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伊藤彰彦著『映画の奈落』が凄い。

いやー凄い本を読みました。間違いなくこれまで読んだ映画本の中でもベスト。

 1977年に公開された深作欣二監督/高田宏治脚本/松方弘樹主演の東映映画『北陸代理戦争』を巡るドキュメンタリー。主人公のモデルとなった「北陸の帝王」と言われた福井のやくざ組長が、映画公開の2ヶ月後に映画と同じ状況で対立組織に射殺されたという「三国事件」で有名なこの作品がいかに作られ、それが現実の抗争事件にどんな影響を及ぼしたか。そして東映映画史においてどんな位置付けが可能なのか。映画および事件に関わった人たちのその後の人生までも、高田宏治を始めとする関係者への綿密な取材と資料分析、緻密な脚本解析によって解き明かす。一本の映画、それも数あるプログラム・ピクチュアのひとつに過ぎない作品なのに、これほどのドラマが潜んでいるとは。

 タイトルの「映画の奈落」とは、本書に於ける高田の発言「生きている人、生きている事件をネタにするのはこわい。しかし、奈落に墜ちる覚悟でつくらなければ、観客はついて来えへん、見物がのぞきたがるような奈落に突き進み、それをすくいとって見せなければ映画は当たらへん、奈落の淵に足をかけた映画だけが現実社会の常識や道義を吹っ飛ばすんや」から来ている。映画という魔物にとりつかれ、振り回され、奈落に落ちていった男たちの闘争と葛藤の物語は恐ろしくも魅力的だ。読み終わるのが惜しいと思えるほど濃厚な内容でした。

 ちなみに深作欣二はこの作品を最後に、生涯やくざ映画をとることはなかった。

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