[日々鑑賞した映画の感想を書く]『新聞記者』(2021年 Netflixドラマ版 藤井道人監督)(2022/1/13記)

『新聞記者』(2021年 Netflixドラマ版 藤井道人監督)

 昨日公開されて、全6回を一晩で見てしまった。かなり面白かったです。映画版と同じ藤井道人が監督で、主演が米倉涼子。

 森友学園問題で公文書改竄に関わった官僚が良心の咎めに耐えきれず自殺した事件がモデル。最初の2回で自殺に至る経緯を丹念に描き、その後はなんとか事件の真相に肉薄しようとする女性新聞記者の動きを中心に描く。事件の経緯そのものはほぼ事実に即していて、あまりに理不尽な展開に終始ムカムカしっぱなし。先日見た「ユダとブラックメシア」も腹が立ったけど、あれは50年以上前の出来事。これはつい3年前のことだから、深刻度も生々しさもより強い。これはどこにも忖度する必要のないnetflixだからこそ実現できた内容で、日本の地上波ドラマでは永遠に不可能でしょうね。米倉は主演とは言え、道化回し的な役柄で、スーパーヒロイン的な活躍をするわけではない。どちらかといえば自殺した官僚の妻(寺島しのぶ)や甥っ子(横浜流星)、事件の隠蔽工作を命じられた若手官僚(綾野剛)の苦悩と葛藤だったりが深く掘り下げられている。米倉の役は「外科医大門未知子」とは全く異なる、弱さや脆さを持った女性として描かれる。泣いているか泣きそうになっているか、そのどっちかの表情が多く、ちょっと演技パターンが単調だなあとは思ったが、女優としての自分の殻を破ろうという意欲は感じられる。役柄が固定化して俳優としての幅が狭まっている感がある米倉にとって、この作品が今後の俳優人生においてきわめて大事な勝負作であることは想像がつく。米倉さんは好きな女優のひとりなので、これを機に大きく飛躍して芸域を広げてほしい。

 面白かったし飽きなかったが、全体的に事実のあまりの重さ、理不尽さに足をとられすぎて、主役としての米倉の描き込みが足りない印象は否定できない。もちろんスーパーヒロインにする必要は全くないが、ドラマとしての完成度という点では、もう少し工夫の余地はあった。日本人なら言わずとも頭の中で補ってくれるディテールの説明が不足している感もあって、日本国内の政治社会事情を知らない海外の視聴者がどう受け取るかが興味深い。

 綾野剛、田口トモロヲ始め、ほかの俳優たちの演技も見ものだが、とりわけ苦悩する若手官僚を演じた綾野剛、自殺した官僚を演じた吉岡秀隆、これ以上なくイヤな奴を演じたユースケ・サンタマリアの徹底した悪役ぶりがお見事。(2022/1/13記)


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