[追悼] 鈴木カツさんの想い出

 音楽評論家の鈴木カツさんが昨日、亡くなられた。長い間ガン闘病されていたという。


公式サイト「Katsu Suzuki's American Beat」

 アメリカン・ルーツ・ミュージックに関する知識や愛情、洞察の深さでは右に出る者のいないカツさんだが、私には忘れがたい個人的想い出がある。2005年の輸入権問題の時のことだ。


Wikipedia 「音楽レコードの還流防止措置」

 私たちが反対運動を始めた時、事態を憂慮したカツさんから、大先輩としてさまざまなアドバイスをいただいていた。そして、改定著作権法の成立を阻止するため、集会を開いたり、音楽業界人の声を集めて声明を出したり、記者会見したり、つてのある野党国会議員に陳情したり、慣れない政治運動に悪戦苦闘する過程で、カツさんから、カツさんの地元(茅ヶ崎)選出の自民党議員である河野太郎に話をしてみてはどうかと提案があったのだ。河野議員と親交のあるカツさんに連れられ、私は衆議院議員会館まで陳情しにいった。慣れないスーツを着て。河野議員に対峙した時のかってない緊張感は、忘れようと思っても忘れられるものじゃない(笑)。結局陳情の甲斐なく改定著作権法は成立してしまったけど、さまざまな付帯決議がつき、マスコミ的にも大きな注目を集め、音楽業界は法律の無茶な運用ができなくなった。輸入盤は今でも普通に買えている。反対運動も、河野議員への陳情も無駄ではなかったと思っている。共産党も含む全政党が賛成という逆風の中、著作権法改定を推進していた自民党の有力議員にまで辿り着けたのは、間違いなくカツさんのおかげだった。

 はるか年下の、しかもほとんど面識もなく仕事の守備範囲も違う私にも、偉ぶることなく優しくフランクに接してくださったカツさん。輸入権問題が収束してからはお会いする機会もなくなり、SNSでも繋がっていなかったので、ここ数年は著作の刊行のニュースで近況を知るぐらいだった。その程度の仲である私がご家族からご逝去の連絡をいただけたのは、きっとカツさんが私のことをご家族に話されていたからだろう。カツさんにとっても河野議員への陳情は、忘れがたい想い出だったのかもしれない。

 晩年の不義理を悔いています。カツさん、長いことお疲れ様でした。そして、ありがとうございました。心からご冥福をお祈りします。

 今年出たカツさんの最新刊「ロスト・ミュージック・オブ・アメリカーナ」、心して再読します。


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