柴那典著「初音ミクはなぜ世界を変えたのか?」感想文

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 初音ミクの誕生から現在までを、電子音楽の黎明期や60年代ヒッピー・ムーヴメントの時代から連なる音楽史、文化史の中に位置づける書。記述は明快で過不足なく、この画期的なソフトウエアの歴史と、それがもたらしたものについて、きわめてわかりやすく記述されている。古くから深く入り込んでいる人はともかく、これから知ろうという人には最適だろう。情報革命後の社会の変化に求められるのがクリエイティヴという概念で、その手立てのひとつとなるのが初音ミクである、というクリプトン社伊藤社長の意見も興味深い。

 ただ、本書の性格上仕方ないだろうが、全体のトーンが楽観的に過ぎるのは少し気になった。また音楽創作を巡る環境や流通の現場、クリエイターの姿勢、音楽ビジネス/文化のあり方に大きな影響を及ぼしたことは了解できるとしても、初音ミクが音楽表現そのものに及ぼした影響についてもう少し知りたかったところ。初音ミクを使った作品の多くは、音楽表現そのものとしては既存のJ-POPやJ-ROCK、テクノポップの枠内から少しも逸脱しないような印象があるからだ。安価なサンプラーやシーケンサーの登場がヒップホップやテクノという新しい音楽表現を生んだようなことが起きているのか。最後の対談部分で少し触れられているが、もう少し踏み込んでほしかった。


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