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【黄昏学園#6'】塞翁 小虎

 ★→主催者の文章
 ☆→参加者の文章
無印→私の文章


【調査開始】
From:塞翁 小虎

 再開発地区をうろついてたら、迷宮に入れたみたいっす。
 おれ、今の箱猫市の毎日が最高に楽しくてしあわせなんで、たぶん迷宮攻略は楽勝だと思いますよ!

 せっかく制服のままで来たんで、これから黄昏学園に行ってみますね。
 迷宮の解決部のみんなは、こっちではどんな感じなんだろう。きっと現実世界と一緒じゃないかな?
 みんなに会えるのが楽しみ! 今からわくわくっす。


【途中報告】
From:塞翁 小虎

 おかしい。
 黄昏学園でオダネネを見かけたんで声をかけたら「あ? 誰だお前、チャラい格好しやがって、ナンパか? しね」って足蹴にされました……。

 榎本さんには「私には君のような桃色頭の知り合いはいない。人違いじゃないか」って冷静に言われましたし、ニノマエくんに「すみません塞翁です!」って申し出ても「はじめに謝るあたり謝意王という名に相応しいが、誰だ君は」って、不審者を見るまなざしを向けられました……。

 あと、おれの席、なんか別の人の席になってるみたいで……。
 迷宮のおれも見当たらないし、どうなってるんだろ。
 ここ、おれが望んだ、しあわせな日々を繰り返す迷宮なんすよね?

 なんだかよく分からないので、いったん家に帰ってみます。


【途中報告】
From:塞翁 小虎

 おれが暮らしていた塞翁の家は、ちゃんとありました。
 でも、知らない家族が暮らしていました。

 さすがにおかしいと思ったんで、おれ、箱猫市役所に行ってきました。
 財布にマイナンバーカードを入れてたんで、それを使って住民票を出してもらおうと思って。

 でも、塞翁小虎の住民票は存在しませんでした。

 やっと分かりました。
 ここは、高校進学のときに、おれたち塞翁一家が箱猫市に越してこなかった世界です。
 箱猫市に来なくて良かった世界が、おれの望んだ「しあわせな世界」だったんですね。

 今、箱猫駅に向かっています。
 おれの故郷に行けば、この世界のおれに会えるかもしれないので。


【途中報告】
From:塞翁 小虎

 電車に乗った次の瞬間、おれは箱猫駅のコンコースに立っていました。
 何度やってみても同じです。
 この迷宮は、箱猫市から出られないみたいです。

 行くところがなくて、バイト先のTSUTAYAに行ってみました。
 おれに良くしてくれた先輩も、仕事を教えた後輩も、おれを見ても、誰も何も言いません。

 まるで「存在が消えた人」になったみたい。

 

 ……いけない。
 弱気になっちゃ駄目ですね。しゃんとします。
 ここは現実じゃなくて、迷宮なんだから、何があっても不思議じゃない。

 これから、この迷宮を作った魔女を探します。
 魔女を見つけて、やっつけて、みんなのいる現実に帰ります。


From:塞翁 小虎

 おねがい、とどいて!


【途中報告】
From:塞翁 小虎

 ……やっと書き込めた!
 ずっと掲示板に書き込めなかったんです! ほんとに良かった!

 前の書き込みから、一ヶ月が経ちました。
 この一ヶ月間、なぜか現実世界の誰とも連絡できなくて、すごく心細かった。
 これだけ連絡がなかったら、一ノ瀬さんはきっとサルベージしてくれたと思うので、この迷宮と現実では、時間の流れが違うのかもしれませんね。

 これから一日一回はこまめに連絡するので、もし長く間があくようなら、そのときはサルベージをお願いします。

 ここ最近はネカフェに寝泊まりして、ずっと魔女について聞き込みしてました。

 ……ずっと、悪い夢を見ていました。
 一面の銀世界に、ひとりぼっちでいる夢です。雪が降り続けて、寒くて、辺りを探しても誰もいなくて、怖かった。
 あと、最近なんだか、身体が熱くて。熱でも出てるのかな、おれ。

