[日々鑑賞した映画の感想を書く]『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』(2021年 アミール・“クエストラブ”・トンプソン監督)(2021/7/9記)

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』(2021年 アミール・“クエストラブ”・トンプソン監督)


 オンライン試写会にて一回だけ見た記憶に基づいているので、細部に間違いがあったらごめんなさい。

 「ウッドストック」と同じ1969年夏に行われ、のべ30万人を動員しながら、その後ほとんど語られることもなく忘れ去られていた<黒いウッドストック>=「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」の全貌を描いたドキュメンタリー。監督はザ・ルーツのクエストラヴ。スティーヴィー・ワンダー、B.B.キング、ザ・フィフス・ディメンション、ステイプル・シンガーズ、マヘリア・ジャクソン、ハービー・マン、デヴィッド・ラフィン、グラディス・ナイト・アンド・ザ・ピップス、スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン、モンゴ・サンタマリア、ソニー・シャーロック、アビー・リンカーン&マックス・ローチ、ヒュー・マセケラ、ニーナ・シモンなどが出演。50年以上もほぼ未公開のまま保管されていたフィルムから編集したもので、単に昔の演奏映像を繋げただけでなく、当時の社会状況なども絡め、出演者など当時の関係者、ジャーナリスト、観客などが往時を振り返っていろいろコメントする映像もミックスされる。

 <黒いウッドストック>と言ってもウッドストックのような郊外の農場みたいなところでの開催ではなく、ニューヨークのハーレムのど真ん中の公園みたいなところで6〜8月の毎週日曜の午後3時から、計6回にわたっておこなわれたもので、サマーソニックのような都市型フェス……というよりは街のお祭りの催しが大規模になった感じに近く、実にピース&親密な感じ。街中での開催、しかも入場無料で誰でも出入りできるから、特に音楽好きだけではなく、子供から老人から、老若男女ほんとうに分け隔てなく集まっている。もちろんハーレムでの開催だから客はほぼアフリカ系。3万人ぐらい入る広大な敷地に見渡す限り黒人たちがごった返している光景は壮観だ。
この催しは当時全米で頻発していた黒人暴動を沈静化させるため、殺伐とした世相の一種のガス抜きみたいな意味合いがあったと冒頭で語られる。当時のNY市長が全面的に協力したイベントにもかかわらずNY市警が警備を拒否して、仕方なくブラックパンサー党がセキュリティを担当したなんて話も出てくる。実際ブラック・パワー運動が最高に盛り上がっていた時期の開催であり、この映画も現在のブラック・ライヴズ・マターの源流ともなる黒人解放運動の象徴、アフロセントリズムの走りとしてこのイベントをとらえている。アメリカのジャーナリズムで初めて「二グロ」ではなく「ブラック」という言葉を使ったというNYタイムスの女性記者もコメントで登場する。「Black Is Beautiful」「Black Power」というタームを象徴するイベントだし、そうしたメッセージがステージ上から放たれたりするが、しかしイベント自体は政治集会めいた堅苦しさなどなく、熱気と興奮あふれるというよりはもっと穏やかで日常と地続きな感じの、実にピースフルなもの。その雰囲気をこの映画はよく捉えている。ちなみに映像は50年も放置されていたとは思えないぐらい良好です。

 才気に満ち溢れた若きスティーヴィー・ワンダーの勇姿、1年前に非業の死を遂げたキング牧師に捧げる、ゴスペルの女王マヘリア・ジャクソンとメイヴィス・ステイプルズの、会場を異次元に導く歴史的熱唱、ウッドストックでもベスト・アクトの一つと称された当時人気絶頂のスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンの圧巻のパフォーマンス、そして後世に語り継がれ、聴くものの人生を変えたニーナ・シモンのメッセージ・・・この約50年間、ほぼ完全に未公開だったことが信じられない、音楽の頂点を極めた貴重すぎる全てのシーンがハイライトと言える。(上記リンク先の概要欄より)

 個々のアーティストのプレイが素晴らしいのは言うまでもないが、今も存命のアーティストたちが映像を見ながらあれこれ語るシーンが実に感慨深い。フィフス・ディメンションの人が50年も前の若い頃の自分のライヴ映像を見て涙ぐむところとかかなりグッとくる。黒人なのに白人みたいなポップスをやりやがってと批判されたこととか、あるいはスライ&ザ・ファミリー・ストーンのドラマー(白人)が、黒人と白人の混成バンドが当時まだ珍しく、ずいぶん批判されたみたいなことも語っている。マヘリア・ジャクソンと共演した時の感激をつい昨日のことのように語るステイプル・シンガーズの人とか。演奏場面で個人的に一番かっこいと思ったのはニーナ・シモンだった。クール!

 いずれにしろブラック・ミュージックに少しでも関心があるなら、アメリカ黒人の文化と伝統について知りたいなら、60年代末から70年代初頭のリベラルで自由で解放された空気を味わいたいなら、現在のLGBTQやBLACK LIVES MATTERに連なるマイノリティの自由と解放の歴史を知りたいなら、そして音楽の力を感じたいなら、絶対に見逃しちゃダメです。私も劇場公開されたら大画面&サラウンド音声を堪能するつもり。

 このイベントを収録したフィルムを売ってマネタイズしようとしたが誰も買い手がつかず50年間地下室に放置してた、という主催者のコメントがあるが、これを発掘し権利を買い取り、こうして素晴らしい映像作品として完成させたプロデューサーの人に最大限の敬意を表したい。(2021/7/9記)

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