ライヴ覚え書き(2024/6)

2024/6/30
「時の葬列 第四夜 覚醒のレゾナンス」新宿ワイルドサイド東京

 久々の「時の葬列」 ジュネから招集がかかり、ちょっと調べてみたら面白そうな予感がしたので雨の中を新宿へ。こういう時の勘は当たるもので、大変に面白いイベントだった。

 フライヤーの惹句にもある通り、今回のテーマは「プログレ」らしく、そういえば昔インタビューで「クリムゾンのスターレスでオレにとってのロックが終わった」みたいなことを言ってたなあと思い出したり。クリムゾン的プログレはパンク以前のジュネのルーツなのである。会場ではレンチのメンバーや元オートモッドのyukinoなど、バンドマン関係が多数。いつもの「時の葬列」らしいゴスロリなお姐さんやど派手なコスプレイヤーはぐっと少なく、なんだか因業そうなプログレオヤジらしきオッサン多数。

 トップバッターがいきなりオートモッドで、ジュネ以外のメンバーはオレが知ってる時とはがらりと変わっている。音はまあ、クリムゾンですね。暗黒ゴシックなポジパン風クリムゾン。昔の曲もプログレ風にアレンジされ、そこにジュネの暗黒ボイスが響いて、なんだか異様なロックになっていた。なんでも新加入のベースの人が(見た目がロクシー時代のフィル・マンザネラみたい)ブラックメタル出身だかで、そういえばちょっと北欧メタルっぽさもあった。こんなユニークな音は世界中探してもなかなかないと思うが、ジュネはダテに40年以上もアングラやってないというか、どう考えてもまっとうな人間ではない(なりえない)いかがわしさ、猥雑さ、邪悪さが滲み出ていて、その毒の強烈さにクラクラする。演奏面ではDoomのpazzのドラム・プレイがとにかくすごくて圧巻。バンド全体を彼のプレイが支え、引っ張っているような気さえした。

 あまりに濃厚な1時間弱で、そのまま帰ろうかと思ったぐらい。いつのまにかジュネに招集された?バンドマンはみんないなくなっている。ぐっと少なくなったフロアで気を取り直して対バンの「青天の霹靂」。清春のプロデューサーとして知られる三代堅のバンド(ギタートリオ)で、不勉強にもまったく知らなかったが、オールインストの変拍子バシバシの超絶技巧プログレッシヴ・メタル……というよりは、マスロックだな。もっともマスロックとかポストロックみたいな音楽にありがちな知性が勝って神経質で線の細いイメージがなく、荒々しくタフで豪快なロック・バンド色が強くて相当にかっこいい。強力なヴォーカリストが入ればレッド・ツェッペリンみたいになれるかもしれないが、たぶんこの演奏を制圧できるようなヴォーカルはなかなかいないだろう。もう10年以上のキャリアがあるそうで、全然知らずにもったいないことをした。

 そしてトリは「曇ヶ原」なる5人組バンドで、これも初めて知った。10年以上のキャリアがある「プログレッシヴ・ハード・フォーク」バンド。これは前2つと違い正統派のプログレに一番近く、そこに日本っぽい叙情派フォークの味が。もともとおかっぱ頭メガネのヴォーカル君のアコギ弾き語りで「高円寺無力無善寺」あたりでやっていたそうで、それがどこをどういう道を辿って今みたいなクリムゾンやジェネシスやヴァンダーグラフジェネレイターみたいシンフォニックになったのか知らないが、文学的で内向的な歌詞と繊細なアコギのアルペジオ、やたら展開が多くドラマッチックなプログレ楽曲の融合が味。叙情フォーク味が強いぶん、いまの私の興味からは少し外れていたけど、とても面白いライヴだった。1時間弱の演奏時間で4曲しかやらない曲の長さ、しかも黒人音楽的なミニマルな繰り返しが全然ない展開とキメだらけの複雑な楽曲がやたら新鮮だった。

 そしてアンコールは曇ヶ原のメンバーをバックにジュネ先生がキング・クリムゾン「エピタフ」を歌いあげるという凄い展開。何度か見たクリムゾンのライヴで「エピタフ」を聴いた記憶はないし、いくら大名曲とはいえこんな記名性ありすぎな曲をカヴァーしようなんて物好きもなかなかいないから、もしかしたらカヴァーとは言え生まれて初めてこの曲の生演奏を聴いたかも。曇ヶ原の演奏は原曲をほぼ完全に再現。そこにジュネのダミ声ボイスが乗ると、なんとも形容しがたいデカダンス渦巻く暗黒世界となる。グレッグ・レイクのような美声ではないから原曲の美しさや透明さや繊細さというよりも、見てはならぬものを見たような異形の危険さと、それゆえの悲しさのようなものが滲み出ていた。ジュネの歌はうまいとは決して言えないけど、だからこそ整った歌唱では伝わらない熱があったというか。これは名演・名唱だったんじゃないか。正直ちょっと感動してしまった。

