[映画評] vol.21 梅田航監督『SOUNDS LIKE SHIT the story of HI-STANDARD』2018年11/10公開

  ハイスタのヒストリー・ドキュメンタリー映画『SOUNDS LIKE SHIT』。めちゃくちゃ面白い作品でした。11/10公開。

 バンド結成から、メンバーそれぞれが問題を抱えながらもそれを乗り越え現在に至った経緯を、よく知られていることも、知られざる事情もまじえ過不足なく描かれる。メンバー3人以外の発言は一切出てこない作りは、横山健のドキュメンタリー『疾風勁草編』と同じだけど、3人の微妙に異なる立ち位置と発言を包み隠さず見せることで客観性はある程度担保されている。ナレーションや説明的な字幕は一切出てこないが、ハイスタの歌詞を適宜引用してバンドの状況やメンバーの心情を語っていく。正直私は世代的にハイスタにそれほど強い思い入れがあるわけではないけど、ぐっとくる場面がいくつもあった。ハイスタで育ったような人にはたまらないんじゃないでしょうか。

 ハイスタの登場が、バンドブームの反動で閑散としていたライヴ・ハウスを再興させたという話も出てきます。ちょうど同じ頃バンドを結成して頑張っていたのがSeagul Screaming Kiss her Kiss HerやBuffalo Daughterで、ハイスタの屋根裏のライヴをその時期たまたま見に行ったというバッファローの大野由美子は、シーガルの日暮愛葉との対談で、こんなことを言っています。

––––当時ライヴハウスで頑張ってたのが、HI-STANDARDとか、ああいうバンドですね。彼らがライヴハウスを再興させたという面もあると思います。
大野 そうそう。見に行ったことあるよ。友達が一緒に出るっていうから屋根裏に見に行ったら、すごいのよ。パンパンに(客が)入ってて、すごい盛り上がりで。私たちとは全然違うから、ああ私たち(の居場所)は日本じゃないんだと、ちょっと思った。ちょっとしたカルチャーショックだったね。

 日本では居場所がないと感じたバッファローは海外に活路を見いだそうとしたわけですが、ハイスタもまた海外へ積極的に出て行きます。映画ではそんな興隆期のハイスタの姿もちゃんと描かれています。どんなバンドでも、本格ブレイクする前の助走期の話は面白いですね。

 ファット・マイク(NOFX)が初めてハイスタのライヴを見た時に「君たち、チューニングはちゃんとした方がいいよ」と注意したという話が出てくるけど、上記の座談会では、バッファロー・ドーターが初めてシーガル・スクリーミング・キス・ハー・キス・ハーと対バンしたとき、シュガー吉永が日暮愛葉に「チューニングって知ってる?」と言ったという話が出てきます。どんな音楽やっててもチューニングは大事って話ですね。

 監督の梅田航君は元WRENCHのマネージャーで、その後スチールのカメラマンとして活躍していた人物。劇場用映画の監督はこれが初めて。しかしそうとは思えないほどテンポのいい演出・編集は素晴らしい。実績のあるベテランではなく、まだ未知数の才能をフックアップして大役を任せるハイスタもさすがだと思います。

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