[映画評] vol.22 ルカ・グァダニーノ監督『サスペリア』2019年1月公開

 ルカ・グァダニーノ監督『サスペリア』の試写を見ました。もちろんダリオ・アルジェンド監督の『サスペリア』(1977)のリメイク版です。音楽はレディオヘッドのトム・ヨーク。

 2時間半もあるので、寝不足の身で行ったら居眠りしそう……とか案じていたら、最後まで全然退屈しませんでした。といって波瀾万丈のスペクタクルなストーリーや派手な視覚効果があるわけではなく、どちらかといえばあえて抑揚を抑えたような展開が淡々と続くのに、最後までヒリヒリするような狂気じみた緊張感が途切れない。

 お話の方はオリジナル版のリメイクというより、1977年のドイツのダンサー・スクールという舞台設定と発想だけ拝借したオリジナル作品に近い。ストーリーが進むにつれ、話がどんどん広がっていて、単なるカルト・ホラーというよりドイツの歴史の闇に潜む邪悪な狂気を引っ張り出したような、恐ろしく重層的で奥行きのある、美しく物悲しくいびつな作品になっている。そのいびつさがたまらなく魅力的だ。全体の構成は舞台劇のようでもあり、バレリーナたちの踊りは暗黒舞踏のよう。パゾリーニっぽいところも少し。

 お話はかなりこみ入っていて、一回見ただけでは全部を理解するのは困難だし、ここで簡単に紹介できるほどシンプルでもない。謎も一杯積み残されていて、たぶんその「謎解き」を巡って世界中にリピーターが増殖するような、そんな作品だと思う。私も劇場公開されたらもう1度見に行くつもりです。

 映像はきれいだし音響効果も抜群。トム・ヨークの音楽は意外に控えめというか、そんなに目立たず映画を盛り上げている。ちなみに主題歌の曲は映画にとても合ってます。サントラ盤は各ストリーミング配信サイトでも聴けますが、録音が抜群にいいので、できればハイレゾで聴くことをお勧めします。国内の配信サイトではまだ売ってないので、こちらから

 とにかくオリジナルとは全然違うタッチの作品なので、たぶんオリジナルの熱心なマニア(欧米には多い)からは賛否両論でしょうが、私は大好き。ホラー映画としてみるとそんなに怖くないけど、じわじわと効いてくる感じ。残虐シーンやエロチックなシーンがなくもないけど、でもそれが売りではなくて、とにかく美しい。万人にお勧めとは言いませんが、一度は見る価値はあります。それにしてもルカ・グァダニーノ監督、あの名作『君の名前で僕を呼んで』の次作がこれっていうのはすごいですね。



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