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「百王警察署何もするな課」キャラ紹介SSまとめ

メゾン文庫より2020年7月10日に「百王警察署何もするな課」が発売されました。

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以下はキャラ紹介代わりにTwitterに投稿していたSSです。

「呉越同舟署員食堂」(冬日+礼堂)

 百王警察署の地下には、社員食堂ならぬ署員食堂がある。質実剛健といえば聞こえはいいが、実用最優先の殺風景な作りだ。
 だがなにせ近いし、値段も安めなので、利用者は多い。昼飯時ともなれば席はすぐ一杯になるため、相席を頼まれることが多くなる。一般向けにも開放されているとはいえ、顔見知りばかりなのだ。所属は違えど有事の際には協力を頼む可能性も高いのだから、ちょっと気が合わない程度なら普通は快く相席を承諾する。
「赤鬼(あかぎ)と相席? 結構です」
「あいつと相席? 立って食うわ」
 何事にも例外は存在する。二人用のテーブル席に腰掛け、黙々とカツ丼を食べている赤鬼冬日(ふゆひ)の向かい側は、他の席がほぼ全て埋まってしまっても空いたままだった。誤認逮捕事件を皮切りに新たにやって来た署長から負の寵愛を受けた結果、彼に倣った多くの署員から冷や飯を食らわされている男の無表情に、少しだけ悲しみの色が混じる。
「……カツを食べるペースを間違えたな……」
「寂しいものだな、赤鬼」
 嘲りも露わに呼びかけられた冬日は、どう見ても残ったご飯が多すぎる丼から顔を上げた。礼堂(らいどう)春雪(はるゆき)。件の新任署長である爽やかなイケメンが、高慢な笑みを浮かべてそこに立っていた。
「無理もない話だ。お前のような駄目刑事と関わると、自分まで誤認逮捕をしてしまいかねない。少しでも責任を感じているのなら、身の振り方をだな……」
 責任。そう言われてはやむを得まいと、冬日は口を開いた。
「では、どうぞ」
「……なに?」
「オレが寂しそうだから、署長が相席してくださるのでは?」
「は?」
「オレとしては、テーブルが広く使えるので特に問題はないのですが……しかし署長自らが、オレの孤独を捨て置けないとおっしゃるのなら、仕方がありません」
 元はといえば礼堂の態度に署員たちが付和雷同しているのだが、こうも露骨な有様を放置すれば責任問題も生じよう。だからどうぞ、と示された空席を一瞬見てしまった礼堂は、慌てて突っぱねた。
「ば、馬鹿を言え! どうして私がお前のような、上司を上司とも思わないようなやつと……!!」
「ああ、これは失礼しました」
 我ながら気の利かないことだ。立ち上がった冬日は、反対側の椅子を引いて礼堂を促した。
「どうぞ」
「い、いや、私は……」
「どうぞ」
「私は、そんなつもりでは」
「どうぞ」
「く、くそ……!」
 得体の知れない圧に押された礼堂は、その発信源である冬日の目を避けて渋々と腰を下ろした。座っただけで何もしようとしない礼堂を冬日は続けて促す。
「それはそうと、署長も何か頼めばいかがです」
「なんで私が貴様と相席した上に食事までしなければならないんだ!?」
「単価が安い店は回転率が命なんですよ。席だけ占領して、何も頼まないのは店に悪い」
「ぐ、ぐ……それは、そうだが……」
 眉間にしわを寄せながらメニューを開く礼堂。食事抜きは体に悪いので、ちゃんと食べてくれるようで安心だ。ついでに上司なのだからここは奢ってください、と言いかけた冬日は、さすがに遠慮がなさすぎるなと思って自制した。
「お嫌いでないのなら、カツ丼にしませんか。そしてカツを一個オレにください」
 日替わりメニューを頼んだ礼堂は一切冬日に何もくれず口もきかず、食べ終えると高速で食堂を出て行った。


「こういうことがありましたので、署長は割とオレに優しいんですよ、寿(ことぶき)さん。カツはお嫌いのようですが」
「嫌われてるのはカツじゃなくて君だと思うよ?」
 現在の冬日の直属の上司である寿は、笑顔でばっさり言ってのけたのだった。

