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キミにふれる



淀川の河川敷

だんだん暗くなっていく空と共に、瞼を落とす。


地面についた背中から音が聞こえた。
タンタンタン という音。

人の息遣いが聞こえた。
走っている人が足で地面を鳴らす音だと気がついた。

瞼の上、額の方から音が聞こえた。
ブゥーーン という音。

これはよく聞くなぁって、バイクの音。


遠くの音が右の頬を撫でた。

小さい頃からこの音が鳴ると耳と目を塞いで、通り過ぎるのを待った。

近くに在る時はあんなに痛いのに、
遠くに在ると何でか暖かかった。



不思議だと思った。

音は空気の振動。
ナニカが空気を動かすことによって、空気と空気の摩擦が音になる。

「音が聞こえる」
ということは、何かが動かした空気が、また空気を動かして、、、
それの連鎖がここまでやってきているということ。


でも聞こえない音もある。

遠すぎたら、小さすぎたら、聞こえない。

それは何でだろう?
空気の振動が途中で終わっちゃうのだろうか。
他の振動に邪魔されちゃうのだろうか。
届いているのに気が付かないのだろうか。


気付きたい。

誰かの、誰にも聞こえなかった声に気づきたい。
あの子の、空に溶けてしまった声に気づきたい。



「みの」

って名前を呼ばれる。

キミが動かした空気が、ここに届く。
キミが私だけのために震わせた空気が、ここには在る。


振れる。
震れる。
触れる。

だから、音が聞こえている。




「 キミにふれる 」












瞼を開くと、辺りは暗く落ち始めていた。

あぁ、音が見える。

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