[日々鑑賞した映画の感想を書く]「恋の豚」(2018年 城定秀夫監督)(2021/2/7記)

 城定監督の「アルプススタンドのはしの方」が非常に良かったので、続けて見た。R18+指定の成人映画(ピンク映画)『世界で一番美しいメス豚ちゃん』を一般向けのR15+作品に再編集したもの。オリジナル版は見ていない。配信サービス「Videomarket」のレンタルで見た。

 無類のお人好しで、いつも「ごめんなさい」と謝ってばかりの自己肯定感の低い主人公マリエは、友人の借金の肩代わりで、太めの女性専門のデリヘルで働いている。ある日ふと出会った見るからにヒモ感丸出しのダメ男カズに恋してしまい同棲生活が始まる……という、いわば正統派のラヴ・ストーリー。

 かなり太めの女性を主人公にしていること、作品名、また主人公が働くデリヘルの名が「メス豚養豚場」ということで、ポリコレ的にはかなり危うい印象を受けるし、人によっては非常に不快な思いをするかもしれないが、私の印象は、とにかく「優しい作品」。主人公の体型を揶揄したりバカにしたりする人物は誰も出てこない。自己肯定感の極端に低いマリエをカズは普通の女として扱い、体型もおどおどした態度も下手くそな料理も「ま、いっか」「普通じゃん」「こんなもんだろ」と、ごくフラットに受け入れる。このカズの人物造形は最高だ。カズの妻も、マリエが借金しているヤミ金の店長も、マリエに求婚するデリヘルの客も、口の悪いデリヘルの同僚も、彼女の周りの人物はみんなマリエに優しい。もちろん監督自身の目線も優しい。それがいいいのだ。

 自己肯定感の低い女性主人公が、自分を認め受け入れてくれる人たちに巡り会うことで成長し、どんどん可愛らしく、キレイになっていく……という意味では現在放映中のドラマ「その女、ジルバ」によく似ている。

 マリエとカズの出会いのやりとりとか、同棲するアパートでのエピソードとか、花火の場面とか、海の場面とか、クルマの中の会話とか、ラストとか、コメディの基本を守りながらも、印象に残るセリフやシーンも多い。特に最後にカズと妻が交わす会話は映画をピリリと引き締めている。

 脚本も演出も手堅い、ウエルメイドなラブコメの佳作。とはいえ元はピンク映画なので、人を選ぶことは確かだろうが、気になる方はぜひ。(2021/2/7記)

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