「狐と狸の負け戦」(冬日+まみ子+牡丹+秋成)

 百王警察署「何もするな課」に属する金長(かねなが)まみ子と和泉(いずみ)牡丹(ぼたん)はライバルである。
 だが、二人のライバル関係は割と清らかである。牡丹は常に狐は妖怪の代表、狸なんかより上よ的な顔をしてまみ子を馬鹿にしているが、誰かが彼女の悪口など言おうものなら率先して噛み付くのだ。それはまみ子も同様で、やれ狐は高慢だ冷酷だと文句を言いつつも、誰かが牡丹の悪口など言おうものなら以下同文。
「要するに、相手に対してはお互いにツンデレなんですよね、お二人とも」
 成長した座敷童こと蔵橋(くらはし)秋成(あきなり)は、軽薄な笑みを浮かべて話をまとめた。
「は? あたしがまみ子にツンデレ? そんな訳ないでしょ」
「そ……そうよ! 私はつんでれ? とかじゃないもん!!」
「……金長さん、さてはツンデレがなんだか分かってないですね」
とは空気の読める秋成は言わず、ヘラッと笑ってごまかした。
「すみません、話を脱線させちゃって。それじゃあ、冬日さん。冬日さんの好きなタイプってどんな子ッスか?」
「「ギャーッ!?」」
 叫んだのは、もちろん秋成の向かい側で妖怪についての資料を黙々と読んでいる赤鬼冬日ではなく、まみ子と牡丹である。真っ赤になってアワアワしているまみ子を尻目に、勝ち気な牡丹が小声で文句を付けた。
「ちょっと蔵橋、あんたストレートに聞きすぎでしょ……!?」
「だって、この人に持って回った言い方してもダメでしょ。ねー、冬日さん」
 言われて冬日は、真面目な顔で秋成をじっと見た。
「安心しろ、秋成。お前は簡単そうに見えて面倒臭いところも多いが、オレは好きだぞ」
「……ほーらダメだった! そーいうのじゃなくて、そうだ、結婚相手! 結婚相手は、どういうタイプがいいです? 可愛い系? 美人系?」
「特に好みはない」
「ぽっちゃりめが好きとか、スレンダーがいいとか……」
「どちらでもいい」
「明るい子がいいとか、おとなしい方がいいとか……」
「それぞれに良さがある。一概には言えない」
「あ、そ、そうですよね……」
 雑談のノリで持ちかけた質問に対し、返ってくるのは取り付く島もない答えばかり。さすがの秋成もテンションを維持しきれず、しおしおと撤退しかけたあたりでまみ子が横から割り込んだ。
「でも、いかにこだわりのない冬日さんだって、一つぐらい理想はあるでしょ!?」
「そうよ、なら誰だっていいってことじゃない! それなら、あたしでも……」
「あっ牡丹ズルい!! ここでちょっと弱気を見せるなんて、あざとい!」
「はんっ、あざとさは狸の専売特許とでも!? 恋は戦いなのよ!!」
「恋が戦いなら、ターゲットの前でターゲットそっちのけで争い出すあたりで、もう負け戦確定じゃないッスかね……」
 空気を読むだけ無意味と悟った秋成の乾いた述懐。当の冬日は、ワンテンポ遅れで何やら考え込んでいる。
「あえて言うなら、オレなんかを選んで家族になってくれたなら、そのままずっと家族でいてくれる人がいいですね」
 出自のせいで母に捨てられた男の望みが、「何もするな課」の中から他の音を消し去った。
「もちろん、選ばれた事実にあぐらをかいていてはいけない。そもそも刑事は家族にも仕事内容を言えず、忙しいし給料も安いので離婚率が高い。……加えてオレには、例の力もあります。オレの業が子に引き継がれる可能性を思うと、迂闊に……うおッ」
 左右からまみ子と牡丹に挟み込まれた冬日は、無表情のまま声を上げた。
「冬日、大丈夫よ。あたしたちはもう家族も同然じゃない!」
「そうですよ、なんだったら冬日さんが死んだ後も、ずっとお墓を守ってあげますから……!!」
「オ、オレも……冬日さんの子孫なら、もう財産をもたらすことは無理でも、恩返しはしますよ……」
 さすがに抱きつきはしないが、秋成も珍しく素直な親愛を示す。そこへひょっこり帰ってきた課の代表である寿は、ひゅう、と下手な口笛を吹いた。
「うわー冬日くん、今日も妖怪にはモテモテだねえ」
「あなたにはモテたくないですが」
「君なんで僕にはそう冷たいの?」

