見出し画像

祭のまえ

あとの祭り、祭りのあと、なんて言葉がある。
祭りが終わってしまうあの寂しさはなんとも言えない。
さっきまで大勢が集まっていたのに人が少なくなるあの感じ。

さて今日は実は祭りの前日。
縁日が並ぶその道に行ってみるとテキヤの皆様が準備始め。
よく見ると出店の並ぶ道の端にはチョークでメモがある。
オコノとかヤキソとかフランクとか略してた。
地図をみながら、ここが唐揚げの~とか指定している人がいて。
何人かが印をつけていた。
まだ道路規制をしていないから、邪魔にならない場所の出店だけが荷物を降ろしたりしていた。

あんまり見たことがない光景だったのだけれど、なんとも言えない気持ちになった。
この雰囲気は知っているなぁ、なんだろうなぁと思ったら仕込みだった。
映画撮影でも小劇場でも本番前の支度が待っている。
道具や資材の搬入から始まって、図面を見て創っていく。
裏だったり横からみたら、ただの資材が組んであるだけなのに、表からみたら、ファインダーからみたら世界が出来上がっている。
映画撮影なんかだと時には泥だらけになってさ。

祭りだとかさ、小劇場だとかさ、映画だとかさ。
似ているなぁと思うのは仕込みの時点ですでに解体のことを計算に入れているところ。僕らはバラシっていうのだけれど。
建築は何十年でも百年でも壊れないものを目指すわけだけれど。
期間が決まっているから頑丈で壊れにくいけれど、同時に解体しやすいように計算して仕込んでいく。
例えば、二寸釘は撃ち込まずに頭を少し出しておく。それだけでくぎ抜きの時間が半分以下になる。その代わり必ず2点以上別の角度から力の入る方向を計算してテコになるように釘を打つ。そんな工夫があちこちにある。
祭りの出店も同じで、骨組みと幌を用意していた。小さめのプロパンガスと鉄板の位置も火が近づかないように計算して、ガスチューブも足を引っかけないように導線が計算されていた。ああ、こういうのって本にもなっていないし映像にもなっていないから全部が口伝なんだよなぁ。

ふと見るとガムテープに七味と書いてある。
ああ、ここに七味屋さんかぁ。
いつもあんまり混んでいない。
お願いすると好きなバランスで混ぜてくれる。
子供の頃、混ぜているのをみるのが好きだったなぁ。
ひょうたんの形のやつが欲しかったけど、子供だから買ったことはなかった。

祭りのあとのあの寂しさとは違うもの。
祭のまえは、なんだか少しこそばゆい感じ。
わくわくするというかイメージがどんどん拡がっていく。
それぞれが終わることをわかっていながら準備を始める。
文化祭の前夜祭のような。
なんとも言えない縁日になる道を歩いた。
もつ煮込みの仕込みをしているお店まであったよ。

ふわりと匂いが届いた。

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。