[映画評] vol.19 ルーシー・ウォーカー監督 『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』7/20公開

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』試写。
http://gaga.ne.jp/buenavista-adios/

 説明するまでもないヴィム・ヴェンダーズ監督の音楽ドキュメンタリーの傑作『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999年公開)の続編。主要メンバーの逝去や高齢化などで解散したキューバの楽団ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(BVSC)の最後の世界ツアー(2015~2016年)の様子を中心に描いたもの。ヴィム・ヴェンダーズは制作総指揮という形で本作にも関わっている。ライ・クーダーも少し顔を出す。

 アルバム『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を出すまでの各主要メンバーの生い立ちや苦労話、音楽的ルーツに始まり、前作で使われなかった映像も使い、バンドが世界的成功を収めるまでの様子、そして今回のツアーに至る過程などを経て、解散ツアーの模様、そして最後のハヴァナ公演に至るまで、知られざるエピソードやメンバーのコメントなども交えたっぷり語られる。どちらかといえば、解散ツアーの様子よりも、それに至るまでの背景やエピソードが多く語られる。

 言うまでもなく前作から今作までの間に、アメリカとキューバの国交正常化という歴史的出来事が起きた。この映画にはそうした社会の動きも反映している。クライマックス近くには、BVSCの面々がホワイトハウスを訪れ、オバマ大統領の前で演奏する様子が収められている。オバマのキューバ訪問はその翌年。つまりBVSCの成功がそうした動きを文化的側面から促進したとも言えるわけだ。欧米の人気バンド(ストーンズ)が初めてキューバでライヴをやったドキュメンタリー作品『ハヴァナ・ムーン』と隣り合わせの関係にある(ある意味で)姉妹編でもある。

 しかし前作から今作に至る最も大きな変化は、主要メンバーの多くが亡くなってしまったことだろう。最高齢のコンパイ・セグンドを始めイブライム・フェレール、ルベーン・ゴンザレスなどの音楽家が亡くなった。彼らの在りし日の映像もふんだんに使われ、さながら映画全体が彼らへの追悼の辞、あるいは「死者のカタログ」といった趣があるが、彼らの芸を伝統として後の世代に残していこうという製作者の意思を感じるから、「終わり」を描いた映画なのに、あくまでも前向きなエネルギーに溢れている。そこが本作の最大の美点だ。

 ここで演奏される音楽が今のキューバにおいてどれだけアクチュアリティのあるものなのか、専門外の私にはよくわからないけど、随所に登場するキューバの人々の笑顔、そして陽光煌めく街の風景は、前作と変わらず魅力的だった。


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