「君に寿ぎを、さもなくば」(冬日+寿)

 赤鬼冬日は真面目で仕事熱心な刑事ではあるが、休日を返上してまで職務に打ち込むほどではない。偶然犯罪を目撃すれば、現行犯逮捕の努力ぐらいはするが、日本の警察官なら誰だってそうするだろうと考えている。
 だからその日、非番だというのに「何もするな課」を訪れたのは仕事のためではなかった。
「あれ、冬日くん。どうしたの?」
「寿さん、いたんですか。今日は全員休みのはずでは?」
 常人の目には倉庫としか映らぬ扉の結界を潜り、辿り着いた職場にいたのは、赤い着物に身を包んだ怪しい上司だけだった。ノートパソコンから糸目を上げた寿は、えへん、とわざとらしく胸を反らす。
「そりゃ僕は、これでも課の代表者だからね。たまには人知れず仕事をすることだってあるのさ……」
「そうですか」
 感慨のない口調でつぶやいた冬日は、スマートフォン片手にずんずん寿へと近付いていく。寿がさり気なくノートパソコンを閉じた。
「えっ、なになに、どうしたの」
「気にしないでください、寿さんに用はありません。このあたりで……ああ、ここで反応したか」
 冬日が本日、職場に出向いたのは、同僚の蔵橋秋成とやっている位置ゲームのレアアイテムをゲットできるスポットが設定されていたからだ。何がどうレアなのかは全く分かっていないのだが、これが出たら絶対ゲットしてくださいと言い含められていたため、散歩のついでに立ち寄ったのである。
「ゲームには全然興味がなさそうだったのに、意外と続いてるね、それ。僕もやろうかなー」
「心にもないことを言わないでください」
「ねえ、本当にさぁ、君ってなんでそう僕に冷たいの……?」
「あなたがオレに、冷たくすらないからです」
 なんとかゲットしたアイテムをゲーム上の倉庫に慎重に移動させながら、冬日は淡々と答えた。
「オレだけじゃない。課のみなさんにも、あなたは何かを隠している。オレの『真眼』に、あなたはそう映っている」
 それが寿と「何もするな課」との間に壁を作っている。
「その上あなたは、オレの刀でも殺せない。警戒するのは当然です」
 斬れないわけではない。一度その腕を斬り飛ばしたことがあるので分かる。何事もなかったかのように元に戻った腕は、「斬らせていただいた」のだ。冬日の実力ではない。
「──隠し事が好きな上に勝てない上司に、はっきりそう言っちゃうんだ? 君は本当に、賢くないね」
「おっしゃるとおりです」
 上司に気に入られるような行動が取れなかったため、ここに左遷されたのだ。寿の指摘は正しい。
「ですがあなたも、そんなオレを見殺しにせずに助けてくれたということは、ご自身で思っているほど賢くないのでしょう。なら、オレが恩人の役に立てる日が来るかもしれません……あッ、しまった」
 抑揚のない冬日の声が珍しく跳ねた。うっかりして、せっかくゲットしたレアアイテムを削除してしまったのだ。
「やむを得ん、秋成には謝ろう。では寿さん、失礼します」
 完全な無駄足になってしまった形だが、そもそも冬日の趣味は散歩なのだ。こちらは達成できたのだからいいだろうと、ポジティブに捉え、回れ右して立ち去った。
「そうだね。君は役に立ってくれると思う」
 そして、役に立てなかった時は。その先の思考を打ち切って、寿は再びノートパソコンを開いた。

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小説家。「死神姫の再婚」でデビュー以降、主に少女向けエンタメ作品を執筆していますが、割となんでも読むしなんでも書きます。RPGが好き。お仕事の依頼などありましたらonogami★(★を@に変換してね)gmail.comにご連絡ください。