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ドットコム起業物語~蹉跌と回生のリアルストーリー

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90年代終わり。いまや伝説となったビットバレーに飛び込み起業した20代の青年がバブルの波に翻弄されながらも楽天へと企業売却するまでの、蹉跌と回生のリアルストーリー。 起業におい… もっと読む
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2019年10月の記事一覧

第31話 Infinite Loop

← 第30話 中目黒駅から、楽天ビルまでは、だいたい15分くらい歩きます。山手通り沿いを目黒方面に進むのですが、通りから一本東側にある、目黒川の近くを通る小道の方が、ずっと落ち着いて歩けるので、そちらにしました。 僕の中では、ずいぶんと暑い日だったように記憶されています。 9月末だったので、まだ夏の湿気と太陽が残っていたのかもしれませんし、ただ単に、自分がホットに上気していただけかもしれません。 まだ時間は十分にありました。 わざとゆっくりと歩きながら、この後のミーテ

第32話   突入

← 第31話 腕時計を見ますと、アポの時間になりました。 もう、逃げられません。進むしかない。 開き直ったのでしょう。考えても仕方がないと。 このタイミングで、頭の中の無限ループは止まり、何かのスイッチが入りました。 目の前にそびえ立つ(実際は低層ビルですが)銀色のビルは楽天。Shopping is Entertainementというタグラインを掲げている割には、全くエンターテイメント性を感じない、質素で無愛想なエントランスが、威圧してきます。 その圧は三木谷さんと

第33話 それぞれの信義則

← 第32話  九月末の季節外れの暑い一日。日本のEC市場を牽引する楽天の、本拠地オフィス最上階。目黒川を望む会議室で、緊迫したやりとりが続いていました。 対面左側の澁谷さんが、まずは挨拶がわりに、一発かましてきます。 プロトレード さんの今年の売上予想は、800万円の着地、バーンが年間で3,500万円程度ということですよね。 将来の事業計画も見ましたが、保守的にみて、ディスカウント・キャッシュフローベースで計算すると、企業価値は良くて1億といったところじゃないですか

第34話 むき出しのキレ

← 第33話 もしそれが、気に入らないなら、しょうがないです。 難しいかもしれませんね。 落ち着きながらも、少しふてくされた調子で、僕が言い放ったこの言葉。 これをトリガーに、目の前のお二人が、対照的な反応をします。 スナックで、俺は、中目黒の織田裕二だとでも言い張ってそうな、澁谷さんは、いやいや、ちょっと待って。いかないで。という反応。(これは僕の想定通りです。秘書情報によると、次に三木谷さんの登場。となるはずなので、ここでブレイクされると困るはずなので) 興銀の

第35話 押し切る力

← 第34話 ちょっと、失礼。 楽天の中目黒オフィス、5Fの大ミーティングルームの、華奢な男性。山田常務が立ち上がって退出していきました。 残された澁谷さんと僕の間では、会話がしばし続いていましたが、僕は次の展開を想像し、うわの空だったように思います。 次こそ、ラスボス登場に違いない。 落ち着け、俺。 けれども、意思に反して、自分の心拍数が上がってゆくのが分かります。どこか冷めた目で、「俺って小物だなぁ」と、外から見つめている自分がいました。 ここで、澁谷さんが

第36話 畳の上の邂逅

← 第35話 三木谷が帰っていると思います。 ちょっと顔を出していきませんか。 すっきりした表情の山田常務が、おもむろに僕を誘いました。その段取りは、事前に準備されていたのでしょう。 既述の通り、三木谷さんとの予定がアレンジされていることは、秘書さんからアクシデント的に聞いていましたので、僕は十分に心の準備ができていました。あの男との、邂逅です。 楽天中目黒オフィス5Fの作りは少し変わった作りになっていました。 エレベーターを降りてフロアに足を踏み出すと、扉が二つあ

第37話 本当のプロダクト

← 第36話 プロトレード 社にとっての、2000年10月は、奇妙な時間の流れのもと、ゆったりと進んで行きました。 楽天への合流に向け、お客様へのアナウンスの準備、システムの移管、会計、法務的な処理などなど。新規の開発や広告営業はストップ。 オフィスの退去も、もともとNetAgeがまとめて借りてくれていたフロアの、又貸しだったので、スムースでした。確か家具などの備品は、お隣のファインワインさんにお譲りしたと思います。 メンバーは、役員と社員だけでなく、アルバイトだった

Epilogue エグジットの実際

あまり表には出ない類の話に、なるのかもしれません。 スタートアップが、M&Aでエグジットに至るケースは、日本では一体どのくらいあるのでしょう。 数字はいろいろありますが、大企業が小規模買収を面倒くさがり、小型IPO市場が、いい意味でも悪い意味でも、整備されてしまった日本では、スタートアップのエグジットは、まだまだ少ないです。対象を広めにとっても、年間60-70社といったところでしょうか。 そして、さらに、その「中の人」のリアルな感情がどうだったのか、語られているケースは

若さを生かす起業、経験を生かす起業

渋谷原宿エリアのタピオカ店のおおさには呆れますが、それと張るくらいに、世の中には、成功したビジネスマンの話がたくさんあります。 起業ノウハウ本も、必要以上にゴロゴロしています。 僕は全くの無名ですし、大してノウハウもないのですが、ネットベンチャーを19年前に起業し、破産の寸前で、逆転エグジットに、なんとか辿りつけた経験があります。 その濃厚な日々は、自分の中に様々な感情と、しこりをのこしました。 長年、この話には、蓋をしていたのですが、思うことありまして、最近、note