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手打術新書[うどん打ちの全て]四巻-技術編-手の内の章

六節において前半は理論で戦ってきたが、後半は主に花形である延し切りの二点において特にスポーツ性の高い反復練習を要する「技術」の世界になる。

蕎麦は技術、饂飩は理論、とよく言われるが、うどんにももちろん技術が必要だ。蕎麦と違ってうどんには塩が加わり、踏み熟成という工程が加わることで、より計算を要する生地作りになる点が理論と呼ばれる由縁だ。

延しにおいては蕎麦と似た動きで生地を伸ばしていくのだが、塩が加わることで強化されるグルテンの反発を掌握し、体重を使わなければうどんは延ばせない。厳密に言うと筋力だけでは限界があるということだ。ゆえに体の使い方がうどんの延しでは重要になる。それに加えてグルテンの反発を見極める必要もある。

具体的には讃岐うどん打ちの奥義「すかし打ち」へ至る道を説明していく。すかし打ちとは、生地が棒ごと空に浮いて落ちる時に打ち台にトントンと音鳴らしながら伸ばす打ち方だ。

一見どうということのないように見える。しかし体重を使うことで筋力消費を最小限に抑えつつ、最大限のパワーを放ち続けることで生まれる、大量に生地を延ばす持続力、安定したスピード精度、これが職人達がたどり着いた、誰もが憧れる究極の麺打ちなのだ。

体の使い方を覚えた職人は、これを目で見るのではなく手で感じて判断していく。優れた店主は店内を見渡しお客の動きを見ながら司令塔を行いつつ、笑顔で挨拶もこなしながら麺を正確に打つ(心眼打)

スポーツというのも単に体を動かすというからではなく、動きを体に一つずつ覚えさせていき、無意識化で行える動作を増やしていく。さらにその覚えた動きを、生地の状態や目指したい麺線、食べる時間からの逆算、あらゆる要素を計算しながら理論を用いて対応していく必要がある。

理論も技術も覚えたら完成するわけではなく、常に変わる小麦粉の性質や環境や状況に適応しながら時間もみながらこなしていく必要があるのだ。

ここから始まる技術編では延しの極みである「すかし打ち」に至るための道を要素分解し、手の内の章からレベルに分けて順に説明していく。

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