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ポリコレが抱える6つの脆弱性


皆さん、ポリコレは好きですか?好きですよね、分かります。

ポリティカル・コレクトネスの主だった機能のひとつは端的に言えば善の普遍化、あるいはガイドライン化です。ご存知のように人間社会には、「上司の酒は断るな」とか「みんなが残業しているのに新人が帰ってはいけない」とか「無理にしなくてもよい、というのはしたほうがよいという意味だ」というような数々の不文律が存在し、私のように共感性に乏しい人間はこのような明文化されていないルールに翻弄されながら生活しています。

しかし、倫理的なルールを明文化する動きとしてのポリティカル・コレクトネスは基本的にこういった「空気」的な概念と対立するものであり、なかでも「男ならこうだ」「女はこうすべきだ」といった差別的なものであれば批判的に検討可能にしてくれます。このために、私のように「空気を読む」のが苦手なタイプの人間は「書かれていないルール」を「書かれたルール」に置き換えていく動きをおおむね支持する傾向にあると言えます。

また最近では、企業広報のみならずネット上で目立った活動をする方は誰しも、どのような発言が政治的正しさの観点から批判されるかについて知っておかなければならず、このマニュアル化された倫理規範はある意味では必須の知識と言えますが、実のところこの「マニュアル」はすでに妄信的に追従すれば全てのリスクを避けてくれるというようなものではなくなりつつあります。

今回は、「ポリティカル・コレクトネス」的なものを全面的に信頼したときに抱えることになる6つのリスクについて順番に説明したいと思います。ものすごく長いですが、読めるものなら読んでみてください。



1.政治・広告的プロパガンダへの利用


既に認知されつつあるように、政治的のみならず企業にとっても「ポリティカリーにコレクト」であるというイメージは利益を左右する重要な要素のひとつです。「良い企業」から買うことは「悪い企業」から買うことよりも私たちの気分を良くしてくれます。これを巡って問題視されているのが「○○ウォッシュ」という問題です。

たとえば、わずか数%にも満たない服のリサイクル工程をアピールしながら、貧困国の河川に廃液を流しているファストファッション・ブランド、あるいは東南アジアの薄給過酷なプラントに自社製品を外注し、一方で海洋保護をうたっているグローバル企業のように、環境保護への努力を盾に別の深刻な問題をかき消そうとするイメージ戦略をグリーンウォッシュと呼びます。

政治分野では、パレスチナ人への弾圧や人権侵害というもっと深刻な問題を抱えるイスラエル政府がセクシャルマイノリティへの理解を示すことであたかも「人権国」であるかのようにアピールしたことが「ピンクウォッシュ」だと批判されました。このように、ある取り組みを別の問題をかき消すために利用したり、または実態の伴っていない取り組みを総じて~ウォッシュと呼びます。

似たような例で日本人の私たちにもっと身近なものを挙げれば今年、宮下公園のリノベーションに伴ってそこに住みついていたホームレスを強制排除した渋谷区が、一方では同性パートナーシップを押し進めて「LGBTフレンドリー」をアピールしていることもピンクウォッシュ的な戦略だという批判を受けています。

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