 この世界は一日をループしているだけあって、ちっとも目新しい情報が得られなかったんですが、きのう、やっと、魔女のことを知ってる人に会えました。

「塞翁小虎くん」って名前を呼んでもらったの、すごくひさしぶりで、うれしかったな。
 今日、その人ともう一度会う約束をしてるので、これから話を聞いてきます。

 ……あれ。
 でもなんであの人「塞翁小虎」を知っているんだろう。



To:塞翁 小虎
From:榎本 沙霧

私の時もそうだったが、やはり迷宮からこちらの掲示板にアクセスするのには、些か通信に不安があるようだな。

効果があるかはわからないが、いくつか掲示板の予備サイトを用意しておいた。もしこの掲示板に書き込めない場合は、予備の掲示板を使ってくれ。私の方で転記しておこう。

それと塞翁君が無事こちらに戻って来れる事を祈っているよ。助手にいなくなられると私も困るからな。


To:榎本 沙霧
From:塞翁 小虎

榎本さん!
メッセージありがとうございます!
掲示板の予備サイトまで!!
すごく嬉しい、ありがとう!

お言葉にあまえて、この掲示板に書き込めなくなったときは、予備を使わせて貰いますね。

絶対に無事に帰ってきます。
おれ、まだまだ榎本さんの助手として頑張るつもりなんで!

これから待ち合わせがあるんで、手短ですが失礼します。

榎本さんもお祖父さんの言いつけを守って、お家でしっかり養生してくださいね。


【DM】
To:一ノ瀬 濫觴
From:塞翁 小虎

 魔女と会って話してきました。
 取り引きを持ち掛けられて、こちら側の人間にならないかと誘われました。

 ……お願いします。
 どうか答えてください。

 これは、一ノ瀬さんが瑞木くんに話していたことや、五十鈴さんの話をもとにした、おれの推測ですが、

 迷宮は、観測者である魔女が消えたら消えますか?
 観測者である魔女は、迷宮と一緒に消滅しますか?

 この仮説が合っているなら、
 前に一ノ瀬さんは、迷宮の住人は本物じゃないから、死人が出ようと問題はないって言ってましたけど、

 迷宮とともに消滅する魔女なら、
 おれが消しても構わないんですか。



From:一ノ瀬 濫觴
 その通りだよ、塞翁君。
 迷宮を消せば魔女は消える。魔女を消せば迷宮は消える。
 
 そして迷宮の住人となった以上、迷宮が消えた魔女はこちらでも存在がなくなる。「その人物がいた」と振り返れるのは私たちぐらいなものだろう。
 
 塞翁君に任せるよ。
 そこの魔女を消しても大丈夫だ。
 
 あとサルベージの件は了承したよ。もし帰ってこれそうになければ、すぐにドローンをこちらの判断で飛ばす。
 無事を祈ってる。


【DM】
To:一ノ瀬 濫觴
From:塞翁 小虎

 返答ありがとうございます。
 やっぱりおれの憶測通りだったんですね……。

 返事に1日猶予を貰ったので、どうするか、明日までゆっくり考えてみます。

サルベージの件もありがとうございます。いざというときは、よろしくお願いします。


【解決済】
From:塞翁 小虎

 魔女を拘束しました。
 現実世界の人間が魔女を打ち負かしたという事実から、もうすぐこの迷宮は消滅すると思います。

 ……一ノ瀬さん、きのうは変な質問をしてしまって、申し訳ありませんでした。
 せっかくいろいろ教えてくれたのに、結局こんな選択しかできなくて、ごめんなさい。おれはやっぱり、女性に暴力を振るうような真似はしたくありません。

 お願いします。
 おれと一緒に、最善さんもサルベージして下さい。

 魔女の最善さんは、二次くんのお姉さんであり、あなたと解決部での活動をともにした仲間だと聞いています。
 一ノ瀬さんなら、最善さんを救う方法を知ってるんじゃないですか。
 解決部のみんなで愛川さんを救ったように、迷宮の住人になりかけた榎本さんを、逆ヨモツヘグイで救ったように。

 ……もしそれが叶わないなら、せめて最善さんと、きちんと言葉を交わしてからお別れして下さい。
 最善さんは、一ノ瀬さんと二次くんにとって、危険をともにした仲間であり、血の繋がった家族ですよね?

