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《詩》いまのいままで忘れていた

いまのいままで忘れていた

わたしのあたまの中が

でっかい演芸場であることを

わたしがのぞめば

馬はオレンジの火を吐き

うさぎは尾を振り正確に時を刻んでほっぷする

正しい位置に配列した7ひきのわにが

みかづきいろの声でぽぉんと鳴いて

馳け廻る喇叭(らっぱ)の音が

人のざわめきを連れてくる


夜の帳が

2枚の扉に幕を下ろし

内なるドォムの金の柱に

7つの紅い火が灯って

はじまり はじまり



なぜ、しらないの

わたしのあたまの中は

一角獣の沈む海

金の鯨のかける空

水と風のあいだのぶっしつ



なぜ、しらないの

あなたのあたまの中には

海に通じる階段があることを

白い砂まじりの風が

びいだまいろのしぶきを巻き上げやってくる

そこでは世界はさかさまに見えるでしょう

透明な太陽が

見たことのない光の曲がり角を作るでしょう

星の軌道は涙より早く

悲しみの記憶をかけ抜け

新しい地平にたどり着くでしょう

どこかで絶えず巻き上がる憎しみの竜巻も

あなたの天蓋(うち)には届かない


わたしのあたまの中は

海と空とが交わるところ

ダイヤモンドの砂嵐

まだ見ぬ花の開く森


なぜ、しらないの

ありがとうございます。