女はなぜ「攻撃」されるか？―ミソジニーと母性

「とにかく大勢の赤ん坊がイラついてるの―――ママがお乳をくれないからよ。お乳が欲しいと赤ん坊は泣き叫ぶ、ママが来たときには頭に来て乳首をかむ」
「ホント？」
「ええ　拒絶するの　空腹でもね」
「つまり母さんは大人も同じだと？望む物が得られず腹が立ち―――望む物がもらえたと思ったら今度は周りに八つ当たりを？」
「そうよ」（ミッドナイト・ゴスペル）

男はなぜ女を攻撃するのか、という疑問に答えられる人はいない。私たちが知っているのはその攻撃のパターン、たとえば構造的な差別や蔑視、アシッド・アタックのような直接的な暴力、それに言論による暴力、軽視、揶揄などである。

フェミニズムやジェンダー論のような体系だてられた議論は、これらの暴力の構造を分析してきたが、この「なぜ」という部分の問いに学術的な見地から「客観的な」答えを出すことは難しい。言ってみればこの問いは、小説を題材にした国語の問題がいう「このときの主人公の気持ちを答えよ」と同じで、一意に定められる答えが存在し得ない類のものだからである（そしてもちろん、答えは主人公にさえ分からない）。

それでも、全く不可解な理由で攻撃されるよりは、少しでもそれが何を意味しているかを測るものさしが存在しているほうがましかもしれない。これから書く文章は、そのものさしのうちの一つである。

”万能な母”

まず、精神分析や心理学のおおむねの見解として、人間の自我、あるいは自己愛の原点は「不可能な万能性」に根ざしている。生まれたての赤ん坊は、自分を保護してくれる母親という「万能な存在」との精神的な境界をもたず、またそれゆえに「万能な自己」への愛情を持っている。不満に思い、泣き叫ぶだけで、赤ん坊のもとには母親が駆けつけ、愛情とミルクで満たしてくれる。この母親とは、神のように万全で、不可能のない、全ての意味で安心を与えてくれる「何か」である。