 そんなわけで大変に濃厚で発見の多いイベントだった。ライヴハウスはこういう出会いがあるから面白いですね。今のオートモッドならすぐまた見たいと思うが、次のライヴは11月だそうで、それまで地下に潜ってもっとバンド・サウンドを練り上げるらしいです。

2024/6/14~15

(14日金)
◉ミュージックマイン30周年@渋谷www
Ayane Shino 1曲だけ
ロマンポルシェ。
2much Crew
長谷川白紙
Ahh Folly Jett 1曲だけ
(15日土)
◉ミュージックマイン30周年 @渋谷www
Kirihito
↓(移動)
EYE (DJ) @ 恵比寿リキッドルーム
Dos Monos @ 恵比寿リキッドルーム
↓(移動)
◉ミュージックマイン30周年 @ 渋谷www
コールターオブディーパーズ
ギターウルフ

 2日間で8バンド。ちょっとしたフェス並みだった。
 土曜日は途中でDos Monosのレコ発に移動したので、moreruとWrenchを見逃している。

 オールドスクールなオルタナ祭りといった感のミュージックマイン30周年では、やはり長谷川白紙の現代性と個性、感性の鋭さが圧倒的だった。

 1日目。 ロマンポルシェ。は久々に見たが、芸風が1ミクロンも変わってなくて感動した。キャベツを切るところが一番笑った。そして長谷川白紙は、まさかのハンドマイクを持ち、前に出てきて踊りながら歌うという展開。音も凄かったし、もうそこだけ別世界。顔出ししたことでなんか吹っ切れたんだろうか。圧倒的だった。

 オールナイトのイベントだけど、ロマンポルシェ。を見るために早めに詰めていたので、長谷川白紙の濃厚すぎるライヴを見終わったら一気に疲れが出てしまい、早々に退散。いろんな人に会ったし楽しかったです。明日も行きます。


 2日目。久々に見たキリヒトのかっこよさにシビれまくり。そしてオーラスのギター・ウルフはドラムが交代してから初めて見たけど、感動した。ショウの構成、やる曲、コスチューム、パフォーマンスから演出から何から昔から1ミクロンも変わってないが、そして昔から何十回も見て隅々まで知り尽くしているはずのライヴなのに、感動した。

 彼らの音楽は自分に少しでもツッコミを入れると途端に破綻すると思う。ギター・ウルフのやる音楽が世界最高で、ロックンロールこそが世界で最高にカッコいい音楽で、自分たちは世界最高にカッコ良いロックンローラーだと、心から確信してないと、ああいう音楽はできない。リーダーのセイジの感性こそが唯一絶対の基準で、他メンバーが彼を心から尊敬し、彼こそが世界最高のロックンローラーだと信じてやまないからこそ、あのギターウルフの世界は成立する。死んでしまったビリーを除き、それ以外の辞めていったメンバーたちは、そこを信じきれなくなって辞めたんじゃないか。そんな確信が音になり、演奏になり、パフォーマンスの隅々に宿っている。つまり「本気」だってことだ。だから強い。そいつはとてつもなく清々しく感動的だった。あくまでも現在進行形のかっこよさで、断じてノスタルジーではないのだ。

 そんなわけでいろいろ見たものが最後に見たウルフですべて塗り替えられてしまった感は、正直ある。

 しかしDos Monosの熱気とエネルギーは凄いと思った。若い観客のヴォルテージの高さも。そしてアイちゃんのDJはぶっ飛びモノの凄さだった。長谷川白紙とやった時のエスノ・トライバルな感じというよりは、ガバとインダストリアルとハードコアテクノをぐちゃまぜにして攪拌して極度にスピードアップしたような圧倒的な刺激と高揚感。映像込みでマジ最高でした。
2日間で立ちっぱなし&歩きすぎで足腰がパンパン。たぶん明日は全く使い物にならないと思われる。おとなしく座仕事に励むことにします。

2024/6/13
幽体コミュニケーションズ@ラママ

 久々に見たけど、素晴らしいライブだった。アンビエント・ポップ〜フォークトロニカ〜オルタナティブR&B〜ポスト・ロック。リリカルで繊細な男女ヴォーカルと、センスを感じさせるアレンジワーク。他にない個性のある音楽で、ゆらゆらと揺れるような夢見心地なライブが最高に心地良かった。対バンライブで、もうひとつのバンドが出てたけど、ちょっと疲れた&余韻を楽しみたかったので中座。

2024/6/3
田畑満@ドミューン。スティーヴ・アルビニ追悼特集におけるアルビニ・トリビュートのギターソロ演奏。表情豊かで感情のこもった素晴らしいライヴ。


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