自転車を盗まれる話
僕が通っていた高校は、お世辞にも治安が良いとは言えない学校だった。
まず僕は入学初日に靴を盗まれた。
入学祝いで買ってもらった新品をその日に盗まれた。
2ヶ月くらいすると今度は自転車を盗まれた。
1週間後に駐輪場に自分の自転車が停められていたので、鍵を壊して乗って帰るという、自分の自転車を盗み返すという謎の現象が起きるくらいには治安が悪かった。
というか自転車通学で自転車盗まれてないやつを見つけるのが困難なくらい自転車を盗まれることが当たり前だった。
駐輪場には自転車の鍵を壊す道具が置かれていて、それを使って自転車を盗んで帰るって言うのが普通だった。
そんな高校なので次第に自転車で通学しなくなり、無許可で原付で登校して近くの神社の駐車場に停めるのが当たり前になっていた。
話は変わって、僕の同級生にタモティーと呼ばれる男の子がいた。彼は留年していて年齢は僕らの一個上で、痩せてて色白で背が小さいけどドヤンキーという謎の生き物だった。
彼は留年したこともあり、僕らと同じ学年で生活していたのだが、行動の一つ一つが、なんと言うか「クローズ読んでイキってる奴」っぽかった。
わざとらしく肩を張って歩いたり、唾を吐いたり、眉毛がなかったり、でもとっても親しみやすくてみんなからも「タモティー」のあだ名で親しまれていた。
そんなヤンキーちっくなタモティーだが、ある日授業が終わり放課後みんなで駐輪場の方に歩いていくとおそらく後輩であろう1年生のちょっとやんちゃな子が自転車を盗んでいる真っ最中だった。
「おーやってるやってる」と、もはや珍しくもなんともない光景だったが、友達のひとりがそれを見て言った。
「あれ?盗まれてんのタモティーのチャリじゃね?」
よく見るとタモティーがいつも乗っているハンドルがカマキリのように曲がったママチャリが、後輩の手によって鍵が破壊されていた。
もちろんタモティーもその場にいたので、僕らはタモティーが後輩にブチ切れるのを期待していたのだが、タモティーはと言うと
「おっ、おい!あれ俺のチャリ!俺のチャリ!!」
と聞こえるか聞こえないかくらいの微妙な怒鳴り声を上げ、当然後輩に聞こえるはずもなく、鍵を壊した後輩は持ち主の目の前でチャリを盗んで乗って帰って行った。
タモティーはその間も
「おれのチャリ!おい!あいつら!!ッザケンナヨ!!おい!!」ともう遥か彼方へ言ってしまった後輩に怒鳴りつけていた。
正直「なんで追いかけないんだろう」と突っ込みたかったが、それより何より後輩に目の前で自転車盗まれて止めることも出来ずに、後輩が見えなくなった所でいきり散らかしているタモティーが面白くて面白くて正直呼吸困難になりそうだった。
結局タモティーは自転車を失い、ヤンキーであるにも関わらずお母さんに迎えを頼んで帰った。
卒業してからタモティーには会ってないけど、元気にしてるんだろうか。
一つだけ言いたいのは、自転車と傘は盗むものではなく、買うものだということだ。
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