追悼アンディ・ギル

R.I.P. Andy Gill

 昨年10月の来日公演が最高だったギャング・オブ・フォーのアンディ・ギルが呼吸器疾患で死去(amassの記事)。去年の来日公演は3月に予定していたのがアンディの病気で延期になったものだった。症状が回復したので来日できたんだけど、おそらく全快はしてなかったんだろう。でもライヴは本当に最高だった。当時Facebookに興奮のまま書き殴った。

https://www.facebook.com/dai.onojima/posts/10220627086409904

今日はギャング・オブ・フォーのファースト再現ライブ@渋谷DUO MUSIC EXCHANGE。正直、さして期待もせず見たのだが、びっくりするぐらい良かった。ていうか最高だった。アンディ・ギル以外は再結成後に参加した若いメンバーばかりだが、そのせいか年寄りの同窓会みたいな緩みは一切なく、ダラダラしたおしゃべりもだらけきった笑顔もなく、終始ピリピリした緊張感が漂っていて素晴らしい。演奏はキレキレでエネルギーも凄い。若いリズム隊がかなりの腕達者で、ヴォーカリストは気合い十分で咆哮する。全員(アンディ以外)、よく動く。ヴォーカルはオリジナルメンバーのジョン・キングと似た声質で、昔の曲でも違和感はない。でも、これは断言してもいいが、オリジナル・メンバーでやってもこんなエネルギッシュで現役感覚のあるライヴは絶対できないと思う。何も言わないでもわかりあえるような同年代のオッサンじゃなく、ほとんど自分の息子以下の年齢の若造相手にガチンコで勝負してるアンディ・ギルは偉い。そしてレジェンドな年寄り相手でも臆せず容赦せず切り込む若造も大したもの。正直、今のギャング・オブ・フォーが新人としてデビューしたら、ブラック・ミディなどメじゃないぐらい話題になるんじゃないか。明日は代官山ユニットでライヴ。明日はファースト再現じゃないけど、迷ってる人は絶対見るべき。



 アンディとはだいぶ前に、彼がポリシックスのアルバム(『Now Is The Time』2005年)をプロデュースしたときに渡英して、彼のスタジオで対面取材している。きちんとした温厚なインテリって感じで、昔のこともいろいろ話してくれた。電話でも何度か取材している。去年の来日時も取材の話があったけど、その時は諸事情あって現場には立ちあえず、質問だけ考えて編集者に託した。こんなことになるなら、無理しても立ち会えば良かったと後悔している。インタビューそのものは2020年1月号のロッキングオンに掲載されている。

 あの時代のパンク/ニュー・ウエイヴを聴いていた人なら、ギャング・オブ・フォーのファースト・アルバム(『Entertainment!』1979年)がいかに衝撃的だったか、そしてアンディのギターがいかにインパクトがあって、後進に絶大な影響を及ぼしたか、みな知っているだろう。あのころは「ポスト・パンク」なんて言葉も、「ディスコ・パンク」なんて言葉もなかったけど、パンクが破壊し尽くしたあとの新しいロックのあり方みたいなものを、GO4のファーストは鮮やかに提示していた。

Spotify
https://open.spotify.com/album/1UMvR1rwj9EzLnbj4L6Zoy?si=VRLK1sjkTzuKX-QZyDBLqw

 たぶん当時のアンディの影響力は、(規模はだいぶ違うけど)、U2のジ・エッジに匹敵するぐらいだったんじゃないか(amass『ギャング・オブ・フォー アンディ・ギルの訃報を受け、さまざまなミュージシャンが追悼コメントを発表』)。ただ彼自身の関心は自分の特異なギター・スタイルを研ぎ澄ませていくんじゃなく、音楽全体をトータル・プロデュースする方向に向かっていった。ギターはあまり弾かなくなって、サウンドもより洗練された方向に向かっていった。GO4の強みはどう見ても彼のギターなんだから、なぜそれを活かす方向に向かわないんだろうと当時は不満だった。それというのもGO4のファーストのインパクトがあまりに強烈すぎたから。そのイメージみたいなものはたぶん良くも悪くも彼の生涯につきまとったと思う。それが重荷になったのか、結局自分の音楽はやらなくなって、しばらくプロデュース業に専念したりしていた。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのファーストのプロデュースをした時に、昔の尖ったイメージを求めていたレッチリのメンバーともめて、あとからボロカス言われりして気の毒ではあった。同じことの繰り返しはしたくない、常に新しいことをしたいという人だったから、GO4が初期のままでいることはありえなかったわけだけど、音楽の形態は多少変わっても、あのギター・スタイルだけでも音楽の中に残しておけばだいぶ違ったんじゃないかという気はする。でもGO4の再結成(2004年)以降の活動は順調だったように見えたし、自分以外若いメンバーに入れ替えての去年の来日公演は、書いた通り往時のカッティングエッジな姿を完全に取り戻しているように見えた。

 享年64歳。本当に残念です。レッチリのフリーのインスタグラムによれば、GO4のトリビュート・アルバムというのをアンディは企画していて、フリーもそこに参加し、音源をアンディに送ったばかりだったという。彼らが長年の確執を水に流して和解したのだったら良かったけど、願わくばもう少し早ければ……昨日のヒュー・コーンウェルの来日公演も素晴らしかったけど、人生はいつ何があるかわからない。ライヴは見られる時に見ておいたほうがいいです、ほんと。


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