー・ガラードが著した「世界最悪の旅」をとおして知っていたが、その体験を記録に残していたことは、うかつにも、つい最近まで知らなかった。
書店で偶然みかけた「英国写真家の見た明治日本」(講談社学術新書)によれば、1901年頃から1906年までの間に数回にわたって来日し、九州にも来て、熊本の水前寺公園を見物し、阿蘇山に登った。阿蘇では混浴の温泉に入っている。中岳の火口を覗き込む人たちの写真などが掲げられていて、興味深い。
中で、吃驚させられたのは、十人ほどの男たちが入浴している温泉の写真に「鉄輪温泉」と書かれていることである。男たちは、細長い浴槽に仰向けに並び、一方の縁を枕にし、他方の縁に足をのせていて、特長的である。ところが本文には、鉄輪や別府の記録は見当たらない。
南極滞在中、夕食後のレクチャーで、彼は日本のスライドを隊員たちに見せたそうである。件の写真が本当に鉄輪だとすれば・・・確かめたいと思っているところだ。
- 「大分合同新聞夕刊」 2006年7&9月 -
【ポンティング】
19世紀末から20世紀初め頃に活躍した英国出身の写真家
(詳細は、別府温泉事典「ポンティング」をご覧ください)
別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものから温泉に係るものを順次ご紹介しています。
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