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善意のメリット

心理学は、私たちの精神が無意識下では他者との境界をあいまいにし、他者の感情を受け取り、あるいは自分の感情を他者に押しつけていることを扱ってきた。投影では、私たちの否認した感情が他者から出現する。たとえば私がなにか不正を働いているのを隠しているとき、周りの人間の態度は変わっていなくとも、私の中には彼らがそれに気づいて私に嫌がらせをしているという認識が生じる。あるいは、私が内心軽蔑し、攻撃的な感情を持っている対象に対して、その対象が私を憎悪し、攻撃的な感情を隠し持っているのではないかという疑念が生じる。

反対に、私たちは他者に共感したり、その考えを無自覚のうちに内在化して自分のものにする。これらの過程は自我の同意を得ることなく、つまり無意識のうちに進行する。それゆえに、私たちはある面では自我とは他者であるという事実を認めざるを得ない。

無意識のうちに他者とのつながりを持つ自我は、自己ー世界、自己ー他者という隔絶が前提にあり、それゆえに私は私であるという確立を約束されていた西洋的自我の前提と根本的に異なるものだったといえる。



私が他者に対して思うことは、他者が私に思うことである



「繊細な」自己責任論者


「知らないうちに他者に影響される」脆い自我は、他者との境界に防壁を構築し、その影響力から身を守ろうとする。自己責任論はその好例である。

自己責任論は、他者の苦痛に感じ入る「繊細な」感性に根ざしている。他者の苦痛に対する過剰な共感は精神生活を耐えがたいものにし、繊細な感性はそれに対して何とか無関与を決め込もうと企む。このとき、あらゆる結果は本人の行動によって招かれたものであり、その結果の責任を負うのは本人であるという偽悪的な態度を選択するのが自己責任論である。

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