[日々鑑賞した映画の感想を書く]「アメリカン・ユートピア」(2020年 スパイク・リー監督)(2021/3/26記)

 デヴィッド・バーンが2019年にブロードウエイで行ったショウをスパイク・リーが映画化。信頼する友人たちがことごとく絶賛していて、期待度もりもりで試写に臨んだが、それをはるかに上回る素晴らしい作品だった。

 バーンを含む総勢12名のメンバーが繰り広げるアイディアと遊び心と熱意とメッセージに満ちあふれたショウ。コンサートであり、ミュージカルであり、演劇であり、舞踏であり、パフォーマンス・アートであり、政治運動であり、そのすべてでもある。12人のメンバーすべてが歌い手でありダンサーでありプレイヤーでもある。なるほどアイディアひとつでライヴはこれほどまでに新鮮で自由で知的で解放的で喜びと驚きと興奮に満ちたものになるのかと目からウロコです。当時すでに67歳だったバーンの旺盛な実験精神とクリエイティヴィティ、リーダー・シップの完璧さ、そして衰えぬ声と肉体には驚くばかりだ。映画はほぼオンステージの彼らの動きを追うのみだが、カメラワークと編集のテンポの良さと的確さはさすがにスパイク・リーと思わせる。

 もちろんデヴィッド・バーンと言えばトーキング・ヘッズ時代の名作「ストップ・メイキング・センス」があるが、あれが36年ぶりに更新された手応えは確かにある。今後はこの「アメリカン・ユートピア」がロック・コンサート映画の到達点として長く評価されることになるはずだ。「ストップ・メイキング・センス」のジョナサン・デミは亡くなったけど、もし存命ならこれも監督することになっただろうか。もしスパイク・リーではなくデミが監督していたらどうなっていたか。

 これを読んでる人でデヴィッド・バーンをまったく知らない人はあまりいないと思うけど、もし万が一知らなかったとしても、これだけは絶対に見ておくべきだし、彼の音楽を知らなくても絶対にお楽しめると思う。ここで提示されているのは音楽エンタテインメントの快楽と可能性そのものだから。

 いやここだけの話ですけどね、「シン・エヴァンゲリオン」を見てから一種の虚脱状態になっちゃって、エヴァ関係以外のどんな映画も見る気になれないという状態が続いてたんですけど、これ見てやっとそこから抜け出られた感がある。すごいエネルギーをもらっちゃって、勢いに任せて場所を変えてもう1本全く別の映画を見てしまった。その感想は別途。(2021/3/26記)

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