 今このままお別れしたら、絶対に後悔します。

 ……それから、もし最善さんがおれについて何か話したとしても、どうか全部聞き流してください。
 彼女が言ったことは、誰にも、何も言わないでください。

 サルベージをお願いします。
 おれ、ずっと身体が熱くて、頭がぼうっとしてて。

 はやく家に帰って、ゆっくり眠りたい。
 伊織姉ちゃんや、竜希や、解決部のみんなに、会いたい。


【DM】
To:一ノ瀬 濫觴
From:一ノ瀬 濫觴

 やあ、こんにちは。もうひとつの世界の私。
 驚いたかな? でも、こちらの世界にも解決部は存在していて、ハッカーとしても優秀な榎本沙霧が在籍しているんだ。そんなに不思議なことでもないだろう。

 もうすぐこちらの世界は消滅する。
 こちらに迷い込んだ塞翁小虎が、こちらの世界の守護者の二次最善を倒してしまったからね。

 一ヶ月前、塞翁小虎がこちらの世界に入ったことを確認した最善君は、この世界に干渉し、そちらの世界と時間の流れを変えた上で、彼の連絡手段を絶った。

 長いあいだ、そちらの世界の観測者もなしに、こちらの世界の人間に、まったく異なる印象を与え続ければ、塞翁小虎の存在証明は揺らぎ、消滅すると踏んでの作戦だった。

 だが、塞翁小虎の存在に変化はなかった。

 おかしいと感じた私は、もともとそちらの世界の住人だった最善君と、そちらの世界の塞翁小虎について調べ上げた。

 ネットや新聞記事や報道では、塞翁小虎は「誘拐事件に巻き込まれた被害者」という扱いだった。

 だが、真相はもっと醜悪なものだ。
 おおよそ、政治的な圧力が掛かった結果、事件の大半は闇に葬られたのだろう。

 ここで長々と説明をするつもりはない。
 私なら、私と同じ真相に辿りつくはずだからね。
 だから、今はただ、生き残ったもうひとつの世界の私に、賞賛の代わりに助言を贈ろう。

 

 私の代わりに、塞翁小虎を始末しろ。

 

 彼は誘拐事件に見せかけた事件で、中学二年のときから後天的に、存在証明を必要としない存在になっている。
 そういう弱点のない人間が魔人化したら、手に負えないことになる。
 このまま彼を解決部に置いて、箱猫市や迷宮に関する知識を与え続けることは、世界を滅ぼす種に水をやるようなものだ。 
 
 さらに、そちらの世界の掲示板を覗かせてもらったのだけれど、彼は過去に平坂の迷宮で、迷宮の食べ物を食べているね。
 この一ヶ月間も、彼は生きるために、こちらの世界の食物を摂取している。

 ヨモツヘグイ。
 生きた人間が黄泉の食物に手を出して、黄泉の住人になるように。
 異なる世界の食物を食べて、異なる世界の住人になるのなら……まだ、いい。

 けれど、絶対的に存在が揺らがない人間は、異なる世界の住人には変容できない。
 あとは、異なる世界に限りなく隣接する、魔人に変容するしかないだろう。

 私たちは別の世界のためにも、塞翁小虎をここに留めておかなければと思った。
 最善君が接触して、彼の過去の暴露を材料に、取引を持ち掛けたが、交渉は決裂した。

 あとは君も知っての通りだ。
 最善君も懸命に塞翁君を捕縛しようとしたが、やはり絶対的に存在が揺らがない者に、最善君が敵うはずもなかった。

 これはすべて事実だと誓おう。
 そして、私は私に、私の成すべきことを託す。
 魔人に変容する前に、この世界のおわりに巻き込んで、塞翁小虎を始末するんだ。

 

 ……ああ、時間切れのようだ。
 解決部の部室に、白い翳が降りはじめた。
 私たちの世界の、おわりのはじまりだ。

 まるで雪が降っているようだ。
 塞翁小虎について調べた際に、彼がとてもやさしい人間だということは、私も知ったつもりだったけれど。

 世界のおわりまで、こんなにやさしくするとは、皮肉だね。



【礼文】
From:一ノ瀬 濫觴
 お疲れ様、塞翁君。
 君と一緒に最善君もサルベージさせてもらったよ。
 
 だが残念なことに、結局は迷宮の住人で存在証明ができないってことなんだろうけど、数分で彼女は消えてしまった。
 それでも幾ばくかの言葉を交わすことができた。他愛のないことだから詳細は省いておく。
 二次君のことも気にかけてくれてありがとう。彼女が残した言葉は、彼にも伝えておくよ。
 
