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「プライドが高くて自己評価が低い」という矛盾

「希望に対するベーシックな考え方」では、一般に多くの人は自分が不幸であったり、不完全であると感じるとき、何かを得ることによってそれを補おうとすると説明しました。

そしてその考え方がどういう問題を起こすかというと、単純に、自分が不完全であるという思いの強い人ほど、より高い希望、より強力な自己実現、より確かな存在証明によって自己を補強しなければならなくなり、現実の厳しさに反比例して夢や希望はもはや不可能な領域まで、天井知らずで上がってゆくことになるのです。言い換えれば、心に空いている穴が大きいと考えているほど、大きなものでそれを穴埋めする必要が出てくるために、不幸な人が見出すべき些細な幸福、気休めの類がますます目に入らなくなるわけです。

自分自身に問題を抱えている人は、何かを得ることによってその問題から逃避しようと考えますが、そこで一種の虚無感にぶち当たることになります。つまり、どんなに素晴らしいと考えたものでも、手に入れた途端に色褪せてしまい、自分もろともみじめに思えてくるのです。



絶望者は何かについて絶望する。一瞬それはそう見える、しかしそれはほんの一瞬間だけである、―――その同じ瞬間に真実の絶望がすなわち絶望の真相が示される。彼が何かについて絶望しているのは本当は自己自身について絶望しているのであり、そこで自己自身から脱け出ようと欲するのである。かくて支配慾のある者―――この男の標語は「帝王か然らずんば無」である―――が帝王にならない場合、彼はそれについて絶望する。だがそのことの真の意味は別の所にある、―――すなわち彼は帝王にならなかったが故に、彼自身であることが耐ええられないのである。
(「死に至る病」、キルケゴール)


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