[映画評] vol.20 ブライアン・シンガー監督「ボヘミアン・ラプソディ」2018年11/9公開

 クイーン、というかフレディ・マーキュリーの半生を描いた話題作『ボヘミアン・ラプソディ』。既に公開された海外でも大ヒットしている模様です。以下は一度だけ見た六本木TOHO CINEMASでの試写の直後に記した感想(Facebookに書いたものの転載)です。非常に面白い映画で、長尺だけど、最後まで飽きずに楽しめました。評としては全然まとまってませんが、覚え書きとして。ネタバレ気味なので、知りたくない人はパスしてね。

◎映画の試写会は時間ギリギリに行くと満員で入場を断られることがよくあるので、開演の45分前、開場の15分ぐらい前に着いたら既に受付は長蛇の列。なんとか座れたけど、案の定、直前に着いた人は入場できなかった模様。配給会社が動員を読み違えたという噂だけど、映画への期待感の表れでもある。

◎始まってすぐに20世紀フォックスのテーマソングが流れるんだけど、それがブライアン・メイとロジャー・テイラーによるカバー新録(サントラ盤にも入っている)。聞けばすぐにわかるブライアン・メイ節でニヤリ。そこでもう映画に引き込まれる。

◎まず思うのは「メンバーの顔、似てねえ!」ということ。フレディ・マーキュリー役はともかく。他の3人は全然似てなくて、極端にいうと髪型で役柄がわかる感じ(今泉圭姫子さんによれば話し方はよく似てるそうな)。でも物語が進行するにつれ気にならなくなるのは、映画としてよくできてる証拠でしょうか。それぞれのキャラの描き分けはよくできていて、特にジョン・ディーコン役は仕草とか表情とかよく特徴を捉えてますねえ。ロジャー・テイラー役は、本人の方が全然かっこいい。ちなみにライヴエイドの場面でボブ・ゲルドフ役も出てくるが、これも似てねえw

◎物語はバンド結成時から年代を追って進み、一度解散状態になり、ライヴエイドで大復活するまでのお話。クイーンではなくフレディの伝記なので、フレディの生い立ち、家族、コンプレックス、プライベートのことやセクシャリティのこと、もちろんエイズを患っていたことも包み隠さず全部描いている(その反面、他メンバーの生活や背景、心情などはあまり描かれない)。歴史もエピソードも一杯ある人たちなので、2時間半ぐらいの尺では当然全部描ききれるはずもないが、手際よく整理され、伏線の取りこぼしもなく、最後まで破綻なく見せる。もちろん映画的な演出というか事実関係のちょっとした改変や時系列的な入れ替えなどはありますが、ほとんど気にならないレベル。彼らのことは全部知ってるようなダイ・ハードなファンならともかく、劇中に流れたクイーンの曲ぐらいはかろうじて全部知ってる私程度のファンでは、不満はほとんど出ないはず。脚本がよくできてるんでしょうね。ちなみに映画の監修でブライアンとロジャーががっつり噛んでいるらしく、描かれているのは「全て真実」とのこと。

◎フレディの栄光の絶頂と転落、プライベートでの幸福を失い自堕落な生活に墜ちていき、スキャンダルにまみれて自壊していく過程が手際よく描かれ、彼の魅力と才能、純情さと傲慢さ、底知れぬ孤独が浮き彫りになる中盤から後半がよくできているので(「Love Of My Life」のとこはグッときた)、クライマックスのライヴエイドの完全再現シーンが生きる。ライヴエイドのシーンは素晴らしい迫力と臨場感で圧倒された。ステージ上のミュージシャンの細かい仕草もよく再現している。これは家庭用テレビのちまちました環境じゃ絶対伝わらないところなので、音のいい、大きな劇場で大音量・大画面で観なきゃあかんやつですね。映画鑑賞の前に、DVDで出ている実際のライヴエイドの映像を予習で観ておくことをお勧めします。完全再現ぶりがよくわかるので。私はリアルタイムでライヴエイドのTV中継を観た時のことを思い出しました。あの時、もう落ち目、過去の遺物だと思っていたクイーンのエンタテイナーとしての凄さを改めて思い知らされたんですよね。個人的にライヴエイドはクイーンとU2のためにあったと思ってます。

◎個人的には初期のアルバム1〜3枚目ぐらいまでの話をもう少し膨らませてほしかったし、日本に関するエピソードをもうちょっと加えても良かった気がするけど、まあ仕方ないかな。ライヴエイド以降のバンド/フレディの歩みは字幕処理されるだけなので、そこに不満を持つ人はいると思うけど、映画としてはそれで正解だと思う。

◎劇中で流れるのはほとんどクイーンの曲で(当たり前)、他アーティストで流れるのはクリーム、マリア・カラスとかリック・ジェイムス、ダイア・ストレイツぐらい(ほかにもあったかも)。ほかの3つは納得だけど、クリーム「SUNSHINE OF YOUR LOVE」のみよく意図がわからなかった。フレディがガールフレンドの勤めているブティックを訪れた時に店内BGMで流れている、という設定だけど、時代設定は1970年。「Sunshine〜」は1967年の曲で、1970年にはクリームは解散している。その当時のロックは新陳代謝が激しくて、1〜2年違うだけでも、全く違う時代になる感覚だったんですよ。なので1970年でさえ、クリームは既に時代遅れのバンドという感じだった。なので時代背景を象徴する曲としては相応しくない気がするんですよね。その時旬なバンドといえばもちろんデビューしたてのレッド・ツェッペリンだけど、なぜクリームなのか。クイーンへの影響という意味でも、ツェッペリンの方が相応しい気がする。ちょっとレトロなサイケ/ヒッピー風の店という設定なのでクリームなのか、それともフレディやガールフレンドの談話で、クリームが流れていたという事実があるのか。もしかしたらツェッペリンに楽曲提供を断られてクリームになったのか。そこはすごく気になった。細かくてスイマセンw

◎とにかく期待したよりもはるかに面白いし、感動的な場面もあって、笑いあり涙ありの、とてもいい映画だった。主人公にちゃんと思い入れして観られるしね。クイーンを全く知らない人が観てどう思うかはわからないが、少しでも関心があるなら一度は観て損はないと思う。おすすめです。私も劇場公開されたらもう一度観ておきたいと思ってます。ちなみに日本時間で昨日の明け方にロンドンで行われたワールド・プレミアでは、スタンディング・オベーションが起きたとか。日本では少し控えめだったけけど、ちゃんと拍手が起きてました。11/9公開。


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