 長期間の調査、大変だっただろう。あちらに取り込まれかけていることもあるみたいだし、ゆっくり休んでくれ。
 
 むこうの私の言葉は気にしなくていい。
 解決できない謎などない。もし君が魔人になることがあっても、その時は私が責任を持って塞翁君の迷宮を解決し、全部消してみせる。
 向こうの私は些か諦めが早いようだ。往生際の悪さも生きるのには必要だよ。覚えておいてくれ。



To:織田寧々、榎本沙霧、一阿刀、卜部麻乃、六丸七角
From:一ノ瀬 濫觴
 もう知ってるかもしれないが、塞翁君は魔人となる可能性がある、危うい状態になっている。
 もしそうなったときの為に覚悟だけはしておいてくれ。
 特に仲の良さそうな君たちにだけは先に話しておく。
 とりあえず今は変わらずに接してあげてくれ。それじゃあ彼をよろしく。



To:一ノ瀬 濫觴
From:織田寧々

あ?何の話だよ。榎本はチビになってるし、次は小虎か?意味わかんねーよ。魔人ってなんだ?魔女と同じ存在になるってことか?小虎が?訳わかんねーよ。



From:榎本 沙霧

一ノ瀬君、回りくどい言い方はやめてくれ。覚悟とは何の覚悟だ。悪いが私には覚悟するような事など何もないよ。

改めて言われなくても、助手の面倒は私が見る。余計な口出しは無用だ。



To:一ノ瀬 濫觴
From:一 阿刀

覚悟する気はないよ。もう――傍観者でいる気はない。



To:一ノ瀬濫觴
From:卜部麻乃

覚悟ですか……かく…ご……
小虎先輩のために、卜部にしかできないことがあるのなら

卜部は、“覚悟”しますよ


【返礼文】
From:塞翁 小虎

 一ノ瀬さん、サルベージありがとうございました。
 最善さんのことは残念ですが、すこしだけでも言葉が交わせたみたいで、良かった。
 おれから言うのも変かもしれませんが、お姉さんをなくした二次くんのこと、どうかよろしくお願いします。

 ヨモツヘグイを続けたせいで、おれも榎本さんみたいに、迷宮の住人になるところだったのかな。
 身体が熱いのもそのせいですかね?
 お言葉に甘えて、しばらくゆっくり休みます。

 えと……むこうの一ノ瀬さんには、おれ、会ってないんですけど……。
 魔人ですか……?

 ……ああ、でも、迷宮に魅入られたら魔人や魔女になるから、みんなと同じように、おれが魔人になる可能性だってゼロじゃないですよね……。

 でも、おれがたとえ魔人になっても、きっと大丈夫だと思います。

 おれ、へなちょこだから弱いだろうし、そうなっても、一ノ瀬さんが的確な判断をして、解決してくれるだろうから。

 腕っぷしが強い六丸くんだっているし、頭の切れる榎本さんは助手の失敗をちゃんと正してくれるだろうし、ニノマエくんは粉砕してでも止めてくれるだろうし、卜部さんが持ち前の明るさで空気の悪さを変えてくれるだろうし、オダネネだって……

 オダネネだって……

 ……大丈夫です。
 おれも往生際が悪いんで。
 まだまだ現実世界で頑張るつもりです。迷宮に逃げるような気持ちは持っていません。

 だから、一ノ瀬さんに何があったのか分からないですけど、きっとおれは大丈夫です。

 みんなの迷宮の見守りやサルベージ、お疲れさまでした。
 一ノ瀬さんも、どうかゆっくり休んで下さいね。


【黄昏Tips】
塞翁小虎は、自分が存在証明を必要とせず、存在が消えないことも、その体質ゆえに魔人に近づいていることも、まだ知らない。

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